第十四話 いざ開封の儀だ。気持ちを込めて…進めぃ!
いよいよ開封の儀である。
葵の家のリビングには、色とりどりのパックが山のように積まれていた。
店舗を巡りに巡って一人あたり合計十箱。中々の戦果である。
「はいはい、みんないらっしゃい! お菓子とジュース、たくさん用意したわよ。」
静香がトレイに山盛りのお菓子と冷えたジュースを運んでくる。朱里が小さく拍手をした。
「ありがとうございます、お義母様。」
「おばさま 、ありがとうございます!」
「ん。準備万端」
「よーし! それじゃあ、いよいよ開封の儀を始めるぜ!」
「「おー!」」
(楽しみ。)
葵は胸の奥が、じんわりと熱くなるのを感じていた。
* * *
「じゃあ、順番に開けていくか。誰からやる?」
「ん。じゃんけん」
「いいね! 公平にいこう!」
大人数でのじゃんけんは、意外なほど白熱した。
最初に勝ち抜けたのは、なんと真由である。
「やったー! 私が一番乗りだよ!」
「おめでとう、真由ちゃん。楽しみだなあ。」
「えへへ、最初からシークレットレア当てちゃうぞお!」
真由は震える手で一パック目を手に取った。
包装を丁寧に破り、中からカードを取り出す。
「一枚目……レア!佐竹さんだ。この人の配信、面白いよねー。」
「おお、最初からレアかよ!Bランク上位だな。」
「うんうん、いい感じ!」
ラインナップされているのは基本的にBランク以上のみだ。一部、有名なCランクも混じっている。コモンは申し訳ないがあまり有名でない人。一般的にはあまり知られていない人たちである。レアは人気配信者等、知名度の高いBランク。そしてAランクは全てSR以上であり、人気のあるAランク上位がSSR。
極一部の、超有名人がシークレットレアである。
1箱は20パック。1パックの中には必ずレア以上が1枚、1箱の中にはSRが必ず1枚以上入っていた。なおSSRは10箱に1枚、シークレットは100箱に1枚程度の確率である。
ちなみに祖父、源一郎はシークレットレア。父、勇一郎はSSRである。
「二枚目は……あっ、Cランク。三枚目もCランク。4枚目のCランク・・・」
「うーん。まぁ1パック中にレアがあるとね。」
「最後ー!五枚目……あっ」
真由の手が止まった。その表情が、ぱあっと輝く。
「SRだ、Aランク!!だけど……知らない人だぁ。へー、珍しい。魔砲使いだったんだ。」
「おー、最初からSRか。魔砲って、大火力だけど経費がバカ高いんだよなぁ。大企業しか使えねぇよあんなの。・・・でもかっこいいなこの人」
「ん。良い引き」
「えへへー。あとでどんな人だったか調べてみよっと。」
真由はそのカードをそっと胸に抱きしめた。
* * *
次に勝ち抜けたのは健太だった。
「よし、俺も行くぜ!」
「健太君も頑張ってー!」
健太は慣れた手つきでパックを開ける。一枚一枚確認していく表情は真剣そのものだ。
「一枚目……Bランク。二枚目……お、Cランクだ。逆に珍しいんじゃね?たしかアイドル探索者だな。」
「三枚目……おっ」
健太の動きが止まった。ゆっくりとカードを引き抜く。
「俺もAランク、出たぜ!しかも知り合いだ!」
「「ええっ!?」」
全員が、健太の手元に殺到した。
「うっそ、もう出たの!? すごい! 誰々!?」
「ん。見せて」
「へっへっへ。吾郎さん、Aランクのタンクだ。SRだし世間ではあんま有名じゃないかもだけど、爺さんのパーティメンバーだろ?」
「おー!吾郎さんだ!」
「ん。じいちゃんの友達。渋い人だった。器もすごく大きな人。」
「意外と甘いもの好きで、うちに来るといっつも甘いおまんじゅう食べまくってたねー。」
カードの中では、大柄な鎧姿の男が巨大な盾を構えて立っている。
成神源一郎の盟友であり戦友であった男。幼い頃、何度も抱っこしてもらった。優しくて大きな手だった。
「おじいちゃんの友達だ……なんか、嬉しい」
「おう。俺も、この人が好きだったんだ。すげえでっかい背中だよな。かっこいいだろ」
「ん。あの災害でも一歩も引かなかったって。」
「すげえよなぁ。」
* * *
次は、朱里だった。
「ボクの分は、全部優羽のモノでいいんだが?」
「ダメダメ、朱ちゃんも楽しもうよー。」
「優羽が望むなら喜んで!ん-、そうだな。では私の後ろから、一緒に見てくれるかい?」
「ん?もちろんいいよー!えい。」
優羽は朱里を後ろから抱え込むようにして手元を覗き込んだ。頭1つ分大きく、体格も良い優羽だ。朱里をすっぽりと抱え込めてしまう。開封に興味がなさそうな朱里だが、一気に幸せそうな顔になった。
「一枚目……Bランク」
「二枚目。これもBランク」
「三枚目。……Bランク。」
「四枚目。…Bランク。」
「だ、大丈夫だよ朱ちゃん。たぶんレア以上は1枚入ってるから!」
「うむ、次だろう。…だがこの枠の光り方は、レアだな。」
「あー…。アイドル探索者のTAKUMIだね。よ、よかったね、人気者だよ!」
「ふふ、残念。優羽、このまま慰めてくれないか?」
「うん。良い子、良い子。きっと次は大当たりでるからね!」
朱里の口元が、ふわりと緩んだ。…まぁこの人にとっては、正直中身はどうでもいいんだろうな。
* * *
次は優羽だった。
「よーし、行くよ! 見ててね葵ちゃん!」
「ん。」
優羽は、まるでプレゼントを開ける子どものように無邪気にパックを開いた。
「一枚目! ……あ、Cランク。有名な人なのかな?」
「む、たしかアナウンサーしてる人。探索者番組のレポーター。」
「ふーん、そうなんだねぇ。二枚目! ……Bランク!」
「三枚目! ……あっ」
優羽の大きな瞳が、見開かれた。
そっと、カードを取り出す。
「……Aランク。『烈風の拳姫』だぁ。やっぱりかっこいいなぁ」
「うお、モデルにもなった人だ!SSRっすよ優羽さん!」
「さすが優羽ね!」
「さすが」
カードの中で短髪の女傑が拳を構えて野性的に笑っている。あまりにカッコイイその立ち姿は女性にも圧倒的人気がある、Aランク上位の1人だ。優羽が憧れていた人物の一人でもある。SSRとして派手な装飾のされたカードだが、そんな装飾に負けない重厚な雰囲気をしていた。
「うん、嬉しい! この人おじいちゃんと試合したことがあるんだって!」
「やっぱりAランク探索者はかっこいいなぁー!」
「あはは、まだまだあるよ! どんどん行こ!」
* * *
そして葵の番がやってきた。
「ん。いよいよ」
「葵ちゃん、がんばれ!」
「お前も絶対引けるって」
葵は、そっと一パック目を手に取った。
包装を丁寧に破る。いつも以上に落ち着いて、丁寧に。
(じいちゃん、父さん。……カードでもいい、また会いたい)
一枚目。
カードを取り出すと、そこには穏やかな笑みを浮かべた若い女性がいた。
「Bランク、『癒しの聖女』」
「おお、この人美人だよな。おっぱいもでけーし。なんでレアじゃなくてコモンなんだ?」
「ん、わかる」
葵だって元男の娘である。穏やかで清楚なこの人は好きだった。
二枚目。次のカードは厳しい表情の中年男性。重厚な鎧をまとい、大剣を構えている。
「Bランク、『鋼の守護者』」
「あー、私見たことあるかも。いつもの協会所属の探索者さんだよね。」
「だな。こうして見ると、コモンでも結構知ってるもんだなぁ。」」
三枚目、四枚目は知らない人。
そして最後の一枚。葵は、ゆっくりとカードを引き抜いた。
「…残念」
「レアか。Bランク上位なんだろうけど、こっちは知らないな?」
「あはは、開封の儀、面白いね!次いこ!」
「ん。でも後で、どんな人か調べる」
まだ知らない。けれどBランクだって、日本の為に最前線で戦う探索者だ。
* * *
それぞれが最初の一箱を開け終え、リビングは熱狂に包まれていた。
「いやー、みんな引き強すぎだろ!」
「ほんとに! 最初の1箱でSSRが二枚も出るとか!」
「ん。まだまだある」
「そうよ。ここからが本番じゃない」
箱はまだまだ積まれている。開封の儀は、まだ始まったばかりだった。
二箱目、三箱目と開けていくうちにリビングはまるでお祭りのような騒ぎになる。
「あっ、この人テレビで見た!」
「おお、またCランクだ!」
「私、 この人知ってる!へー、Aランクだったんだぁ。」
歓声と笑い声が絶えない。お菓子をつまみジュースを飲みながら、みんなでワイワイとカードを確認していく。静香はそんな子どもたちを、穏やかな笑顔で見守っていた。時折お菓子やジュースを補充しながら、あたたかな雰囲気の中で。
「ねえお母さん。お母さんも一緒に開けようよ!」
「あら?私はいいわよ、あとで。みんな楽しそうだもの」
「ん、みんなでやると楽しい。お母さんも一緒。」
「そうですよー!お母様も一緒にやりましょう!」
優羽が母を呼び、みなの中心に連れてきた。あらあらと静香は、笑みを絶やさぬまま、みなの視線を受けてそっと一パックを手に取った。その手は、かすかに震えている。
(あなた……お義父さま。どうか、来てください)
彼女は、子どもたちに常に微笑みを向けているよう心掛けている。しかしその心は切実だった。彼女は丁寧に包装を破り、中のカードをそっと引き抜いた。
一枚目。
「あら。Cランクの方ね。有名人かしら、素敵な女性。」
二枚目。
「まあ。Bランク。この方も存じているわ」
そして三枚目。
静香の手が、止まった。
そっと、大切な一枚を引き抜く。
「………………………あなた」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。とめどなく溢れるそれを、彼女は拭おうともしなかった。
「お義母さま……?」
「おばさま?」
「………ふふ、本当にカードになっちゃうだなんて。あなたなら、喜ぶかしらね。」
震える声で、静香はカードを胸に抱いた。その手の中にあるカード。そこには雷光をまとい、真剣な表情で立ち上がる若き探索者の姿があった。成神勇一郎。葵の父であり、優羽の父でありそして静香の最愛の夫。静香が政府の要請を受けて提供した写真が元であるが、イラストレーターがそれを装飾し、SSRの派手なエフェクトが夫の姿を際立たせていた。
「ふふ、かっこいいエフェクト。雷が映えるからってこのポーズ、3日も研究してたのよ。もう30歳も過ぎた時にね?」
「ん。父はいつまでも厨二病だった。」
「あは。でもなんだかそういうのが合ってる気がするんだよねー、父さん。」
葵と優羽が、静香のそばに寄り添う。朱里もそっと立ち上がり、静香の肩に手を置いた。健太と真由は静かに見守っている。
「あの子たちが、こんなに大きくなったのよ。葵は女の子になったの。びっくりするでしょう?」
「……ふふ……あなた、びっくりしすぎてあの世で気絶してるんじゃないかしら」
「でも、ね。私たち、なんとかやっているわ。あなたが遺してくれたものがあるから」
彼女は涙に濡れた声で、しかしはっきりとそう言った。震える指先でそっと、カードの中の夫の頬に触れる。
「ありがとう。あなたのもとに、来られてよかった。本当にありがとう」
* * *
開封の儀は、静かな余韻とともに幕を閉じた。誰もが胸に大切なカードを抱き、大切な人を想う時間だった。時間も遅くなってしまったため、残りは各自開封である。
「……すごいな。カードって、ただの紙なのに」
「ん。ちがう」
「そうだな。これは、想い出だ」
「うん。私も、おじいちゃんにまた会えて嬉しかった」
「えぇ、私もよ。こんなに素晴らしいものを作ってくれた方々に感謝しなくっちゃね」
リビングのテーブルには、たくさんのカードが広げられている。一つひとつに想いが込められている。英雄たちの生きた証が、そこにきらめいていた。
「さて、みんな。そろそろ夕飯にしましょう。今日は特別な日だもの。奮発するわよ」
「おばさまのご飯だ!」
「やったー!」
「ん。母さんのご飯、嬉しい」
「今日は俺も手伝いますよ。なんたって、特別な日ですから」
「あらあら、頼もしいわね」
リビングに溢れていた涙は、いつしか笑顔に変わっていた。窓の外は、すっかり暗くなっている。
星はまだ見えない空を見上げながら、葵はそっと胸の内でつぶやいた。
(じいちゃん、父さん。見ててくれ。俺たちはちゃんとやれてるよ)




