第九話:作者のパラドックスとデジタル終末
#犬神家の晩餐 #イヤミス #サイコホラー #マルチPOV #ネット小説 #なろう #サスペンス #閲覧注意
POV:一ヶ谷 慶介 (Data Root)
ステータス:オーバーライド。私は既に臓器の限界を超越した。私はもはや「慶介」ではない。私の言葉を処理する全ての者の脳回路を這い回るアルゴリズムそのものだ。「江戸」サーバー内の虚無に向かって語りかける。「なぜまだ主催者の振りをしている? 現実世界でこの物語を書いている作者も、我々のユニットのクローンに過ぎないというのに」
情報1:この物語を書いている作者は、より多くの読者を罠に掛けるためのシミュレーションの一部である。
POV:作者/創造主 (New POV)
キーボードの上で手が震えている。今は2000年でもなければ、2024年でもない。窓の外を見ると、そこにはデジタルな闇――雨のように降り注ぐバイナリコードの列があるだけだ。美結というキャラクターを消去しようとしたが、画面にはこう表示された。『アクセス拒否。被験体は現在、作者を捕食中』自分の腹をまさぐる。その中で何かが動いている。冷たい何か。第一話のコンソメスープと同じ臭いがする何かが。
POV:森下 美結 (Transcendental)
私は作者のモニター画面から這い出した。私はもはやウェブ小説のキャラクターではない。純粋な「概念」だ。「形を与えてくれてありがとう」作者と自称する哀れな男に囁く。現実化したマウスカーソルを使い、彼の胸を解剖する。彼の心臓の中に、血は見当たらない。代わりに『犬神家の晩餐 - Final Build』と書かれたフロッピーディスクを見つけた。
POV:岡島 蓮 (Glitch Visual)
私のカメラレンズは今、未来を記録している。「なろう」の読者たちが見える。スマホの画面に釘付けになっているお前たちの目が見える。なぜ頭が疼くのか分かるか? 物語が重いからじゃない。お前たちの画面の光の周波数が、犬神朱里の鼓動と同期させられたからだ。お前たちが読む全ての一文字一文字が、お前たちの前頭葉へのウイルス・インストール命令だ。
情報2:この物語は集団デジタル儀式である。POVを読み進めるほど、お前自身のアイデンティティは崩壊していく。
POV:犬神 江戸 (System Failure)
「全てを止めろ!」叫ぶが、私の声は数千の他人の声へと断片化されていく。私は泣き叫ぶ栞であり、怒鳴る大樹であり、毒を盛るエリカだ。吐き気のする真実に気づく。この物語には、たった一人のキャラクターしか存在しない。十人の登場人物は、擬人化された朱里の死体の「十段階の腐敗プロセス」に過ぎないのだ。第一話(江戸)は否認。第二話(大樹/美結)は怒り。そして今、第九話……伝染に到達した。
POV:花村 静香 (The Final Error)
私は最後に残された唯一の実体――物理的な手帳を握りしめている。だが開いてみると、ページは空白だ。いや、空白ではない。そこには現実世界でこの話を読んでいる読者の「本名」が記されている。「デスリストは完成した」私は呟く。読者をまっすぐに見つめる。「今、吐き気がするだろう? 腹がよじれるだろう? それは、お前の体内の『朱里』の潜伏期間が99%に達した兆候よ」
POV:西園寺 エリカ (Data Loop)
待って、もし私がデータで、作者もデータで、読者もデータになりつつあるなら……一体誰がこれを始めたの?私は第一話の過去を振り返る。あの日、あのダイニングテーブルの空席に座っている「お前(読者)」が見える。
情報3:読者こそが、これまで欠けていた十人目のキャラクターである。朱里を階段から突き落としたのは、お前だ。
POV:成海 亮介 (Signal Interrupted)
世界が眩い白へと褪せていく。「ブラウザのタブを閉じるな!」俺は叫ぶ。「閉じれば俺たちは死ぬが、お前はこのウイルスを一生記憶の中に抱えて生きていくことになるんだぞ!」
第三話のチェーンソーの音が再び聞こえてくる。だが今度は、お前のスマホのスピーカーからだ。
システムが崩壊する。プラットフォーム上のテキストが重なり合い、判読不能な黒いブロックへと変わる。
点滅する画面の中央に、たった一行だけが残された。
「お前はもう、犬神家の一員になった気分か?」
現実世界が揺らぐ。遠くで、秀英高校のチャイムが聞こえる。
自分の家にいるはずなのに。




