17 有毒植物
「聞いてくれよ!」
大声に慌てて見てみると、割と忙しそうな店内で、既に酔っているらしきたった今ご来店の客から、社長の奥さんが絡まれているようだった。
「いらっしゃいませ。どうされたんですか?」
「昼にな、冷や麦食べたんだよ。そしたら、サクランボとミカンと青い花が浮いていて、何の花だろうと思って聞いてみたら、『アジサイが綺麗なんで浮かべてみました』って言うんだよ。オレって毒殺したい程嫌われてるの?」
社長の奥さんがなだめているようだったけど、僕は意味が分からず不思議に思った。
「社長、あのお客さんは、何で殺されるって思ったんでしょうか?」
「あー、アジサイって毒があるんだよ。店の料理に入っていたなら、保健所通報もんだな」
「え、アジサイって毒があるんですか?」
「昔ならともかく、今は毒があるって有名だと思うけど、一般的には知られてないのか?」
社長は他の人にも聞いているみたいだった。僕と同じように、パートさんは知らない人もいたけど、知っている人もいた。
「聞いたことがあります。アジサイの葉を料理に敷いて出したら食べちゃった人がいて、食中毒になったとか」
そう答えたのは、調理担当の山田さんだ。どうやらそれ以降、アジサイが毒って認識が広まったらしい。飲食店にとって、食中毒は何よりも恐ろしい。
「身近な植物で毒があるのは怖いですね」
アジサイは、植えているお宅も多い。
「食用でもな、結構毒の有る植物は多いぞ?」
「そうなんですか? 例えばどんなものですか?」
身近な植物どころか、食用の植物? それって何だろう?
「トマトやじゃが芋なんかの、ナス科の植物の可食部以外(茎や葉やヘタなど)とか、さくらんぼの種とか、生の豆とか、加工前の蒟蒻芋とか毒性強いよ」
食品になる植物の食べない部分は、美味しくないから食べないと思っていた。まさか毒があるものがあるとは考えてもみなかった。
「そうなんですね。食品になる植物には、毒はないと思っていました」
「植物に興味がなければ、そう思っている人も多いのかもな」
そうか、興味の有り無しなのか。僕は今まで、食べられるものにも毒があるとは考えもしなかった。
調理が必要な食品は、美味しくするため以外に、安全に食するために調理が必要になるものもあるとのことで、知識の大切さを改めて考えることになった。
後日、お客さんのアジサイの花事件は、息子さんのお嫁さんの無知が原因と分かり、泣きながら土下座をして謝られたそうで、和解したらしい。料理番組で青い花を浮かべた冷麺が美味しそうだったので、真似てみたかったのだそうだ。アジサイには毒があると聞かされ、愕然としていたとのことだ。ちなみに、その料理番組で使った花は、バタフライピーだったらしい。
「野菜の注意なら、家庭菜園に何かを植えるときに、そばに似た有毒植物を植えないというのも大事だぞ」
「例えばどんなものですか?」
「ニラのそばに水仙とか有名だな。水仙は毒性強いらしいぞ」
「ニラと水仙って間違えやすいんですか?」
「生え始めの葉が、ニラと水仙は似ているらしくて、何度か食中毒の話を聞いたことがあるな」
「怖いですね」
「家庭菜園は、厳格に区画を区切って、観賞用の植物と混同しないことが大事だな」
成る程なぁと僕が感心していると、社長が面白いことを言った。
「これは毒とは違うけどな、苦瓜のそばでキュウリやメロンを育てると、たまに苦いのが出来るらしいぞ」
「え、苦いキュウリに、苦いメロンですか?」
「おう。友人の家庭菜園で出来たそうだ。全部瓜科だからな」
「科が近いと、混ざっちゃうんですね」
「そうらしい」
僕は、面白そうなので野菜を育ててみようかなと考えた。
「野菜を育ててみるなら、おすすめってありますか?」
「ミニトマトとか紫蘇が初心者向けだし使いやすいけど、自分が食べたい野菜が良いぞ? 種からより、苗を買って育てれば、初めてでも収穫できると思うぞ」
ミニトマトならそのまま食べられるけど、紫蘇はどうしたら良いんだろう。そのままムシャムシャ食べたりはしないよね。
「今度、ミニトマトの苗を探してきます」
「実が生ったら、写真でも見せてくれ」
「はい!」
その日、帰って母に相談すると、ミニトマトと赤紫蘇を買ってきてくれると母が言っていた。
赤紫蘇って、何になるの? そのまま食べられるの?
結局母は、ミニトマトの大きな苗と、バジルの苗と、赤紫蘇の種と、八房という唐辛子の種を買ってきた。バジルは、トマトにとってのコンパニオンプランツで、成長に良い影響があるそうだ。一緒の鉢に植えてある。赤紫蘇の種と唐辛子の種は、長細いプランター3つずつに撒いたらしい。合計7鉢だ。




