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お母さんへ


 拝啓


 菫の花咲く頃、初めて君を知りぬ、と続けば宝塚ですが、実際に学校の花壇にも花咲く菫が可愛らしく見えるこの頃、いかがお過ごしでしょうか。学校が始まって最初の一週間が終わったところで、改めて近況をご報告します。前回はとつおいつ出来事を書き連ねた結果、あまりに長くなりすぎて失敗してしまいましたので、今回はトピックをいくつか選んでなるべく読みやすい長さに抑えられるよう頑張ってみたいと思います。

 まずは学校の授業が本格的に始まりました。と言っても初回はオリエンテーションが中心であまり中身には入る訳ではありませんでしたが、時間通りに物事が動き始めた感覚は、学校が始まった実感が湧いてくるものです。授業は一コマ七十分で、おおむね午前中に教養科目、午後に専門科目、それらの合間にレッスンが入る形です。一回生の内は単位制とは言っても選択必修が多い仕組みなので、先に授業を組み立ててから、そうにかそれらの合間にレッスンを入れ込まねばならず、本格的な履修登録を前にお姉ちゃんと一緒に頭を抱えました。

 最初の授業は久原先生の英語の授業でした。チャイムが鳴り終えると同時に流れるような英語でオリエンテーションが始まり、私は仰天しました。早速とんでもない所へ来てしまったという思いが最初に湧いてきました。私は試験英語以外からきしできないので、半分も聞き取れないまま茫然としていました。久原先生はにやにやとチェシャ―猫のように笑いながら学生たちの反応を見ていましたが、やがて日本語で喋り出すと、いま私が喋ったことは全部このレジュメに書いてあります、と言ってオリエンテーションのレジュメを回し始めました。久原先生のレジュメは講義録形式で、なるほど確かに先程英語で言っていたらしきことが書いてあります。他の学生も安堵した様子で、最初の緊張感から一転してリラックスした雰囲気になりました。

 オリエンテーションの後、余った時間で少しだけ教科書の内容に入りました、教科書の輪読でもさせられたらどうしようかと思いましたが、久原先生の授業は文法と発音に注目しながらレジュメに沿って講義形式で進み、最後に次回の英単語テストの範囲を示して終わりました。私は物心ついてから初めての一般教室の授業を終えて一心地つき、そのことをお姉ちゃんに報告しました。お姉ちゃんも最初の現代文の授業を終えたところで、お互いにやったね、という意味のことをやり取りした後、教室移動のために私は席を立ちました。

 一体広大なキャンパスの中で、教養教育推進機構棟なり、入学試験も行われた建物は中心部に位置し、そこから放射状に器楽科棟や邦楽科棟、音楽学総合研究棟、舞踊科棟、声楽科棟などが配置され、土地の起伏に沿った複雑な道によって繋がっているのですが、教養科目から専門科目やレッスンに移動する際には、この迷路のような道を間違えずに器楽科棟まで休み時間内にたどり着かなければならないのです。休み時間は十五分しかありませんから、この間にお手洗いも済ませておかなければいけませんし、なかなか忙しい学校に入ってしまいました。次の授業は早速専攻楽器のレッスンのオリエンテーションです。まだ指導教員とレッスン時間が正確には決まっていないので、最初は櫛の歯の根元にある教室に集合となりました。

 器楽科クラリネット専攻の個人レッスンに集まった一回生は私を含めて八人で、バスクラリネット専攻は私一人だけでした、一回生の指導教員は男の倉本先生と女の星野先生のお二人で、バスクラリネットを見てくれるのは星野先生の方でした。専攻楽器のオリエンテーションによれば、クラリネット専攻はバンドやオケやアンサンブルのレッスン時間が長く、個人レッスンの時間はなかなか取れないのですが、私の場合楽器が特殊なので、星野先生のご都合に合わせる形でわりあいすんなりと決まりました。他の人もめいめい担当教員とレッスン時間が決まっていったところで、余った時間の余興に次回からチェックされる課題曲のアンサンブルに取り組むことになりました。ロックのバレエ組曲と言っても全体で二十六分もありますから、最初の二曲だけ練習することになったのですが、わずか三分程度のメロディーに一体どれだけの指導が入ったことでしょうか。まるで練習してこなかった子供をたしなめるように次々と入る指導に、おそらくは唖地域で一番クラリネットが上手かった中学生だったであろう私たちは見事に鼻をへし折られました。

 そんな傷心を抱えながら、今度は現代文だ、和声法だ、音楽史だと教室をあっちこっち移動している間に、初日六時限目の一回生吹奏楽バンドの練習時間がやってきました。選べるものなら本当は作曲科の作品の演奏機会もあるという管弦楽オーケストラに入りたかったのですが、バスクラリネットを専門にするなら吹奏楽バンドにしか選ばれないという話をレッスンの際に聞きましたし、お姉ちゃんも吹奏楽バンドを推奨したため、渋々こちらに入団したのでした。指導教員は福地先生で、この方は毛人の先生でした。オリエンテーションの際には、体の割に声の小さくかすれ気味な先生だと思っていたところ、歌い出すと信じられないほど音圧のある張りの良い声を出されるので驚きました。

 初日は顔合わせの後に、オリエンテーションの一環として基礎合奏を行いました。アルペッジョまでは行くかと思いましたが、ロングトーン一つでパートを分けながら三十分もかけて行われ、それだけで時間が過ぎてしまいました。合間に入る指導も言葉は優しいながらも厳しい内容のもので、ロングトーンだけでここまで言われるものかとまたしても気を落としました。一日目を終えて、私はやはりとんでもない所へ来てしまったものだと思いました。それはわざわざこんな所を選んでやってきた自分に対する言葉であるとともに、これからの学校生活に対する武者震いの意味も含んだ言葉でした。往々にしてこうした武者震いはより厳しい現実によって早々に萎えてしまうものではあるのですが。

 ともあれ、こうして授業が始まってみると、やっとコンセルヴァトワールにやってきたのだという実感が湧いてきました。それまでが寮にいる時間が長かったというのもあり、まるで寮生活をしにコンセルヴァトワールまで来たかのような感覚に陥ることもあったのですが、授業を受けると、やはり私は音楽の勉強をしにこの学校へ来たのだということが思い出されました。聖園会のことも真保会長のことも忘れて音楽に集中していい時間が私には与えられているのだということ、それはまた嬉しいことなのですが、同時にそうした頭を悩ませる物事が、私の帰るべき場所には待っているという毎日が構造化されることも意味します。それがどういう展開を見せるかはまだ分かりません。分からないなりに、それでもきっといい方に転がっていくと信じて日々を過ごしてゆこうと思います。

 続いて、馬術部の仮入部に行ってきました。仮入部と言ってもジャージで見学するだけなのですが、色々と珍しいものを見られたのでご報告します。

 八日の授業が終わると、教養棟の前に勧誘のプラカードを持った上級生が詰めかけていました。四方八方から差し出される新歓のビラをかき分けつつ、私はお姉ちゃんと一緒に馬術部の案内を探しました。ようやく探し当てたときには、馬術部の先輩は人が集まらず帰ろうとしているまさにその時でした。

 案内に来たのは関さんという六回生の先輩でした。関さんは私たちを案内して、根岸の競馬場まで向かいました。練習馬場には夜間照明が灯り、何人かの先輩が騎乗して練習をしていました。私たちは更衣室を借りて持ってきたジャージに着替えると、関さんの指示に従ってババの策の外から練習を見学させてもらいました。

 関さんによると、今練習しているのは二回生と三回生のいわゆる高等部の学生で、まだ授業が一杯で科目選択の余地も少ないために午後の練習時間となっているのだそうです。四回生以上のいわゆる大学部の学生は朝練が中心で、馬の世話なども大学部の先輩が中心となって行われ、俗に高等部まではお客様などと言われているそうです。その高等部の練習ですが、その日は歩様の基礎練習をしているようで、ぐるぐると馬場を歩かせて回ったり、速歩や駈歩をさせてみたり、まっすぐ歩いたり回ったりといった練習をしていました。近くで見る馬はとても大きく、蹄などは私の頭ほどもありそうに感じられました。お姉ちゃんは葵祭の平安騎馬隊を見慣れているからかそれほど驚いていませんでしたが、私の場合、願書の提出の帰りに遠目に眺めて以来、間近に馬を見るのはほとんど初めてだったので、まずその大きさに一番驚きました。

 一時間ほど乗馬練習をした後で、午後六時過ぎに練習が終わり、馬が厩舎に引き上げる時間となりました。私たちも厩舎の中に入れてもらうと、部員たちが運動してきたばかりの馬を洗ってあげたり、ブラシをかけてあげたりしていました。気持ちよさそうに目を細めている馬はとても可愛らしいものです。夕飼をあげるときに、おやつのりんごを手から食べる馬の姿を眺めていると、広見さんという三回生の先輩がやってきて、私たちもおやつをあげてみないかと誘われました。おねえちゃんから「瑞龍」号の前に切ったりんごを差し出すと、瑞龍号は柔らかい唇をお姉ちゃんの掌に押し付けてりんごを食べました。この時お姉ちゃんがひゃっと声を上げて尻尾を跳ね上げたのは珍しい光景でした。広見さんは笑って瑞龍号の鼻先をふにふにと撫でてやると、お姉ちゃんにも鼻筋を撫でてやるよう促しました。お姉ちゃんが恐る恐る鼻筋を撫でてやると、瑞龍号はぶるるとどこか満足気に鼻を鳴らしました。

 私も瑞龍号にりんごをあげてみましたが、なるほど馬の口の当たる感覚には独特のものがあります。声が出ない代わりに手を引っ込めそうになりましたが、瑞龍号は大きな頭で私の手を追いかけてりんごを掠め取ってゆきました。私も瑞龍号の鼻筋を撫でてやりましたが、お姉ちゃんほどの反応は返してくれなかったのは残念でした。間近に見ると馬はやはり大きな動物だなあという感想が先に立ちます。瑞龍号は競争を引退したサラブレッドだということですが、ちゃんと立てば頭がお姉ちゃんが手を伸ばしたより高いところにある大きな馬です。向こう側の馬房には遠目にも瑞龍号より大きな馬がいて、関さんによるとあれらはハノーファーやヴェストファーレンといったまた種の違う馬なのだそうです。

 帰りのミーティングが終わると、関さんから良ければ明日の朝七時にまたここに来てくれたら大学部の練習が見られると誘われました。今度からは最初からジャージで現地集合ね、と補足を受け、私は先輩方は誰一人ジャージを着ていないことに気が付きました。皆さん長袖長ズボンなのは共通ですが、示し合わせて何かを着ているという様子もありません。こういった部活動ではユニフォームを作ったりするものかと思いましたが、そうでもないようです。

 帰りながらお姉ちゃんに明日も来るかどうか聞いたところ、私が行くなら行くと消極的な返事でした。面白くなかったのかと聞いてみたところ、面白そうだったけど、自分が乗っている姿をまだ想像できないのだということを言っていました。試乗会は来週からなので、まだ自分が乗っている姿を想像できないのは当然のことでもあります。今の期間は馬術部がどのような活動をしているか、馬という生き物がどれほど愛らしく信頼に足るものであるかを知る広報の機会に過ぎないのですから、自分自身がやってみたくなるかどうかは二の次三の次である訳です。私は明日の朝も行くと言うと、お姉ちゃんは早起きしなくちゃなあ、とため息を一つ漏らしました。

 翌朝、お姉ちゃんと一緒に再び根岸の競馬場に向かいました。今度は最初から長ジャージを着こんで、早朝の寒さに耐えながらの道行きでした。既に掃除や装鞍をやり終えて練習に入るところで、大学部の先輩方がぐるぐると輪乗りを行っていました。昨日引率された関さんも青毛の馬に騎乗されていて、今回の案内は四回生の松尾さんという方でした、練習は昨日と同じように、常歩、速歩、駈歩のフラットワークから始まりました。三十分ほど運動した後、今度は障害を組んで飛越の練習が始まりました。膝や腰ぐらいの高さの障害を次々跳んでゆくのを見る度に、あんなに大きな生き物がよくもまあ軽快に跳ぶものだと感心しました。隣で松尾さんが逐一解説してくださるので、これが垂直障害、あれがオクサー障害と、こちらから聞く前に教えて下さり、見学に役立ちました。

 練習後は昨日と同じように馬の手入れと朝飼をやる時間です。今日も厩舎の中に入れてもらうと、障害飛越の後で足が張っていないか、水で冷やしながら確認する様子や、朝飼の配合の様子などを見学させてもらいました。今日は関さんに誘われて、関さんの乗っていたヴェストファーレン種の「仁龍」号にカットしたにんじんをあげました。瑞龍号よりもがっついて食べる仁龍号の勢いに気圧されているとお姉ちゃんは尻尾を逆立てて仁龍号の気持ちを読むと、手を伸ばして仁龍号の顔を撫でてやりました。落ち着いてきた仁龍号を見て、関さんは俺よりもいいコンビになれるんじゃないか、と笑いながら言っていました。

 部活動の見学はたまに人も増えつつ、基本的には私たち二人と、水曜から加わった上野さんという学生の三人を中心に進められました。上野さんは音楽経営論研究科、いわゆるプロデューサースクールの学生です。私たちが将来演奏家や作曲科を目指す場合には、その仕事を作る側の人間になる訳ですから、ここで仲良くしておくに越したことはありません。装でなくとも他人とは仲良くできればそれに越したことはありませんが、部活動でのつながりが将来の仕事を左右する、なんてことはいかにもありそうに思われたので、積極的に言葉をかけて有効に努めるようにしました。

 上野さんは馬に接するときも泰然自若とした人で、初めて馬におやつをあげたときも私たちのように臆したりせず、自分から鼻先をふにふにしてやったり、声をかけてやったりしていました。声をかけてやった方が馬たちにも分かるのか、上野さんの方が私たちよりも先に馬たちに覚えられているような気がします。元々人懐っこい瑞龍号ですが、上野さんのことはすぐに覚えて、おやつをくれる人扱いしてせがんできます。馬がおねだりするときは前かきをするのですが、上野さんが馬房の前に来ると、瑞龍号は前かきをしておねだりしてきます。

 金曜から上野さんは鈴木さんという赤毛人のお友達を連れてくるようになりました。鈴木さんは上野さんとは対照的にふわふわした雰囲気の人です。上野さんとは英語で同じクラスになったのだそうで、本人は器楽科のピアノ専攻の学生です。私はピアノ専攻の学生はヴァイオリン専攻の学生と同じくらいお嬢様が多いと思っていたので、鈴木さんが岐阜の町のピアノ教室の娘だと聞いた時は驚きました、赤毛人の家は例外なく名家だと本気で思っていたのですが、それを伝えたらお姉ちゃんにたしなめられました。

 鈴木さんとはまだ会ったばかりですが。なんとなく良い仲になれそうな予感がします。私の失言がいいきっかけになって、むしろ積極的に言葉を交わすようになりました。裁判官の娘のお姉ちゃんや医者の娘の上野さんと違って、一般家庭と呼べる階級の出身であることも話を弾ませました、何より共通の趣味が文通であることがきっかけとなって、良ければこれから文通しないかと誘われました。

 短い一週間が終わって、来週からは試乗会が始まります。私自身もそうですが、お姉ちゃんや上野さん、鈴木さんがどんな反応をするか楽しみです、私はこの四人で馬術部に入れたらいいなと思います。お姉ちゃんは上野さんと意気投合した様子ですし、何だかこの四人はバランスをとってうまくやっていけそうな予感がします。

寮やフラテ以外にこうした人の繋がりが持てることはとても素敵なことだと思います。私は小中でクラブ活動をしてこなかったので、こうした体験は初めてのことです。他者と同じ体験を共有することへの素朴なロマンチシズムと言ってしまえばそれまでですが、こちらもきっといい方向へ進んでいくと信じて活動してゆきたいと思います。

 最後に、最近の寮生活についてです。聖園会の活動が本格的にスタートし、私たち一回生がこれに関わる機会も徐々に増えてきました。

 聖園会の普段の活動は、年次計画の策定とその執行ということができます。今の時期は昨年度の総括と今年度の計画策定が行われていて、一回生は今年度の計画策定の方に携わることになりました。会員へのアンケ―トとその集計、分析を行うのですが、学年幹事のお姉ちゃんが中心となって一回生の間にアンケートを回し、金曜の会議までのこれを回収、集計、報告する作業を行いました。

 金曜日の仮入部を早びけして出席した会議では盛んに昨年度の計画に対する総括が行われました。総括と言っても連赤のそれではもちろんなく、侃々諤々の議論が戦わされたということです。特に専攻科生の現執行部に対する批判は野党的なそれの域に達していたと思います。まるで本気で恨みでもあるかのような執拗な追及に対して、執行幹部も懸命に応対し、一回生はまるで入る隙のない激しい議論が戦わされました。それでも会議が終わると会長さんら執行幹部と専攻科生の皆さんはにこやかに話していて、あくまでもルールの中での議論であることが明らかにされました。私もお姉ちゃんもこれには目を丸くしましたが、お姉ちゃんはすぐに感心した様子で、更に憧れを強めたように見受けられました。

 週末も仮入部と楽器の練習の傍ら、次回の会議に諮る資料の調製と課題文献の調査報告が一回生に任せられ、学年幹事のお姉ちゃんはその分担を決定するほか、自らその多くを担当し、一体いつ勉強しているのか分からないほど多忙になってきました。私も頭の悪いなりに手伝ってみたつもりですが、深夜まで頑張るお姉ちゃんの姿にお母さんの姿が重なって、先に寝てしまうことに申し訳なさを感じてしまいます。昨日はお姉ちゃんの部屋に泊まり込んで手伝いましたが、午前三時近くまで作業を行い、ふらふらになっているお姉ちゃんを見るのはとても辛いことです。私自身の存在がお姉ちゃんの癒しになれないっこともまたとても悲しいことです。まるで白井さんが、だから言ったでしょ、と笑っているような気もしてきます。

 学生生活、部活動、そして寮生活と、これらを三連立させてゆくことは、これからもっと大変になってゆくものと考えています。コンクールに出たりすることを考えるならば、聖和会のように学業成績の向上に向けたフラテに人が集まるのも当然と言えるでしょう。現に練習時間を削るか、睡眠時間を削るかの二択で後者を選ばざるを得ない状況に陥っています。柘植さんが部活動をやっている時間がないと言ったのも、さもありなんと今なら考えられます。私はお姉ちゃんがこのまま会長さんの引力に引かれてゆくことが、体や心を壊しはしないかと心配です。会長さんの働きは実際超人的なものがあります。それでも大学部で時間に余裕がある上、部活動はされていませんし、一回生の内から同じ真似をすることは良いことだとは思いません。

 もし四人で馬術部に入れたとしても、お姉ちゃんが聖園会の活動に入れ込んだり、あまつさえ運営委員会学生部の活動に手を伸ばしたとしたら、途中で辞めてしまうかもしれません。そんなことになったら非常に残なんでなりません。私にできることは、お姉ちゃんをできるだけ手伝ってその負担を軽減することだけなのでしょうか。それとも、どこかでお姉ちゃんを引き戻し、周りの人のことをもっと見てくれるようにすべきなのでしょうか。これも全ては焦らなければ時間が解決してくれる問題なのでしょうか。

 寮生活の話になるといつもこの話題になってしまい、単調で申し訳ありません。それでも私はお姉ちゃんのことが心底から心配でならないのです。ただでさえ忙しい学生生活に、これ以上何を背負い込もうとしているのでしょう。他の話題とは違い、この話ばかりは前向きに締め括ることはできません。むしろお姉ちゃんのことを考える度に、不安で沈んだ思いにならざるを得ません。それは導き手としての真保会長に対する不信や嫉妬心、警戒心に由来するものかもしれませんし、そもそも私から関心が離れることに対しての嫉妬心なのかもしれません。私の嫉妬深さも相当なものですが、お姉ちゃんがあまりふらふらしているのもいけないのだと思います。

 余所見なんてしないで私だけを見て、と簡単に言えるものならば、もう少し話は単純だったことでしょう。ですが私はお姉ちゃんの思うままに振り回されているのも好きなのです。私の我がままにお姉ちゃんを振り回すように、私もお姉ちゃんに振り回されていたいのです。

 とりとめもない話になってしまい申し訳ありません。お母さんも日々撮影や編集でお疲れのところ、またしても長い手紙を寄越してしまい、うんざりしているかもしれません。今日はここまでで止めておくことにします。何卒体調に気を付けてお過ごしください。それではまた、お疲れさまでした。


 敬具


 四月十三日


 秀子より


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