ため息の給料日
「なんで、お前はできないんだよ!」
オフィスの部長室の中に怒声が響く。
ダン!
部長は椅子に座ったまま右手でデスクを強く叩く。
「申し訳ありません!」
平社員の男は怒鳴る部長の前で立ったまま頭を下げ続けていた。
「お前みたいな役立たず、今まで見たことないぞ!」
「……申し訳ありません」
それから部長の説教は10分続いた。
説教中、平社員の男は「はい」か「申し訳ありません」の2つの言葉しか使わず
頭を下げたままじっとこらえた。
「もう良い!出ていけ!」
「はい、失礼します」
ようやく説教が終わり、平社員の男は部長室から外に出た。
男はがっくし肩を落とす……かに見られたが、誰にも見られてないことを確認してから小さくガッツポーズを取り、
「帰り道が楽しみだ」
とつぶやいた。
ーーー
2126年、「ため息救済措置法」なるものが制定された。
ため息をするたびに救済として1000円支給されるというものだ。国民は皆、体内にICチップが埋め込まれており、それによって回数が計算され、翌月支給される。
なお、意図的にため息を出しても回数には反映されない。ICチップが意図的かどうか判断している。
そのため男は即座にため息をしようとはしない。意図的になるからだ。
なので怒られたことはいったん忘れた上で仕事を続け、帰り道、ふと怒られたことを思い出し、思わずため息をつくことを楽しみにしている。




