25 梅仕事(梅干)、シソジュース
水に浸けてあった梅を引き上げた。20kgあり粒も大きめのため、存在感がある。
「分からないことはないと思うので、始めてください」
社長の奥さんが声をかけ、皆が作業を開始した。
ヘタを取り除き、痛んでいる梅を避け、水分を丁寧に拭き取っていく。青梅と違い完熟のためか、とても良い香りがする。
「良い香りがしますね」
「旨そうな香りだけど、このままでは食えないぞ?」
「無加工の梅は、毒なんでしたよね」
「その通りだ。厳密には青梅が猛毒で、完熟して黄色くなった梅ならかなり毒素は弱いらしいけどな。でも、生で食べないに越したことはない」
生の青梅にはアミグダリンという青酸配糖体が含まれていて、そのままでは人に有毒だ。これを無毒化するには、アルコールに漬け込む、糖分に漬け込む、塩分で漬け込む、加熱するのいずれかの処置を行う必要がある。
もし生のまま食べると、アミグダリンは体内で青酸(シアン化水素)になるそうで、大変危険だ。
「ちなみに梅の毒は、うめ毒とは言わない。梅の毒を変に略してしまうと、文字にしたとき違う病名になるからな」
「そうなんですか?」
僕が分からないでいると、社長の奥さんが突っ込みをいれてくれた。
「若い子は、梅毒なんて知らないわよ」
「それもそうか」
社長が後でこっそり教えてくれたけど、梅毒とは性感染症の名前らしい。植物の梅には関係ないそうだ。
「ヘタが取れて水分をしっかり拭き取ったら仕込みますが、塩分は15%で仕込みます。自分で作ってみるなら、最初は20%をおすすめするけど、実際食べてみると20%はかなり塩っ辛いのよ。自宅用に作る人は、10%とかで漬ける人もいるけど、相当気をつかって作らないとカビます」
塩分濃度で、作り易さが変わるらしい。家で作ってみるのは、20%が良いかな。
「漬け込む容器はしっかり洗浄した後、アルコール消毒もします。食品用アルコール消毒剤がなくても、ホワイトリカーをスプレーで吹き掛ければOKです」
僕が家でも作れるように、家庭で用意できる案も教えてくれる。とてもありがたい。
カリカリ小梅の時と同じように、粗塩を梅にまとわりつけ、容器に並べていく。小梅は並べると言うよりバサッと入れていたけど、梅干用の梅は粒が大きいので、割りと隙間無くきちんと並べていった。
「カリカリ梅と違い、卵の殻は入れません。中蓋と重石をのせ、埃避けのビニール袋をかけ、地下におろします」
これで第一段階は終了らしい。
「次の作業は、梅の水分が出て、梅がしっかり浸かってからです」
「また手伝いたいです」
「よろしくお願いします」
手早く片付けたあと、先程の赤紫蘇を運んできた。
「まあ、全部葉をもぐけど、10袋ずつに分けましょう」
梅干も2つの大きな桶に漬け込んだので、葉っぱも分けるらしい。
もくもくと、枝から葉をもいでいく。思っていたより結構大変で、もいでももいでも終わらない。
「うわ、指先が黒ずんでる」
「後でお酢に浸けてから洗うと良いぞ」
社長がすぐに反応してくれた。
「そうなんですか?」
「アクの強い山菜とか扱った後にも有効だから覚えておくと良いぞ」
「ありがとうございます」
野菜のアクって、アルカリ性なんだね。
やっと葉がもぎ終わったら、今度は、その葉を洗うのが物凄く大変だった。洗っても洗っても水に汚れが残る。
「いつかは綺麗になるんでしょうか?」
「一度に洗う量が多いのよ。もう少し小分けにすれば、綺麗になるわよ」
社長の奥さんに言われ、量を変えてみると、汚れが残らなくなった。
「なんか、目に見えて綺麗になりました」
「まだまだあるから、頑張って」
「はい」
何とか洗い終わると、いつのまにか沸かしていたらしいお湯も丁度沸いたらしい。
「光明君が洗っていた赤紫蘇を、全部鍋に投入してくれる?」
「はい」
30リットル入る寸胴鍋に、15リットルのお湯が沸いているらしい。葉っぱすごく多いけど、全部入るのかなぁ?
最後の方は湯に落ちなくて、お玉で押し込むと全ての葉が湯の中に入った。
「あれ?」
赤紫色の葉を入れたはずなのに、湯の中に踊る葉は緑色に見える。
「どうかした?」
「葉っぱの色が」
「水に色が溶け出してるのよ。成分と一緒にね」
溶け出すと、残る色は緑なんだ。ちょっと不思議。
「どのくらい煮るんですか?」
「15分から20分くらいね。火は弱めて良いわよ」
「はーい」
少し火を弱め、ガス台を離れた。
「梅干用のシソを加工しましょう」
「はい」
「全部いっぺんにするには多いので、少し取り分けます。水気を良く切った葉に塩をし、揉み混んで行きます。最初はまとまらないと思うけど、そのうち赤黒い水分が出てくるからそしたら良く絞って、しっかり絞ったシソは、こちらに入れて下さい」
ボール1杯ずつに塩をして、揉み混んでいった。塩は、社長の奥さんが量を分けてくれた。この赤紫蘇の葉は約2kg有り、用意している塩は、その15~20%相当の量らしく、300~400gあるらしい。
葉っぱを揉み混むなんて、葉が破れてしまいそうだけど、意外と丈夫なようで、ギュッと絞って赤黒い水分をしっかり絞りだし、指定されたボールに入れていった。
「全部出来たら梅酢で解すんだけど、今年の梅酢はまだ無いので、去年の梅酢を使います」
ボールの赤黒い葉の塊に白い梅酢をかけると、その液体は鮮やかな赤い色に変わっていった。
「手を良く洗ってきて、しっかり拭いたあと、素手で良いので、ジッパーバッグにこのシソの葉を入れて下さい」
僕は念入りに手を洗い、アクはしっかり落ちなくて指先が少し黒っぽいけど、そのままで良いと言われシソの葉をジッパーバッグにしまっていった。
ふと指を見ると、指先が赤い。先ほど黒かった指先が、あり得ないほど赤くなっていた。
全て入れ終えると、同じものを社長も作り終え、社長の奥さんが預かっていった。
「鍋の火はさっき消したから、液体を網で濾すぞ」
シソジュースの素は、次の段階に入るらしい。
15kg以上ある熱い鍋は返せないので、小鍋を柄杓代わりに使い、別の鍋に液体を移していった。シノワを置いてあるので、多少入ってくる葉も混ざらない。
最後、軽くなった鍋は、社長がひっくり返して鍋を空にし、葉の水分もシノワに押し付けしっかり絞った。
「量っておいたグラニュー糖と、クエン酸を加えます」
割りと赤黒い液体だったのに、クエン酸を加えたとたん、綺麗な赤い液体に変わった。
「うわ、凄い!」
社長が、グラスに氷をたくさん入れ持ってきた。
「ほら、ちょっと飲んでみろ」
レードルですくい、コップに注いでくれた。氷がほとんど溶け、美しい赤い液体が残った。そっと飲んでみる。
「おいしい!」
「良かったな」




