13 イカ墨のアドボ
見たことがない料理を社長が作っていた。
「社長、その真っ黒な料理ってなんですか?」
「これか? これは、イカスミアドボって名前のフィリピン料理らしいぞ。奥さんが、フィリピンの友達から習ってきたんだよ」
「マンゴーサゴの人ですか?」
「たぶんな」
なんだか、異国な匂いがする。
漁港の知り合いから新鮮な小イカがたくさん手に入ったそうで、本日のおすすめらしい。
「作り方を見ても良いですか?」
「良いぞ。簡単だから、覚えて次作ってみると良いぞ」
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イカスミアドボ 3~4人前
小さめの生イカ 500g
玉葱 1/2個
にんにく 2片
醤油 大さじ2
酢 大さじ2
粒胡椒 適量
月桂樹の葉 2枚
サラダ油 大さじ1
砂糖・味の素 ほんの少々
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「まず、イカは背骨を抜いて胴を輪切りな」
「はい。1cm幅で良いですか?」
メモを取りながら、準備を手伝っていく。
「食べやすい大きさならOKらしいよ」
「なら、2cmくらいの方が食べやすいかな」
次の同じ注文が入り、ほぼ当時進行で作ることになった。
「家で作るなら、くちばしとか目とかも抜くと良いぞ。店は背骨しか抜いてないけどな」
「はい」
商売では価格と手間の関係で、出来ない作業ってあるよね。
「ゲソも適当に切り分けて加えるぞ」
「はい」
小イカなので、2~4等分に縦に分けるくらいで良いらしい。足をあまり細かくしてしまうと、食べにくいそうだ。
「ワタは、大きなイカの場合は取り除いてくれ。小イカならそのまま加えてくれ」
「はい」
名前にもあるけど、イカスミが入るから、料理は真っ黒だ。それを見て、これは一体なんだろうと社長に尋ねたのだ。
「玉ねぎは薄切り、ニンニクは包丁を寝せて潰して荒みじん切りだ」
「はい」
ここから加熱調理だ。
「中華なべを用意してサラダ油を熱し、ニンニクを加え、香りが出たら玉ねぎも加えて、しっかり炒めてくれ」
「はい」
ここでしっかり火を通しておかないと、この後はイカをさっと加熱するだけなので、玉ねぎが生焼けになってしまう。
「イカを加えて火が通ってきたら、醤油、砂糖、味の素、月桂樹の葉を加え、イカがなじんできたら酢を加える。酢を加えたら、煮立つまでかきまわすなよ」
「はい」
かき回すと、色が濁ってしまうらしい。
砂糖と味の素は、醤油の味の調整のために入っているそうだ。だからほんの少し。
「煮たってきたら粒こしょうを粒のまま加え、イカに火が通ったらできあがりだ。スパイシーなのが好みなら、胡椒は少しつぶしても良いぞ」
「はい」
「皿に移して出来上がりだ」
フィリピン料理で、酢と醤油を使って煮こんだものを『アドボ』と呼ぶそうで、日本の醤油とフィリピンの醤油は味がかなり違うようで、砂糖をほんの少しと味の素で近い味にできるらしい。中国の醤油が手に入るなら、更に味が近づくらしい。酢と醤油の割合は、好みで調整すると良いと言われた。
あと、イカは火を通しすぎると堅くなるので、肉料理よりも素早く加熱するそうだ。
真っ黒で見かけは驚きだけど、日本人好み味で、ビールがすすむと教えてくれた。
僕は年齢的に飲めないけど、まあ、ここは居酒屋だから、お酒に合う料理は喜ばれるよね。母さんに作ったら、喜ぶかなぁ?




