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そんなに好きなら、もうその世界に転生してしまいなさい。  作者: 葉山麻代


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21 梅仕事(カリカリ梅)

光明(みつあき)君、梅仕事するけど興味ある?」

「えーと、梅仕事って何ですか?」


 社長の奥さんから、昼のアルバイトの終わり頃に声をかけられた。


「あ、通じなかったのね。梅干し作ったり、梅酒作ったり、梅を加工することをこう呼ぶらしいわよ」


 それは面白そう!


「参加したいです! 具体的には何を作るんですか?」

「まずは、小梅でカリカリ梅。次に、青梅で梅酒、梅ジュースの素、梅味噌。最後に、完熟梅で梅干し。おまけで、紅生姜(べにしょうが)と、ゆかりかしらね」


 ゆかりって、たしか梅の何かだと聞いたことがあるけど、紅生姜のどこに梅が入っているんだろう?


「何か質問ある?」

「はい。紅生姜って、梅と関係あるんですか?」


 僕の質問に、社長の奥さんはニヤリと笑った。質問を予想していたみたい。


「紅生姜のあの色は、梅干しを漬けた時に出る赤梅酢で作るから、赤いのよ」

「えー!そうだったんですか!?」

「まあ、市販のものは、着色料のもあるけどね」


 紅生姜って、赤い梅干しの色だったのか。自然の色でも鮮やかな赤い色になるのかな?


「参加したいと思いますが、予定はいつですか?」

「今週末の予定だけど、光明(みつあき)君の都合は?」

「土日どちらも大丈夫です」

「だったら、土曜日の10時からお願いします」

「はい!」


 僕が話し終わると、新しいパートさんがおずおずと申し出た。


「あの、カリカリ梅を作るんですよね? 私も見に来ても良いですか?」

「勿論よ!手伝ってもくれるんでしょう?」

「はい」


 社長の奥さんは上機嫌らしく、ニコニコとしていた。あれ?もしかして、人手が必要なのかな? 僕はそっとベテランのパートさんに聞いてみた。


「あの、もしかして、仕込み大変なんですか?」

「そうね。私は強制参加なのよ」


 苦笑いで答えたベテランのパートさんは、手早く帰り支度をし、僕と新しいパートさんに「頑張るのよ」と声をかけ、帰っていった。



 土曜日。

 9:50に店につくと、テーブルには大きなザルに入った小さな粒の梅が山積みになっていた。何とこれは一部で、厨房にまだあるらしい。3時間ほど水に浸け、ザルに上げたばかりと言っていた。

 確かに多そうだけど、先日仕込んだ漬け物の大根に比べたら、量は多くないと思う。


 挨拶が終わると、何か尖った物を渡された。

 これなんだっけ?と考え、思い出した。これは、服飾で使う目打ちだ。少しデザインが違うので一瞬わからなかったけど、学校で使ったことがある。これを何に使うんだろう?


「皆さん、ご参加くださりありがとうございます。初参加の人のために説明をしますが、ベテラン組は、開始してくれて構いませーん」

「あら、私も説明を聞きたいです」


 ベテランのパートさんが即反応していた。


「僕も聞きます!」


 なんと、調理担当の山田さんまで控えていた。


「俺も説明を聞くぞ?」


 厨房から社長も出てきた。


「しょうがないなぁ。全員説明を聞いてから始めましょう」


 社長の奥さんの説明は、既に水に浸けておいた梅のヘタを綺麗に取り除き、水気をしっかり拭き取る。ということだった。きちんと取らないと、食感が悪かったり、痛んだりする原因になることもあるらしい。


 ここで総量が発表された。小梅は50kgあるそうだ。おおよそ6000粒あるらしい。


「一人あたり、1000粒処理してください」


 あー。確かに人手が必要だ。

 ふと見ると、僕と新しいパートさんは目打ちを持っているけど、その他の4人は竹串でヘタを取っていた。そして、たまに先を削って鋭く直している。


 殆どのヘタはポンポン取れるけど、たまになかなか取れないのがあって、少しあせる。


 ヘタを取りながら教えてくれたけど、この小梅約6000粒は、4か月間くらいお弁当に使って、残りの期間は梅干しにチェンジするらしい。そしてなぜ4か月かといえば、カリカリ梅がカリカリパリパリしている期間が4か月程度なのだそうだ。…………あれ?残りの期間は? そしていつも詰めているお弁当を思い出した。普通の梅干しがのっている。もしかして、あれも仕込むのかな?


 うっかり気付いてしまい、そっと尋ねてみた。


「もしかして、普通の梅干しもこの倍の数を仕込んだりしますか?」

「あら、気付いちゃった?」


 僕が呆然としていると、社長が教えてくれた。


「普通の梅干しは、高い弁当の分しか仕込まないから安心しな」


 訳を聞くと、干すところが足りないから無理なのだそうで、もしも干す場所が確保できるなら、計算上約150kg(M12000粒)仕込むことになるらしい。それは、干すところが足りなそうである。それでも、20kg(2L)は仕込むそうで、約800粒くらい出来上がるそうだ。


 感心しながら手だけは動かし、1時間ほどで全部のヘタが取れた。


「しっかり水気も拭き取り、ヘタも綺麗に取り除いた梅に、量っておいた塩を揉み込みます。お家で作るなら、梅1kgに対して塩100~150g、卵の殻を2~3個くらい一緒に漬け込むと良いです」


 社長が抜け、5人が10kgずつに分けた梅に、塩を揉み込んでいった。容器は黄色いプラスチック製の漬物樽だ。卵の殻は熱湯消毒し、内側の薄皮を綺麗に取り除いてからしっかり乾かし、お茶パックなどに入れて使うらしい。


 この日のために貯めておいたらしい卵の殻が入ったお茶パックを、社長からたくさん渡された。まとめて入れても良いらしいんだけど、万が一成分が行き届かないと柔らかくなってしまうので、細かく分けたそうだ。


「卵の殻を均一になるようにのせ、ホワイトリカーを振りかけ、重石をしたら、上に埃避けのビニールをかけ、地下に運びます」


 え?地下? 地下があったなんて、知らなかった。

 運ぶのは社長が代わり、先に荷物用エレベーターで樽をおろし、地下に案内された。そこには、先日作った漬物や、お酒のストックなども置いてあった。そして大きな冷蔵庫らしき設備もある。


「荷物用エレベーターは中に操作パネルがないから、人は基本的に乗り込まないでくれ」

「はい」


 普通のエレベーターとは違うらしい。


「聞かれなかったから答えてないけど、梅干しを作るときは玉子の殻は入れないんだ。玉子の殻を入れることにより、梅の成分であるペクチンがペクチン酸カルシウムになり、梅の実が柔らかくならずにカリカリ梅になるんだ」

「そうなんですね。食べられなさそうな物を入れるのは面白いですね」

「貝殻とかでも良いらしいぞ」


 僕はメモに書き込み、家でも作ってみようかなと思った。


「家でもし作るなら、同量の砂糖も加えると、そのままカリカリ梅のおやつとして食べられるぞ」

「砂糖を加えないと、お弁当用ですか?」

「そうだな」


 なんと、おつまみコーナーで売っているカリカリ梅は、お弁当に入れるカリカリ梅と違うらしい。



「お疲れ様。青梅が売り出したら、梅酒とか他の物も作るけど、光明(みつあき)君は、参加する?」


 1階に戻ると、社長の奥さんから聞かれた。


「はい。ぜひ参加したいです!」

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