23 梅仕事(梅酒・梅ジュース)
「光明君、又週末に梅仕事するけど、来られそう?」
「はい! 土日両日ともに空けてあります」
社長と山田さんから、そろそろだと予定を聞いてあったのだ。確かに、スーパーマーケットでもたくさんの青梅を見かけるようになった。
「なら、土曜日の10時にお願いします」
「はい。楽しみです!」
土曜日。
緑色の固そうな梅が、やはりザルにあげてあった。吸水後なのだろう。
「今日も意欲的にご参加いただきありがとうございます」
「強制だけどな」
社長夫妻の掛け合いに笑いが起こる。
「はいはい。強制に決まってるじゃないですか。さっさと諦めて瓶を持ってきてください」
梅酒を作る為の大きな瓶が、10本運ばれてきた。その間僕は、社長の奥さんに頼まれた、氷砂糖と書いてある箱を運んだ。
「すみません、遅くなりました」
新しいパートさんが出勤してきた。カリカリ梅を一緒に仕込んだパートさんだ。
「大丈夫よ。まだ始めてもいないわ」
材料が揃うと、まずは梅のヘタ取りを全員で頑張った。小梅より大きいので、持ちやすい。量は多くても数は少ないので、あっという間に終わった。
「光明君、同じことより、変わった仕事の方が良いわよね」
「はい。ありがとうございます」
なぜか、金属製の針山のようなものを渡された。これ、華道に使う剣山じゃないかな?
「中粒の梅をこの剣山で、表面に均等に穴を空けてください」
「はい。わかりました」
1つ見本を見せて貰い、針山の上を転がすように青梅の表面に穴を空けていった。
「少しだけ手を止めて説明だけ聞いてね」
呼ばれてそちらを見れば、瓶の底に青梅、その上に氷砂糖、それを10瓶作り、荷物用のエレベーターで地下におろしていた。
「梅酒は、下処理した青梅、氷砂糖、アルコール度の高い好みの酒を入れれば、後は待つだけです。動かすと梅が浮いてしまうので、地下におろしてからお酒を注ぎます。梅2kg、氷砂糖1~2kg、お酒2升(3600ml)です。そのまま飲むなら糖分は控えめにし、割って飲んだり、お菓子に使ったりするなら、梅と同量の糖分を加えます」
「氷砂糖ではなく、糖分ということは、他の糖分も使うんですか?」
わざわざ言い分けていたことが気になった。
「その通りです。糖分の半量を黒糖にして風味を出したり、その他の甘味を使ったりもします」
お酒の種類を変えたり加える糖分を変えれば、たくさんの種類が作れるらしい。社長も説明に加わって、店では作らないけど、と前置きし、黒糖とラム酒や、ジンで漬けたものや、薄めていない日本酒で漬けた梅酒が美味しいと、話してくれた。一般的にはホワイトリカーで漬けるらしいけど、お店のは全てブランデー漬けになるそうだ。
僕が青梅を剣山に転がしていると、新しいパートさんが青梅を量りながらジッパーバッグに入れているのが目に入った。
「それは、どうするんですか?」
「これは、冷凍するそうです」
冷凍してどうするんだろう? それらも地下におろしていた。地下にあった設備は、冷凍庫もあるらしい。
青梅の穴あけは他のみんなも手伝い、予定の量が確保できたらしい。
穴を空けた青梅を、社長の奥さんは銅色の大きなボールみたいな入れ物に入れて、コンロにのせていた。
「穴を空けた青梅は、この銅製のさわり鍋でゆっくり煮ます」
さわり鍋は普通の銅鍋と違い、内側に錫加工をしていなくて銅の色のままだ。
「お家で作るときは、綺麗に洗った新しい10円玉や、銅板や銅線を一緒に煮ます」
「銅の成分的なものが必要なんですか?」
「その通りです。普通の鍋で梅を煮ると、黄色っぽくなりますが、銅イオンの働きで、梅の色が綺麗な緑色になります」
これは、梅の甘露煮らしい。沸騰する直前に火を弱めていた。火力が強いと、梅の皮がむけてしまうそうだ。しかも、今日出来上がらないらしい。社長の奥さんは、社長に甘露煮を引き継いでいた。
「さて、去年の残りの梅酒と、梅ジュースの素があるので、梅酒ゼリーを作りましょう」
梅ジュースは梅が入っていない琥珀色の液体で、梅酒はザルに梅の実が分けてある下の鍋に入っていた。
「まずは、梅ジュースを飲んでみましょう」
氷水で割ってから渡された。水で割って飲むのは、乳酸菌飲料の特権かと思っていたら、自家製ジュースの素は他にも有るらしく、今度教えると言われた。
「甘酸っぱいのにさっぱりしていて美味しいです」
「うちのより何だか美味しいです」
新しいパートさんが、自宅でも作っているらしいことを言っていた。
「どうやって作るんですか?」
「簡単よ。梅を凍らせれば、まず失敗もしないし、好きな時期に作れるわよ」
なんと、あの大きな瓶に、凍った梅と氷砂糖を交互に入れて、氷砂糖が全て溶ければ出来上がりらしい。量は同量だそうだ。
「凍らせるんですね。泡吹いてしまって、毎年加熱処理をしていました」
「加熱すると、酸味がマイルドになるわよね」
経験者の意見交換が、為になる。
「失敗すると、発酵するんですか?」
「そうなのよ。だから、凍らせてエキスが出るのを早めるのが大事なのよ」
「今年は、凍らせてから作ってみます」
梅酒から取り出した梅は、半割りにして種を取り出し、さっとシロップで煮ていた。しわしわだった梅が少しふっくらしている。
「この梅酒は、梅と同量の糖分で漬けてあります。2倍の水を加え、加熱して砂糖を溶かし、ふやかしたゼラチンも溶かします。アルコールを飛ばしたいなら水と一緒に加熱し、アルコールを残したいなら砂糖とゼラチンを溶かしてから梅酒を加えます」
「うわ」
水を沸かし砂糖を溶かし、ふやかしたゼラチンを加えて溶かし、アルコールはほぼ非加熱で加えていた。僕は食べられなさそう。
「光明君、同じ手順で梅ジュースで作ってくれる?」
「はい!」
プラカップに注ぎ入れ、梅酒ゼリーは半割りの梅を浮かべた。これで間違えることもない。梅ジュースゼリーは、透明に近い色味だ。
このゼリー2種は、居酒屋の営業で予想以上に早く売りきれた。その場で食べるより、持ち帰り客が多かったそうだ。
翌日。
凍った梅と、氷砂糖を交互に入れ、梅ジュースを仕込んだ。大体1週間ほどで出来上がるらしい。2瓶仕込んで、1瓶無くなったら次を仕込むそうで、何故まとめて仕込まないのか聞くと、一番には置場所や瓶の数の関係らしい。それと、梅ジュースは、出来立ての方が美味しいと話していた。冷凍庫には、凍らせた青梅がたくさんストックされている。
甘露煮が出来上がったら、梅ジュースのゼリーに浮かべて、お弁当と一緒に売ると言っていた。毎年の人気商品らしい。




