24 希釈ドリンク
「今年は、雨が早かったから紫蘇が良い出来だよ」
「あらそうなの?」
お弁当を詰めているときに、多分八百屋さんが訪ねてきて、社長の奥さんと何やら先の話をしていた。帰り際に梅の話が聞こえたので、やっぱり八百屋さんだと思う。
「完熟梅が、週末に入る予定です。仕込みが800粒くらいなので、希望者のみで仕込みます」
「はい!参加したいです」
イの一番に手を上げた。
「はい。お願いしますね。あ、光明君、それ、違います。こちらのを使ってください」
いつもの梅干しをのせようとしたら、箱を渡された。中には大粒の梅干しが入っている。
「あ、もしかして、これが去年作った梅干しですか?」
「その通りです。普段のより大きいでしょ?」
「倍くらい有りますね」
質量としては3倍くらい有り、色も赤が濃い気がする。梅の花型のご飯のくぼみの上にのせた。特注のお弁当で、田んぼの田みたいな形の弁当箱に入っている。
「こういう十字の仕切りのお弁当を、松花堂弁当と呼ぶのよ」
「名前があるんですね。あれ、学校でも習ったかも?」
「これはそうね、習うかもしれないわね。その場で提供するわけではないから、日本料理やさんで食べるのとは少し違うけどね」
「主に違いはなんですか?」
「刺身の盛り合わせが入らないわね」
「確かに、無理がありますね」
おかずが豪華で、見るからに高いんだろうなと言う印象のお弁当だ。数は少量なので、すぐに作り終わった。
「あ、そうだ。先日話題に出た希釈ドリンク何か作る?」
「どんなものがあるんですか?」
「先日作った梅ジュースや、シソジュースは王道ね。お酢にフルーツを漬けるフルーツビネガー。炭酸で割るジンジャーエールの素、コーラの素、スポーツドリンクの素、色々有るわね。フルーツビネガーは、牛乳で割るとヨーグルトドリンク風になるのよ」
「それ、面白そうです!」
とりあえず、フルーツビネガーを作ることになった。とても簡単らしく、土曜日に少しだけ時間を取れば良いらしい。
「光明君、好きなフルーツは何?」
「イチゴとパイナップルです」
「了解」
週末。
冷凍苺と生のパイナップルが、用意されていた。
「苺の生は時期的に無理だったから、冷凍でごめんね」
「冷凍なら、用意が出来るものなのですね」
苺は6月になるととたんに姿を消す。次は涼しくなってからお店で見かけるけど、とても高い。でも、ケーキ屋さんには一年中苺ののったケーキがあるよね。あれどうなってるのかな。
「用意できなくもないんだけどね。あまり美味しくないのよね」
「味が落ちるなら、用意できるんですか?」
「輸入苺を仕入れればね。ほら、ケーキ屋さんには常に苺ののったケーキがあるでしょ?」
「あれ、輸入苺だったんですね!」
日本に無ければ、季節が違う国から輸入すれば良いんだね。でも、美味しくないのか。ケーキは生クリームと一緒に食べるから甘くなくても食べられるのかもしれないけど、味を生かした仕込みに使うなら、向かないよね。
「それにね、冷凍フルーツを使うと、出来上がりが早いという利点もあるのよ」
「冷凍の方が良いこともあるんですね」
なぜか社長の奥さんが、ニヤリとしてこちらを見た。
「配合的には、フルーツ、氷砂糖、お酢が1:1:1なんだけどね。各1kgずつ入れる場合、容積いくつの瓶が必要でしょう?」
「質問されると言うことは、3リットル瓶ではないと言うことですね。増えはしないと思うから、減るんだろうけど、数値は分からないです」
「減るとは思うんだ。さすが現役学生。砂糖が完全に溶けきる溶液に入れた場合の砂糖の体積は、約0.65です。では、8リットル瓶で作れるのは、何kgずつでしょう?」
「それならすぐ分かります。3kgずつですね!」
「計算早!」
たまには驚いて貰わないと。
「まあ、溶けたらだから、仕込み的には擦り切り8リットルの瓶だと作業的に色々無理だけどね」
瓶に少し余裕があるから、上手く仕込めるらしい。確かに、ギリギリだと移動も出来ないよね。
そして作り方は、驚くほど簡単だった。
フルーツ、氷砂糖、お酢を順番に入れるだけ。パイナップルは皮を剥いたりしたけど、苺は凍ったまま袋を開けただけだ。
「お酢はね、まあ、何でも良いんだけど、リンゴ酢で漬けます。リンゴ酢が一番酸味が強くて、穀物酢が標準だとすると、米酢が一番まろやかね。牛乳で割って飲むし、酸味が強くて良いと思うのよ」
「はい。家でも作ってみます」
家で作るなら、フルーツは何が良いかな。
「苺は冷凍だったから2~3日ですぐ飲めるようになるわ。パイナップルは、1~2週間ほどかしらね」
「出来上がるの本当に早いんですね」
そんな話をしていると誰か訪ねてきて、社長の奥さんが対応に出た。
「どうにかならないかね?」
あの声は、八百屋さん?
「あー分かった分かった。何束引き取れば良いのよ?」
「ありがとう!200有るから、30くらい出来れば」
八百屋さんは、問屋で物を素晴らしいと褒めたら、取り置きされてしまったらしい。社長の奥さんが笑いながら成り行きを説明してくれた。
梅干を仕込むメンバーが出勤してきた。
「何で、赤紫蘇もう来てんの?」
社長が声をかけていた。八百屋さんは赤紫蘇を持ってきたようだ。
「なんかね、問屋で物が良いと褒めたら、取り置かれちゃったんですって。それでうちに押し売りに」
「あはは。そりゃ協力するしかないな」
社長が、ビニール袋に入った赤紫の葉っぱを大量に待ってきた。
「これ、どうするんですか?」
「梅干用に使うのは、多くても25袋なんだけど、本当に物が良さそうだから20袋で良いかしらね」
総数は30と聞こえたので、10袋はどうするのかな?
「残りはどうしますか?」
「そうね、シソジュースも作ろうか」
「あ、希釈ジュースですね」
梅干の仕込みのあと、シソジュースも作ることになった。




