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TS星の魔法少女  作者: ゆん
第一章 星の魔法少女になった日
20/29

第十六話 臆病だから、強い自分に憧れる。でも、最初の一歩を踏み出すのは大変なの。


真由の友達は、葵よりもさらに小さな女の子だった。


「は、はじめまして……篠原志乃舞です……」


そう言ってぺこりと頭を下げた彼女は身長139センチ。愛らしい犬耳とふわふわの尻尾がついた獣人である。黒髪をポニーテールにまとめ、くりくりとした大きな瞳はこげ茶色。今にも逃げ出しそうにきょろきょろと周囲を見回していた。


「志乃舞ちゃんはね、小っちゃいけどよく周囲を見てて、気が利く子なんだ。きっと頼りになると思うよ!」

「ん。成神葵、よろしく」

「俺は如月健太。パーティリーダーだ。今日はよろしくな。」


健太が一歩前に出ると、志乃舞はびくっと肩を震わせた。長身でがっしりとした体格の健太は彼女にとってはかなりの圧迫感があるらしい。しかしその瞳は、まっすぐに健太を見つめている。


(うわぁ……おっきい……でも、なんだか、すごく頼りになりそう。それに、かっこいい……)


志乃舞の胸の奥が、とくんと小さく跳ねた。


*  *  *


「それで、志乃舞ちゃん。今日は話だけでもって思って来てくれたんだよね」

「は、はい……真由ちゃんから、お話は聞いてて……。で、でもでも私、レベルはまだ12で…。」

「そっかそっか。大丈夫、レベルは気にしていない。10を超えればEランクも入れるしな。じゃあ、俺たちのパーティについて説明するな」


四人はファミレスのボックス席に座っていた。志乃舞は真由の隣にぴったりとくっつき、時折ちらちらと健太を見上げている。


「俺たちのパーティ名は『星空』。まだ結成したばかりで、今はEランクダンジョンを周回して経験を積んでるところだ」

「Eランク……」

「ああ。戦闘自体は問題ないんだが、斥候役がいなくてな。周囲の警戒とか安全な休憩場所の確保とか、そういうのがどうしても手薄になっててさ」

「そ、それで……私に……?」

「真由から、志乃舞ちゃんはすごく慎重で周りをよく見られるって聞いたんだ。嗅覚と聴覚も優れてるんだろ?」


志乃舞の耳がぴんと立った。


「は、はい……ユニークで獣人化してからは、特に……。」

「すげぇな!そういうスキルはうちのパーティに一番足りない部分なんだよ」


健太は身を乗り出して熱心に語り始める。安全にどれだけ気を配っているかこれからどう成長していくか、パーティの方針は何か。真剣な表情で語る彼の姿はまさに頼れる探索者のリーダーそのものだった。


(……やっぱり、とても頼りになりそう。それに、すごくかっこいい)


志乃舞の心臓が、また大きく跳ねた。


(この人、強そうで、でも優しくて……それに、弱い私をちゃんと守ってくれそう……)


彼女は忍者に憧れつつも一人でダンジョンに潛る勇気を持てずにいた。コスプレや動画、書物での研究を趣味にする日々。真由に誘われてちょっと乗り気になったもののやはり一歩が踏み出せなかった。でも…臆病だと自覚しているからこそ、カッコイイくノ一に強く憧れ、いつかなってみたいと憧れてしまったのだ。ユニークの適正を得て、その憧れは日々強くなってきている。だから、この人と。大きな盾を背負い、真っ直ぐな瞳で仲間を守ると語る彼となら…。


(きっと、この人となら……)


志乃舞の尻尾が、ふわりと揺れた。


「……私、やります」


「え?」


「ダンジョン、行きます。私でよければ……その、パーティに……」


声は震えていた。膝の上でぎゅっと握られた小さな拳もかすかに震えている。それでも彼女の瞳は、まっすぐに健太を見つめていた。


「やった!ありがとう志乃舞!」

「よかったぁ!ありがとう、志乃舞ちゃん!」

「ん。仲間が増えるの、嬉しい」


健太が破顔すると、志乃舞は耳まで真っ赤になって俯いた。尻尾がぶんぶんと音を立てそうな勢いで揺れている。


(あ、あれ……?顔、見れない。もしかしてこれが噂の……一目惚れ?私ってばチョロインだったの??)


*  *  *


後日、四人での初めてのEランク周回。


「こ、こっちです……!敵の気配が三つ……岩の匂い。たぶん、ロックリザード……」

「了解!葵、右から行くぞ!」

「ん」


志乃舞は獣人化するとその能力を遺憾なく発揮した。優れた嗅覚と聴覚で敵の位置を正確に把握し、周囲の地形を頭に入れて最適なルートを指示する。


「ここ、足場が悪いです……左に迂回したほうがいいです……」

「了解だ!」

「あ、あと葵さん!天井にコウモリがいます……!音に反応するので、戦闘中は気をつけてください……!」

「ん。ありがとう」


(すごい……志乃舞ちゃんがいると、こんなに安定するんだ……)


健太は内心で舌を巻いていた。戦闘中はもちろん、休憩中も彼女は決して気を抜かない。葵がうとうとし始めるとすかさず近づいて小声で教えてくれるのだ。


「あ、あの……葵さん……右の岩陰から、何か近づいてます……」

「ん……」


葵が身構えると同時に、岩陰から巨大ムカデが飛び出してきた。しかし葵は難なくそれを粉砕する。


「ナイスだ志乃舞ちゃん!助かった!」

「あ、ありがとうございます……」


志乃舞は真っ赤になって俯く。尻尾は嬉しそうに揺れていた。


(役に立てた……私、この人たちの役に立てたんだ……!)


*  *  *


探索を終えた四人は、ダンジョンの外で休憩していた。


「志乃舞、今日は本当にありがとう。お前のおかげでめちゃくちゃスムーズだった」

「そ、そんな……私、全然……」

「いや、マジで。俺たちだけじゃ絶対に気づけないようなことばかりだった」


健太は志乃舞の両手を握り、真剣な表情で彼女の目を見つめた。


「頼む、志乃舞。お前がいない探索には戻れそうもない。どうか、正式に俺たちのパーティに入ってくれないか?」


「……っ!」


志乃舞の顔がぼんっと音がしそうなほど赤くなる。犬耳はぴんと立ち、尻尾はぶんぶんと激しく揺れている。


「わ、私なんかでいいんですか……?私、レベルも低いし戦闘も全然で……」

「レベルなんてこれからいくらでも上がるさ。それより、お前のその慎重さと観察眼は俺たちに絶対に必要なんだ」


「……!!」


志乃舞の瞳が潤んだ。小さな手が、健太の大きな手の中で震えている。


「ふ、不束者ですが……末永く、よろしくお願いしますっ!」


声が裏返っていた。尻尾も耳も今にもちぎれそうなほど震えている。真由はにこにこと、葵はいつも通り無表情でそんな二人を見守っていた。


(ああ……この人だ……私の運命の人って、こういう人のことを言うんだ……)


志乃舞は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。チョロインである。


*  *  *


「それじゃあ、まずは志乃舞のレベル上げだな」

「ん。まずはEランクの魔物を狩る。私が押さえつけるから、志乃舞がトドメを刺す。」

「えっ」

「大丈夫だ、俺が絶対に守る。指一本触れさせないから。」

「えっ。ふひゃいっ!!」


葵の言葉に志乃舞の顔がさっと青ざめ、続く健太の言葉で真っ赤に茹で上がる。

覚悟は決めたつもりだ。そう、レベルを上げるには斥候であっても、魔物を殺さないといけないのである。


(がんばれがんばれがんばれ、私!如月くんと一緒に戦うんだ……!)


意気込む志乃舞だったが目の前に現れたロックリザードを見た瞬間、足がすくんだ。


「ひぅっ……!」

「おっと、落ち着け。まずは俺の後ろからでいい」

「ん。私が抑えるまで待つ。」


葵が重力魔法でロックリザードを地面に縫い付ける。身動き一つできない魔物の前で、志乃舞は震える手でナイフを構えた。


「こ、これ……えいっ……!」


プスッ。


「ひっ……!えいっ、えいっ……!」


プスプスプスッ。


「ううぅ……!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ……!」


めった刺しである。目をつむりながら滅茶苦茶にナイフを振り回す志乃舞。その姿はとても戦闘とは呼べなかった。


「(かわいそうなロックリザード……)」

「(ん。トラウマになりそう)」


魔物を倒し、解放された存在力は”その戦闘で苦労した割合”で分配される。

通常は身動きできない魔物にトドメを刺すだけではそれほど分配されないのだが、

志乃舞にとってそれは極めて大きな精神的負担を強いるものであり、グングンとレベルが上がっていくのであった。


こうして志乃舞のレベル上げは、涙と悲鳴とめった刺しとともにしばらく続くのであった。

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