↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

17

 拝啓

 

 お姉ちゃんへ


 十六歳の誕生日おめでとうございます。私も十六歳になりました。日付が変わって一番に連絡してきてくれてありがとうございました。お姉ちゃんの変わらぬ愛情を実感できて、胸打たれるものがありました。私からも私なりに愛を込めて、この手紙をしたためさせてもらいます。

 今年のプレゼントは去年に比べて奮発してみましたが、いかがでしょうか。去年のピアノバッグは普段使いしてもらっていますが、今年のものはおしゃれ使いしてもらうことになるかと思います。学校に普段使いで付けて行くには少し目立つ大きさだと思うので、私とデートするときなんかにつけてきてくれると嬉しく思います。誕生石のオパールは小さいですがイミテーションではなく本物です。大きさの割に着物にも似合いそうなデザインなので、お正月あたりに雪持ち南天の振り袖と合わせてみるのもいいかもしれません。

 入学から半年が経ってどうでしょうか。ちゃんとお姉ちゃんのやりたいことができているでしょうか。傍目にはお姉ちゃんは絶好調に見えます。作品番号一番のソナタも、作品番号四番のリートも、教授陣の中では好評を得ていたと聞きますし、ピアノのレッスンでも、流石は元奨学生と言うべきでしょうか、ピアノ専攻の学生に交じって成績上位を占有しています。羨ましい限りです。私の場合、バスクラリネット以外は副科も座学もぱっとしない有様で、周りのレベルの高さに置いて行かれているのがはっきりしたというのがこの半年の感想です。コンセルヴァトワールはリセと違って幼少期からコンクール常連のような学生がいるわけではないものと安心しきっていましたが、流石に「町で一番音楽が得意な子」を競争試験で集めれば、平均のレベルも高くなるというものです。

 お姉ちゃんやプロデューサースクールの上野さんにとってはあまり裨益しない話ですが、今度馬術部の四人で勉強会でも開きませんか。灯子さんもピアノ以外の座学では苦戦している様子ですし、声をかけてみようかと思います。図書館のディスカッションスペースでよく意識の高そうな人たちがやっているようなあれです。私とお姉ちゃんはホワイトボードを使うよりもチャットか何かで参加する方がスムーズに運ぶかもしれませんね。恐らくやってみたら、私と灯子さんが愚痴りながら、それをお姉ちゃんと上野さんで受け流しつつ進行することと思いますが、お姉ちゃんも上野さんも我慢して付き合ってくれるでしょうか。

 上野さんもこの間の新人戦に「蒼龍」号と出場して、見事優勝して見せた通り、傍目には絶好調に見えます。一学期の成績も優秀そのものでしたし、あの人にできないことは無いのではないかとさえ思わせます。灯子さんも私も、上野さんのことが羨ましくてなりません。お姉ちゃんも絶好調同士上野さんのことが気になっているのではないですか。お姉ちゃんと上野さんは私よりも話す仲ですし、私よりも気になる立場でしょう。作曲科とプロデューサースクールとでは共通する科目もそこそこあるかと思いますし、私たちが愚痴を言っている間にも話が弾むのではないかと思います。

 上野さんとしてはお姉ちゃんよりも灯子さんの方が気がかりかもしれません。どうしても私たちより話す仲ですし、できない子の方が可愛いとも言います。お姉ちゃんとはできる子同士、灯子さんとはできない子相手にそれぞれ仲良くなれる素地があるとして、一番中途半端なのが私です。上野さんとはこちらも仲良くしたいのですが、なかなか共通の話題に事欠く感覚で、どうしたら良いものか分かりません。お姉ちゃんにも何かいい案はないでしょうか。お姉ちゃんが話しているときに私の方へ話を振ってくれるにしても、やりすぎると不自然になって余計なお世話になってしまうかもしれません。

 上野さんの件は置いておくにしても、入学から半年経って、私には友達らしい友達が灯子さんぐらいしかいません。クラスやバンドの方で話すようになった仲の人も何人かいますが、それはそれ以上の関係にはなりませんでした。お姉ちゃんには度々話に出てくる千川さんや河崎さんのようなお友達がクラスの方にいるみたいですが、そういった存在が私にはいないのです。別に友達を作ってどうこうしたいというような目的論的動機がある訳ではないのですが、せっかく特別支援学級を出て一般学級で学んでいるのに、もったいないではありませんか。別に灯子さんが友達では不満だと言っている訳ではないのですが、コンセルヴァトワールの七年間のスタートダッシュで失敗してしまったら、それが後の六年間にもずっと響きそうな気がするのです。

 私の辛気臭い話はこれぐらいにして、もっとめでたい話にしましょう。お姉ちゃんは来月の障害者馬術新人戦に選手として出場することが決まっているのでしたね。学生と社会人が混合で競いますが、お姉ちゃんならきっといい成績を獲れるものと期待しています。「白龍」号との新しいコンビも調子が良さそうですし、乗り換わりの甲斐もあったというものです。最近は灯子さんも養老馬の「秋潮」号のお世話ではパートナーとして上手くやっていけているようで、何よりと言ったところです。馬術部二十四期の未来は明るいと言えるでしょう。私も来期こそは新人戦の代表入りができるよう頑張ってゆきたいと思います。

 明るい話題と言えば、十月一日付で悠季子さんが大阪高裁京都支部の予審部長に就任されたようで、おめでとうございます。高裁の予審部と言えば汚職事件と組織犯罪の二つと相場が決まっています。これまで地裁で予審部を率い、刑事事件の審判上並々ならぬ成果を挙げてきた故のご抜擢であると思います。管理職として忙しい立場になるとは思いますが、ご活躍をお祈りしています。何卒お体をお大事にと、お姉ちゃんからでも伝えておいて下さると助かります。

 うちの母親はと言えば、相変わらず変なものを撮っては面白おかしく切り貼りしています。前作が予想以上にヒットしたため、今作では趣味に走って、民俗博物館の移転引っ越し作業の撮影をしに、北海道まで出向いている様子です。きっと来年の春頃にはテレビスペシャルか短編映画の一本でも出来上がって公開されることでしょう。なんとなく今回はカメラワーク以外では見るべきところのない、「役者」の力で画面を持たせるような凡作になりそうな気がしています。人に見せるにしても二時間は長すぎるでしょう。せいぜい一時間、あるいは四十五分ぐらいの長さがいいところではないでしょうか。こうした趣味の作品はどうやってマネタイズするつもりなのか常に謎です。

 親の心配よりお姉ちゃんの誕生日をお祝いすることの方が大切です。大げさに聞こえるかもしれませんが、私がいなくてもお姉ちゃんはこの世に生まれてきたかもしれませんけれど、お姉ちゃんがいなければ私はこの世に生まれてこなかったような気がしています。それは私たちが双子であるからばかりではなくて、もっと根本的なところでお姉ちゃんが私をこの世に導いてきてくれたように感じることがあるのです。同じ産道を通ってきたとかそういった話ではなく、お姉ちゃんの存在が私を必要としてくれた、引き合わせてくれたように思われるのです。

 だから私はお姉ちゃんがこの世に生まれてきたことに心から感謝しているのです。私自身が十六年前の今日この日に生まれてこれたことを喜ぶ以上に、十六年前の今日お姉ちゃんが私の手を引いて生まれてきてくれたことを嬉しく思うのです。もちろん産んでくれた悠季子さんや取り上げてくれた冬樹さん、育ててくれた両親にもそれぞれ感謝はしますが、何より嬉しいのはお姉ちゃんが無事私と一緒に歳を重ねていっていることです。これからも一緒に二人歳を重ねてゆきましょうね。それが私にとっての何よりの贈り物です。

 とは言え、お姉ちゃんからのプレゼントも、ちゃんと楽しみにしています。去年のものは普段使いできるので、度々着けているのを見ていると思います。お姉ちゃんはそうしたさりげなくお姉ちゃんを身近に感じられる品を選ぶのが上手ですから、今年も期待しています。身に着けられるもので年々揃えていったら、いつか全身お姉ちゃんからの贈り物で埋め尽くされてしまうかもしれません。そのときまで一緒に歳を重ねてゆけるといいですね。私たちはこれまでほどよい距離感があったからこそ衝突せずに済んできたのかもしれませんから、同じ学校、同じ寮であるからといって、これまで以上に変に意識しすぎない方がいいのかもしれません。

 思えばそれまで私たちは不思議なくらい喧嘩をしない姉妹でした。それは姉妹と言うより親戚、従姉妹ぐらいの距離感だったからかもしれません。付き合い始めたからと言って、そこは大きく変わっていない状態が始めの半年ほどは続きましたね。学校に入学、入寮した後も、専攻が違えば日中一度も顔を合わせない日も珍しくはありませんし、馬術部の活動が唯一顔を合わせる機会という日も少なくありません。週末も毎週デートしているわけでもありませんし、案外こうしたほどよい距離感が関係を長持ちさせるには良いのかもしれません。

 とは言ってもお姉ちゃんと恋人らしいことをしたくない訳ではありません。恋文をやり取りしたり、手を繋いでデートしたり、キスしたり、同じお布団で朝を明かしたり、お姉ちゃんとしたいことは色々あります。そうしたことは一つ一つ積み重ねてゆきましょう。なので早速ですが、今日私の部屋に泊まりに来ませんか。最近はあまりお姉ちゃんの部屋に泊まりに行くことも、お姉ちゃんから私の部屋に来てくれることも無かったので、久々に一緒に過ごしましょう。部屋を片付けて待っています。お姉ちゃん基準ではまだまだ散らかっているかもしれませんが、そこはそれとなくご容赦下さい。

 それから、今日の部活が終わった後、二人でケーキでも食べに行きませんか。不二家でも十番館でも構いませんが、お茶のできるところでデートしましょう。お姉ちゃんのお薦めがあればそちらでも全然構いません。そのまま夕飯もどこかで外食してきてしまうのもいいかもしれません。その流れで私の部屋に来てくれれば完璧な一日の出来上がりです。部活上がりにお風呂に入ってしまえば、そのまま朝まで部屋に入り浸りになってしまえるでしょうし、そうしましょう。今日は二人ずっと一緒に過ごす日にしましょう。日曜日も互いの体温を感じながらだらだら目覚めて、だらだらレッスンして、だらだら過ごしましょう。お姉ちゃんには悪いですが、今日明日は妹の我がままに付き合ってもらいます。妹の願いを聞くのもお姉ちゃんの務めですからね。

 詳細についてはまた部活のお昼休みに詰めることにしましょう。改めて今日はお誕生日おめでとうございます。今日がお姉ちゃんにとっていい日となりますように。それから、誕生日のお祝い、ありがとうございます。優しいあなたに祝福が訪れますように。


 敬具


 十月十八日

 

 秀子より


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。