第六話 友達は血に飢えた聖女でした。
地元で一番うまいと評判のラーメン屋は、昼時を過ぎても賑わっていた。
「っつーわけで、俺がタンク兼物理アタッカーな」
「ん。私はデバッファー兼遊撃アタッカー」
「私はヒーラー兼剣士だね!」
三人はラーメンを啜りながら、今後のパーティ編成について話し合っていた。
「メインアタッカーがいねえのが気になるけどな」
「ん。でも全員それなりに、Eランクに通用する攻撃手段はある」
「そうだね。問題はないでしょ」
「だな」
(火力不足は……なんとかするしかない)
葵は心の中で呟いた。星魔法は相変わらず実用的ではない。重力と斥力を応用した戦い方を磨くしかないだろう。
「そういや葵、お前空間魔法ってマジかよ」
「ん」
「あれ国家戦略物資だぜ。スキルオーブで取引される超高級品。それをスキルオーブなしで覚醒とか……」
「理由は不明。多分ユニークスキルの影響」
「まあ、そうだろうな。魔法少女ってのがよくわからんけど」
「ん」
「でもすごいね葵ちゃん! 空間魔法なんて、転移も収納もできるようになるんだよ?」
「まだLv1だけど」
「それでもすごいよ!」
真由がキラキラした目で見てくる。
(まあ、ありがたいことではある)
葵は小さくうなずいた。
「よし、じゃあ腹ごしらえも済んだしそろそろ行くか」
「ん」
「はーい!」
三人は立ち上がり、会計を済ませて店を出た。
* * *
それぞれの家に戻って装備を整えた三人は、夕方前にダンジョンの入り口に集合した。
「装備は大丈夫か?」
「問題ない。」
「一番良い装備を頼む!なんちゃって!」
「ゲームじゃねぇんだよ。真由も大丈夫そうだな。」
葵は父の形見である黒色のローブをまとい、手には何も持っていない。素手が彼女の武器である。健太は手槍と大盾を装備し皮鎧に身を包んでいる。真由は日本刀を腰に差し、急所のみ補強された剣道着姿だ。
「よし、まずはEランク上層で連携の確認だな」
「ん」
「真由のレベル上げも兼ねて」
「頑張る!」
三人はダンジョンの転移陣に乗り込み、Eランク上層へと転移した。ダンジョンの空気はひんやりとしていて、かすかに魔素の匂いがする。
「うわぁ……初めて来た……」
真由が感嘆の声を漏らす。
「気を抜くなよ。ここはもう戦場だ」
「わかってる!」
* * *
最初の魔物はすぐに現れた。
「ギシャアアア!」
Eランクの魔物、一角うさぎ。鋭くはないが硬い角を持つ、うさぎ型の魔物だ。一般人でも大きな怪我をすることはないが、油断していると普通に痛い。
「来るぞ!」
「ん」
初めてのEランク。しかし健太が一瞬も躊躇わず前に出て大盾を構え、葵は重力を発動させてうさぎの動きを鈍らせた。
「あはっ!さすが、二人とも頼りになるねっ!」
一角うさぎが動きを止めた瞬間、真由が抜刀し駆け出した。2人には少し出遅れたものの、その動きに淀みはない。
「ふっ!」
ダンジョンの心得、魔物に躊躇うことなかれ。うさぎ型の魔物に容赦なく鋭い太刀筋が走った。
「ん~、びくとりぃー!」
「いい太刀筋だ」
「ん」
思った以上にスムーズな連携だった。精神的にも問題なさそうだ。
(真由、強いな)
葵は少し驚いていた。真由はLv17とまだまだ駆け出しだが、剣の腕前は本物だ。それに、すでに探索者としての心が整っている。生き物を殺す、というのは本能的な拒否感があるものなのだ。覚悟があればできるが、それでも慣れないうちは絶対に鈍る。敵に真剣を振るった経験が無い者に、あんな太刀筋は絶対に出せない。
「真由、経験ある?」
「えへへ、ひみつ!私に秘められた才能って可能性もあるかも。かも?」
「へいへい。さすが聖剣の聖女様ってな。まぁ戦えるなら問題ないな。奥に行こうぜ」
「ん」
「はーい!」
三人はどんどん奥へと進んでいく。次々に現れる魔物を、息の合った連携で屠っていった。
「はあっ!」
「やあっ!」
「ん」
健太がタンクとして敵を引きつけ葵が重力で動きを阻害し、真由が斬り捨てる。慣れてくると健太も槍で敵を突き倒し始め、葵もデバフをかけつつ遊撃で殴り殺すようになった。
「お前ら、どんどん過激になってくな……」
「ん。慣れてきた」
「私もー! 今宵の真由様は、血に飢えておるぜぃ!」
「お前な…。ヒーラーはどうしたよ、聖女様?」
「ぶぅー。だって、誰も怪我しないじゃん?」
「ん。みな技術が高い。余裕」
「だなぁ。」
(でもずっと最前線だよな。ヒーラーというより、最早アタッカーだな)
葵は心の中でツッコミを入れた。
「でも、このままじゃ練習にならねえな」
「ん、同意。」
「もっと奥まで行っちゃう?」
「行くか。」
三人はさらに奥へと足を進めた。
* * *
「ここ……」
「ボス部屋だな」
「あっはっは、来ちゃったねぇ。」
巨大な扉の前に立つ三人。Eランクダンジョンのボス部屋だ。
「どうする? まだ初日だし、無理はしなくてもいいと思うが」
「やる。問題ない。」
「だよね! やろうよ!」
「お前らなあ……まあ、いいか。俺たちなら大丈夫だろ」
健太が苦笑しながら大盾を構え直す。
(Eランクのボス……Lv30程度の相手。出力は、それでも小型のバイク程度。正面からでも余裕)
葵は小さく息を吸い込んだ。
「よし、行くぞ」
「ん」
「いつでもどうぞ!」
三人は顔を見合わせてうなずき合い、巨大な扉を押し開けた。部屋の中央には、巨大なヘビのような魔物がとぐろを巻いていた。でかい。全長はゆうに5メートルはあるだろう。
「グシャアアアア!」
ボス魔物が威嚇の咆哮を上げる。
「来るぞ!」
「ん」
健太が前に出る。葵は重力を最大出力で発動させ、敵の動きを封じにかかった。巨大なヘビの動きが鈍った。というより、ピクリとも動けなくなっていた。
「えぇー!もう、大外れじゃんッ!」
たかだかLv30、出力で言えば小型バイク程度である。そんな小さな出力で、全長5メートルもの大きな身体を持てばどうなるか…動きが鈍い的である。体積も大きく、重力の影響をモロに受けてしまえば尚のことだった。
「凶悪な顔してんだけどなぁ。牙も立派だし」
「ん。質量は武器でもある。動ければ。」
「ぶぅー。まぁいいや、こいつ牙が売れるんだよね。ドロップするかな?」
血に飢えた聖女様が、動けない大蛇をあっさりと斬り捨てた。残念ながら牙はドロップせず、戦利品は青色の大き目な魔石だけだった。
「うーん。結局使わなかったけど、ユニークスキル使ってみたいなぁ。ちょっと葵ちゃんに使ってもいい?」
「ん。MPに余裕があるなら構わない」
「あは。私、スキルないもん。全快のままだよ!じゃあ、やるね?」
「わかった。…ん?」
真由は刀を納刀すると、わざわざ防具の金属を外して、葵をぎゅぅっと抱きしめた。
なぜに。
「癒し手、発動っ!うへへへへー。葵ちゃん、いい匂いだねぇ!ほっぺもすべすべ!んー、なにこれ気持ちいい!」
「…なぜ。普通にかけて。」
「んとねー。私のユニーク”癒しの手”は、直接触れている面積によって効率がよくなるみたい。だから、抱きしめたほうが良いの!回復は少しずつだけど上限はなくて、時間をかけてMPを使い続ける限りどんな傷でも全快にできる…のかな。レベルが低いと、最大MPが少ないから無理だけどね!直接触れないと効果がないし、回復が遅すぎるから戦闘中には使えないけど。ん-…時間をかければ欠損も治せるって、破格かな?」
葵に抱き着き、光りながら頬ずりしてくる真由がとんでもない爆弾発言をした。
欠損の回復手段は、なくはないが非常に貴重なのである。
「はぁ?欠損の回復って…まじかよ。現代科学でも再現できない激レアユニークじゃねぇか。欠損なんて、探索者の引退理由No.1だぞ?引く手数多なんてレベルじゃねえわ。お前、それ誰にも言うなよ?普通に誘拐されるし監禁されるぞ?」
「あはっ。わたし、ほんとに聖女様になっちゃう??」
「おう。冗談じゃねぇんだわ。国に保護されてチヤホヤされたいなら別だが。」
そう。国家戦力であり貴重なAランクだった父が腕を失った時、その伝手を使ってもなかなか戻せなかったし、それは秘密裏に行われた。欠損の回復が可能な存在とは、国に厳重に保護されるレベルの人材なのである。
「えぇー…。やめとく。だって直接触れなきゃ効果ないもん。知らない人に簡単に身体を許すほど、わたし軽い女じゃないんだけど?手で触れるだけじゃ、あまり効果でないみたいだし。」
「あー、なんだ。すげぇけど、確かに使いにくそうだよな。…なぁ、俺が死にそうになったら使ってくれよ?」
「うん、健太くんならいいよ。普通のケガくらいなら手を握るだけでも大丈夫だし。腕を絡めたり、背中合わせになったり、面積を増やせば少し深いキズでも大丈夫。それに・・・あはっ。もちろん素肌に近いほど効率が良いの。ねぇ、葵ちゃん。裸で抱き合ってみちゃう??」
「無理。」
「えぇー!葵ちゃんなら歓迎なのにー!」
「無理。私、男。」
「ざんねーん!今の葵ちゃんは、超絶☆かわいい女の子でーす!んふふー。良いではないかー。良いではないかー!」
「…むぅ。というか、別にケガしてない。」
「…なぁ。眼福なんだけどさ、俺がいること忘れてないか…?」
「いやーん、健太くんえっちー!あ、MP切れた。」
「ん、帰る。」
ダンジョンの外に出ると空はすっかり暗くなっていた。星が瞬き、月が三人を優しく照らしていた。…すっかり夜である。
(・・・あまりに楽しくて、時間を忘れてた。)
ふとスマホを取り出す。連絡もしてなかったから、予想通り姉からの着信が履歴を埋め尽くしていた。
「やばい。清算は後日。ゆう姉が警察に駆け込みそう。」
「おう、俺のやばい。明日集合しようぜ」
「そうなんだ・・・。・・・・・・あはっ!二人とも、大変だね。じゃあ、また明日っ!」
・・・?真由の家は時間にうるさくないのかな。
気になるが、とにかく今は姉である。葵は急いで優羽にかけなおし、家に帰ってしっかりと怒られるのであった




