表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

心配性な男

 思遠の借りている部屋は狭い。この地域では、豪族の住むような屋敷を“宅”、平民の住む住居を“家”と呼んでいるが、思遠の住んでいる地域の家は、もはや小屋に近かった。貧民街よりは、よほど人間らしい生活ができるが、最低限の設備しかない。いわゆる低所得者の多い地域だ。

 結局、あれから女は遠慮なく食し、あまつさえ酒を注文した。そして、満腹になると店で船をこぎ始めた。「うそだろ……一杯しか飲んでないのに⁉下戸なのか」じゃあ、なぜ飲んだ、と文句を言いながら、思遠は仕方なく女を背負い、家まで帰って来た。


 男なら、そこらへんに置いてきただろう。しかし、さすがに若い女性を置き去りにするわけにはいかない。送っていく家も分からない。

「なんで、こんな事に……」吐く息と共に愚痴が止まらなかった。


 しかし、その度に、先ほどまで彼女が真摯に働いていた姿が浮かび、その体を背負いなおした。


「頼むから、家で死ぬのだけは勘弁してくれ……」

 一台しかない粗末な寝台に女を寝かせ、靴を脱がせ上掛けを掛けた。そして、自分は椅子に腰かけ机に伏せた。燭台に火を灯し、ひと息つくと、すぅ、すぅと女の寝息が聞こえてくる。

「そうえば、女性と二人で夜を過ごすなんて、良くないのでは?」

 突如、閃いて外に出ようかと立ち上がった。思遠は、奥手な男だった。医官として勤めていた時代、同僚たちが女性のいるお店に繰り出す時も、ひたすら本と医学と向き合っていた。女という生き物とは、患者の女性としか接してこなかった。


 家から出ようとしたものの、今度は患者としての彼女が気になり、その寝息を確かめに行った。

 頭の外傷が悪化して、大きないびきをかき出すのでは?

 心配になり、頭上にあげている女の片腕に目をやり、脈を取った。

「脈状は、細く、やや弦……血虚、寝不足か」

「……んん」

「っ⁉」

 女の体動に、思遠は慌てて寝台から離れ、隠れた。そして、隠れている自分に疑問を抱いた。

「僕の家だぞ……」

 蚊の鳴くような小さな声で文句を言う。

「まったく……なんて、迷惑な」

 すっと立ち上がり、威張るように胸を張って、もう一度寝台を覗き込んで、蝋燭を近づけて、彼女の顔色を窺った。

 まぁ、問題ないだろう、と頷いて、再び机に戻る。

 

 そして、ズズズ――片手で机を引きずり移動させ、椅子を手に取った。


 彼女に背を向ける配置で、ドカッと乱暴に腰かけた。


 何かあればわかるように――彼女の寝息に耳を欹てた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ