拾
初めて抱く感情に、萌は戸惑っていた。
心の奥底から、込み上げて来る感情に抗えないでいた。堪え切れない苦しみが、胸を焼いている。気付けば頬を、大粒の涙が零れていた。
自分は鉈梛九に依って、創られた存在。言わば、主の意の儘に動く傀儡だ。
傀儡に感情は要らない。只、与えられた命に従うだけだ。既に与えられた役目は熟している。刹那の力を、高める事に成功した。後は時期を見て、主達が刹那を浚うだけだ。其の事を考えるだけで、胸が張り裂けそうな程、苦しかった。刹那の顔が、頭から離れなかった。
どうしてこんなにも、苦しくなるのだろう。自分は傀儡。感情は不要だ。幾度と無く、主からそう命じられていた筈だ。
其れなのに何時の間にか、刹那と過ごす日々が、心地良いと感じていたのだ。偽りの日々を演じていただけなのに、自分の中で大きな意味を持ってしまっている。何気ない会話が楽しかった。刹那と共に、ずっと居たかった。だけど其れは、もう叶わない。
——私達は、ずっと友達だって信じてるわ。
刹那の言葉を、嬉しいと感じている自分が居る。ずっと、友達で居たかった。
刹那の事を、裏切ってしまって悲しいと感じている自分がいる。友達として、刹那に誤りたかった。
傀儡にそんな感情は、不必要だ。どうしようも無く、胸の奥が痛かった。刹那を裏切ってしまった自分が、赦せなかった。
自分は鉈梛九の意の儘に動く傀儡なのだ。
感情なんて、要らない。
友達なんて、要らない。
なのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。
萌は訳も解らずに、吐き捨てる様にして、大声で哭いていた。




