12 学校生活
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ある月曜日の3限が終わった時間。
「あ、いたいた。一抹君、サークルに参加しない?」
知らない生徒から声をかけられた。
「サークル? 活動はいつですか?」
「月水金の、4限か5限で、週1回でも出られればOK」
月曜と金曜なら4限は空き時間で、4限と5限の間は昼休みだ。
「ところで何のサークルですか?」
「生徒会」
それってサークルなの?
「えーと、慎んで辞退申し上げたいのですが、なぜ僕に声をかけたんですか?」
「今年の次席だから」
首席は入学式に新入生代表の挨拶をするから有名だけど、次席って、先生からのリークかなぁ?
「大変申し訳ないのですが、アルバイトが大変なので、なるべく空き時間は休憩したり復習したりしたいのです」
「あー、何か、バイト凄いんだって? 何年で卒業する予定なの?」
「3年間です」
「じゃあ、25取ってるのか」
74単位を3年で取りきるには、1年次に25単位取るのが最低限だ。
「いえ、29取ってます」
「マジで!?」
「必須科目以外では、興味のある授業を取らないのは、損だと考えます」
年間の授業料一緒だし。
「おおぉ。なに食ったらそんな立派な考え方になんの?」
「1度死にかけました。半年目が覚めず、リハビリに3か月を要しました。だからでしょうかね」
話している相手は前年の入学生で、他校なら先輩と呼ばれる立場だ。
「そんな訳で、ご期待に添えず、申し訳ございません」
「参考までに聞かせてくれる? 必須以外、何取ってるの?」
「陶芸、七宝、書道、華道、被服、食物です。工芸で漆細工は却下されました」
「あー、先生が持病で急に退任しちゃったんだよ、漆。却下されなかったら30?」
「その予定でした」
「すげえな」
「そうですか? 材料費だけで習い事を習えると考えると、お得としか思えませんよ」
「成る程なあ。そう考えるのか。俺も来年何か工芸系選択しようかな」
「それでは失礼いたします」
これで済んだと思っていたのに、翌週には、生徒会長を名乗る相手がやって来た。
「君が一抹君かな? 私は生徒会長。少し時間良い?」
「申し訳ありませんが、次の授業があるので無理です」
「時間が空くのはいつ?」
「1000日後でしようか。失礼いたします」
入学して約3か月経つ。
「それ、君、卒業しちゃうじゃん!」
色々な技術を習得したい僕に、生徒会をする暇はない。
今日は食物の授業で、胡瓜の早切り対決がある。どうやって勝敗を決めるんだろう? 調理実習の他、栄養学などの勉強をしている。
結局、1分間に切れた胡瓜の枚数が、先生の想定する枚数であれば合格と言う判定だった。割りと甘々だった。これ不合格になる生徒はいるんだろうか?と思っていたら、欠席者と、未達成者は再試験だそうだ。
書道には、とても面白い授業があった。皿に文字を書くので、書きたい文字を考えてくるようにと、先週から伝えられていた。この皿は、焼いて仕上げてくれるらしい。
皆、漢字一文字が多かったけど、僕は「かな」を書き、なぜか先生に絶賛され、展示物に取り上げられてしまった。結局この皿は手元に返ってくることはなく、ずっと学校に飾られることに。かなが分からない人に説明すると、アルファベットの筆記体のように、ひらがな(漢字が混ざることもある)を続けて書いたような文字だ。時代劇に出てくる手紙みたいな文章だ。
被服では前期に和裁を選択したので、浴衣を作っている。縫うのは割りとまっすぐしかないのでそんなに大変ではないけど、男子が少ないので隣の人には聞けない。作っている物の性別が違うからだ。だって、出来上がったら着て写真を撮りますって言われたんだ。女物を作るわけにはいかない。簡単だという理由でワンピースを作った男性が過去にいたらしいけど、着たのかなぁ?
陶芸と七宝は、バンバン作るのかと思っていたけど、理論や技法の説明など、座学が結構多くて驚いた。
筋が良いらしく、先生をしている職人さんから勧誘を受けている人もいた。教える側のメリットってそういうのだよなあと納得した。
華道は、選択したことを後悔した。センスが無さすぎるらしく、毎回先生が笑いをこらえている。前衛的な作品ですね。と言われるが、それ褒められていないと思う。
まあ、向かないことが分かって良かったと思うことにしよう。
今日の「食物」は、有名なパティスリーからパティシエが来るらしい。
「皆さん、こんにちは。2時間以内で作れる物をということで、当初はカスタードプディングを教えようかと思いましたが、既に授業で作ったと伺っています。今日は流行りを追い求めず、ガトーショコラを作りましょう。ちなみに僕は、ほぼ無給で要請に応じました。なぜかって、面白そうだからです」
何だかとんでもない挨拶をした講師は、計量が終わり、作り始めた頃に僕のところに来た。
「君が一抹君かい?」
「はい」
「先輩から聞いてるよ」
「先輩? どなたのことでしょうか?」
この学校に先輩というシステムはない。心当たりが全く無い。するとなんと、社長の奥さんの元同僚らしい。この講師は、社長の奥さんからの要請(?)だったそうで、ほぼ無給の訳は、学校に不足している分の卓上ミキサーを持ち込むために、レンタルしてきたかららしい。
「講師に招かれてくださり、誠にありがとうございます。僭越ながら、お礼申し上げます」
僕は深々と頭を下げておいた。
「お、おう」
想定する態度と違ったらしい。なぜか驚いていた。
毒気を抜かれたかのように、その後は普通に指導してくれた。
普通、ガトーショコラには小麦粉が入るらしいけど、口溶けを追求するあまり、小麦粉を排除したレシピらしい。(粉類にコーンスターチ等が入っている)
「しっかり適度に泡立てて、サクッと混ぜてください」
そうそう、私財をなげうって卓上ミキサーを用意されたみたいだけど、学校にもハンドミキサーはたくさんあるので、用意し損だったらしく嘆いていた。
出来上がったガトーショコラは、本当にとろける口溶けだった。アルバイトの日ではなかったけど、帰りにお店に寄り、社長の奥さんに1カット献上しておいた。
「師匠、お見それいたしました。こちらを献上いたします」
頭を下げたまま、恭しく両手で差し出してみた。
「苦しゅうない。面を上げぇ」
社長の奥さんは、コントに付き合ってくれた。社長はお腹を抱えて笑っていた。
お読みくださり、心から感謝申し上げます。
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皆様のおかげで訪問してくださる方が増え、大変喜ばしい限りでございます。
評価をくださった方、本当にありがとうございます。大変心強く感じております。




