魔物使い
「残りはキサマだけだ」
メンバーがミノワのもとに集まると、ミノワは前に出てチュンに詰め寄った。
「一人? 勘違いしてもらっては困る」
多勢に無勢だというのにチュンに焦る様子はない。それどころか余裕さえ感じさせながら懐から魔石を取り出した。
「駒はまだいるのじゃよ」
チュンが魔石にマナを注ぐと魔石は魔物の姿へと変化した。
「オーク!?」
豚の頭を持つ人型の太った魔物。大きな棍棒を軽々と持っている姿からもそのパワーが窺える。
「魔物がいるのはダンジョンだけではないのか?」
ミノワは単純な疑問を口にする。
魔物はダンジョンが発するマナにより存在を維持しており、ダンジョンから出れば消滅する。それ故魔物はダンジョン以外にはいない。ミノワはそう聞いていた。
「あのチュンって奴、魔物使いですよ」
「魔物使い?」
魔物使いとは魔物を使役し戦う天職である。魔石となった魔物と契約することで魔物を使役することができるが、専用武器と同じように、自身の天職より高いレベルの魔石の魔物とは契約できない。
自身で戦う天職ではない魔物使いの強さは、使役している魔物の強さに比例する。オークはDランクのワーカーでも倒せる魔物だが、それはあくまでパーティーでの話で、ソロならばCランクのワーカーでも倒すのは難しいだろう。そんな魔物を使役しているチュンは伊達に魔蛇の代表を務めているわけではないらしい。
「牛と豚、どっちが強いかのう」
チュンは楽しそうに笑った。
「ミノワさんここはみんなで」
リーヴはミノワの背中に向かって声をかける。
ミノワの強さは知っているが相手はソロならCランクのワーカでも勝てるかどうかわからない相手だ。もしミノワが倒されでもしたら、自分たちだけでは勝ち目が薄い。そう思ったリーヴは全員でオークを倒そうと進言した。
「殺れ」
「ブォォー」
!!!
「ぐをっ!」
だが、それよりも早く咆哮を上げオークが突進し、手に持った棍棒でミノワの顔を殴りつけた。
「首が折れていないとは、大したものだ。だが」
鍛え抜かれたミノワの太い首はオークの攻撃を受けても微動だにしなかったが、その顔を見てチュンの口角が上がる。
「さすがにノーダメージとはいくまい」
ポタポタと地面に落ちる鮮血を見ながらチュンが笑う。
「アニキ―」
カイトは剣に手をかける。
「お主らの相手はこいつじゃ」
チュンはまた魔石を取り出し魔力を込めた。
「う、噓だろ」
現れた魔物に驚愕する。
蠍の尾を持つライオン。だが、立派な鬣を纏った顔は猿のようだ。
「マ、マンティコア……」
青ざめた顔のリーヴの口から言葉が漏れる。
「あいつこんな魔物まで使役できるの」
「……」
マンティコア。鋭い爪と牙、更には尾にある針には毒を持つ、獰猛な魔物だ。
ダンジョン同様、魔物を具現化させるのにはマナが必要になる。当然魔石のレベルが高いほど消費するマナも大きい。オークとマンティコア2体同時に使役しているチュンのレベルやマナの量は相当なものだろう。
「まさか、マンティコアを使役できるなんて、アレはやはり」
「ドラという男もそうでし、魔蛇にはいろいろありそうですね」
マンティコアを見たホーガンとマヤは難しい顔で話をしていた。
「だが、マンティコアか、相手が悪いな」
オークの相手をしているミノワの加勢が期待できないとはいえ、相手は魔物一匹、数的には断然有利だ。
だが、ホーガンの言葉を裏付けるように、カイトたちには絶望感が漂っていた。
マンティコアはレベル5以上のダンジョンに出現する魔物だ。レベル5とはCランク以上でないと許可されないダンジョンだ。つまりCランクワーカーのいるパーティーが相手にする魔物をFランクでしかない、自分たちが相手にしなければならないのだ。
「いつまでもつかな」
「ガァー」
「!!」
チュンが指示を出すとマンティコアはジャンプしカイトの前に着地すると太い前足でカイトを薙ぎ払った。
一瞬の出来事にガードも取れず倒れるカイト。
倒れているカイトを中心に赤い液体が広がっていく。腹爪で裂かれた腹部から血が溢出しているのだ。
「カイト―!」
傷が内臓にまで達しているのか、口からも血を吹いているカイトを見たリーヴはカイトの名を叫び駆けだした。
「えっ!」
リーヴの行く手を阻む巨大な壁。その巨体からは想像できない俊敏さでリーヴの前に現れたマンティコアの毒針がリーヴを襲う。
「あぶない!」
マンティコアの毒針がリーヴに突き刺さろうとした刹那、マイラはリーヴを抱え大きく飛び退くと、マンティコアの尾は空を切った。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうマイラ」
「早くカイトさんを」
「でもマンティコアが」
「私が足止めをします」
決意の宿った目でマイラは言った。
個々に挑んでは、100%マンティコアを倒すのは無理だろう。
マンティコアを倒すには皆の力を合わせる必要がある。それでも勝算はかなり低いだろうが0ではない。その低い勝算を僅かでも上げるためにカイトの力は必要だ。だが、何よりも箕輪家の家族を死なせるわけにはいかないのだ。
「すぐに戻ってきます」
マイラの目を見て覚悟を決めたリーヴは力強くそう言うと、カイトのもとへ走り出した。




