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新しい朝

 朝になり、雄鶏がコケコッコーと鳴きかわしを始めた。朝一番に鳴くのは、ボスらしい。鶏を買った店主が教えてくれた。鳴く順番が、鶏の序列なのだと。それを聞いた思遠は、では自分は最後に鳴くか、もはや存在感を消すために鳴かないか、どちらかだと思った。

 そんな事を、うつら、うつら考えていたら、「おはよう、ゴシツイさん」と頭上から声がして飛び起きた。

「おーーは、ようござ、います」

 ビシッと姿勢を正すと、伏していた机の向かい側に女が座っていた。肩肘をついてニコニコと思遠を見ている。

「なんですか……何をニヤニヤ笑ってるのですか」

「えー、ゴシツイさん、優しい人だなぁと思って」

 ふふふ、と頬を膨らませ笑う女は、開かれた窓から入る朝日に照らされて眩しいくらいだった。

「は?」

「だって、私の事、心配してこんなに近くで寝てたんでしょ?」

 そう女に見抜かれ、思遠は図星を突かれた恥ずかしさと、分かってもらえた嬉しさとが綯交ぜになり、とにかく否定しなければならない使命感に襲われた。

「違います。全然そんなんじゃない。僕はいつも寝る直前まで本を読んで、眠くなったら寝台に飛び込むんだ。ただ、今日は本を読みながら寝てしまった。貴女は、本に感謝すべきだ。本が興味深かったから寝台を追い出されなかった」

 早口でまくし立ててから、思遠は机に本が一冊もない事に気が付いた。

 急速に顔が真っ赤になっていくのを感じた。ちがう、これは……と頭の中で言い訳を考えていると女が立ち上がった。そして部屋の隅に並ぶ本棚の前で「みんなどうもありがとうございます」と言ってのけた。

 その彼女の姿に、つまらない嘘をついた事を後悔し、気を取り戻して訊ねた。

「体調はどうですか?」

「おかげさまで、絶好調」

 女は、思遠に向かって親指を立てた。

「それは、良かったです。まぁ、油断せず数日は様子を見た方がいいですよ。昔、聞いたことがあります。戦から帰ってきて、五体満足で元気だったのに、数日後に昏睡してお亡くなりになり、遺族が兜を見たら、べっこり凹んでいたという話が」

 話終わってから、相手の顔が真顔に代わっていることに気が付いた。

「ゴシツイ、患者さんとのコミュニケーション、あんまり得意じゃなかったんでしょ」

「こ、こににけ?」

 彼女の言葉は、思遠に理解できなものが多い。

 この国は広く、様々な種族が入り混じっている。もしかしたら、彼女は遠くから来たのかもしれないと思った。

「誠実なネガティブで、リスクヘッジタイプだよね。すごい悪い未来説明してくれるの。それで患者さんがズーンってなるの。私嫌いじゃないけど。誤解されがちでしょ」

「ねが?りすくへ?」

「ごめん、ごめん。なんでもない。それより朝ごはん食べよう」

 女は、両の掌を皿にして思遠に向けた。

「……僕、今日も、たかられるんですか?」

「私、今日も働きます!だから、ご飯をください」

「……はぁ。大したものないですよ。粥くらいしかできない」

「私、お粥大好きよ。食べたい、食べたい。ゴシツイの繊細そうなおかゆ。ぜったい美味しいよ」

 それほどでもないです、普通です。と言いながらも、軽い足取りで思遠が動き出した。その後を女が追っていった。

 

 




 

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