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そんなに好きなら、もうその世界に転生してしまいなさい。  作者: 葉山麻代


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09 迷惑客対応

 17時になり、仕事を開始した。

 僕が休憩している間に出勤してきた人や、買い物に出ていた社長の奥さんも戻ってきていて、皆揃っている。


 調理担当の山田さんが、僕に話しかけてきた。


一抹(いちまつ)君、そろそろおにぎり作れるようになった?」

「うーん、社長が作ってくださるものとは、何か違うんですよねぇ」

「僕も以前悩んだけどさ、熱いご飯を優しく握るって、若くて手の皮が薄いうちは無理だと思うんだよね」


 なんと!目から鱗のビックリ情報だった。確かに、社長が作ってくれるものより、自分が作るおにぎりは冷めている。


「山田さん、ありがとうございます!」


 山田さんはにっこり笑って仕事を続けていた。


 注文のあったお茶漬けと漬け物を用意すると、ホール担当の女性がうったえてきた。


「新人ちゃんが酔っぱらいに絡まれてます! 学歴マウントされてます」


 社長が対応するべきかもしれないけど、学歴マウントなら僕が行っても良いかなと思った。


「社長、僕が行っても良いですか?」

一抹(いちまつ)君、頼めるか?」

「はい。行ってきます」


 どこだかはすぐに分かった。回りも心配そうに見ている。


「こんなところでアルバイトしてるんだから、どうせたいした学校に行っていないんだろ? いいから付き合えよ」


 新人ちゃんと呼ばれている女子は、困り果てていた。


「お客様、ご来店ありがとうございます。何かございましたでしょうか?」


 物凄く丁寧に声をかけてみた。


「なんだ、バカは黙ってろよ? お前もどうせたいした学歴もないんだろ?」

「学歴でございますか? そうですね。まだ中卒しか学歴はございませんが、在学しているのは、○○高校です」


 一応、優秀な学校であると世間に知れている。


「え? は? そんな訳ねえだろう? 嘘語ってんじゃねーぞ!」

「生徒手帳、ご覧になられますか?」


 僕は、写真と学校名が記載してあるページを開いて見せた。


「ま、マジかよ……」


 顔を伏せ、それ以降なにも言わずおとなしくなった。


「ご用が無いのでしたら、失礼いたしますね」


 女子を連れ、キッチンに戻った。


「いちまつ君、ありがとうございました。○○高校なんですね。頭良いんですね」

「災難だったね。腕捕まれたりはしていない?」

「大丈夫です」


 後で聞いたら、僕が受けるのを取り止めた私立の生徒だった。確かアルバイトは禁止のはず。学歴を語るなら対抗できる学校だけど、アルバイトがバレるとまずいから反論しなかったらしい。


一抹(いちまつ)君、ありがとう。ああいうのは出禁にして良いから、きつく言って良いよ」

「はい」

「いや社長、学歴マウントしてきたのに、丁寧な対応で、自分より上の学歴を持つ人から打ちのめされた方がきついですって」


 最初にキッチンに報告に来たホール担当の女性が、意見を言っていた。


「それもそうか」


 あの客は、連れの人が何度も謝って帰っていったそうだ。


 この日、他に揉め事もなく、無事にアルバイト終了の時間になった。夕食を出して貰い食べていると、社長の奥さんがニコニコしながら近づいてきた。


光明(みつあき)君、酔っぱらいの対応素晴らしかったわ! どうもありがとうね」

「お役に立てて良かったです」


 社長の奥さんは、なぜかニコニコしている。


「何かありましたか?」

「メモの用意は良い?」

「え?」


 僕は慌てて手帳とペンを取り出した。


「プリンに、()がたつ場合、加熱のしすぎです。出来上がったプリンは手早くお湯からあげましょう。作る行程でプリン液が冷めてしまうとなかなか火が通らず、回りだけ()がたってしまいます。牛乳はきちんと温め、手早く作りましょう。プリンが硬いと思う場合、卵を減らすか牛乳を増やすと良いです。このプリンは器をひっくり返してプリンアラモードを作れる配合の、昔ながらのしっかりしたプリンなのです」


 社長の奥さんは、やりきった顔をして仕事に戻っていった。僕、速記も習わないといけないのかなぁ?


 帰る時には、今日作ったプリンとおからクッキーを持たせてくれた。母へのお土産にしよう。

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