片腕だけで要塞を越える
「コール。空間探知。」
レダースが空間探知魔法の呪文を唱える。
まもなくレダースの前に、三次元立体として周辺の空間模型が現れる。
「コール。ダークエルフ。」
レダースが再び魔法の呪文を付け加えると、ノクシズ要塞およびその周辺のダークエルフたちの動きがリアルタイムで空間模型に表示される。
「すでに包囲されているんじゃないのか。」
空間模型の中のダークエルフたちの位置を見ながら、レダースが言う。
ダークエルフを表す点たちは非常に速く、組織的に動いている。
「エルフ族の戦士たちが森の中での戦闘を得意とするというのは本当だったのだな。」
ダークエルフたちは迅速に半包囲網を作り、レダース一行の後方を遮断し、レダースたちを要塞側へと押し始めた。
「エルフたちは森の声を聞くことができるからです。」
ソリアは、たとえダークエルフであったとしても、エルフに対するレダースの称賛に鼻が高くなる。
「まあ、そうか。全部で150人か。ダークエルフの数は思ったより多くないな。」
ソリアが誇らしそうにすると、レダースは彼女の自慢話が増えないように即座に次の話題へ移った。
ここで止めなければ、エルフの村の時のように、隙を見てソリアがエルフの優秀さをレダースに延々と語るところだった。
一度それを経験したレダースは、経験という名の知恵を得ていた。
話題を変えるレダースの意図に気付いたソリアは、少し不満そうな顔になる。
「指揮官が優秀なら、多少部下たちの能力が劣っていても大きな損失にはならない。」
そう言うと、レダースは魔法で呼び出した空間模型から視線を外し、周囲を見回した。
ダークエルフたちが森の中からレダース一行を見ている。
「コール。空間探知解除。」
レダースは空間探知魔法を解除した。
「ダークエルフたちが攻撃をためらっているのはソリアのせいだろう。ダーク・カリゴスにいるはずのソリアがここにいることが戸惑わしく、理解できないんだろう。それで俺たちは囮であり、他のエルフ戦士たちが周囲で待機しているのを警戒しているというわけだ。」
レダースはダークエルフたちの行動を正確に見抜いていた。
「その通りです。エルフが一人で要塞の正門前に立っているのですから、疑うのも当然です。それで、これからどうしましょうか?」
ソリアが慎重にレダースへ尋ねた。
「ふむ。小さく動けば小さく対応されるだろうし、いっそ圧倒的な力を見せたらどうだろうな。部下を大切にする指揮官なら、草履も履かず飛び出してくるだろう。」
レダースはそう言いながら陰険な笑みを浮かべた。
「えっ!? そ、そうですね。」
ソリアは戸惑った。
「みんな真面目なのに、レダース様だけこの状況を楽しみすぎているのではありませんか?」
レダースの言葉にレクが呆れる。
「現実を楽しむこと自体は悪いことじゃないだろう。過程がどうであれ、結果さえ良ければいいんだ。」
「あ、もちろんそうでしょうね。」
レアの言葉は、一見レダースの味方をするように見えるが、巧妙にその反対の意味を含んでいる。
「ピシッ!」
憎らしいレアの頭に、レダースが優しい笑みとともに軽く拳骨を落とした。
「今わたしを叩きましたよね! アルガ様に児童虐待だと言いつけます!」
しかしレダースは力を込めて叩いたわけではないので痛くはない。
それでも殴られるようなことはしていないと思ったレアは腹を立てた。
「ぷっ。レア、お前が子供だって? それなら本当の子供たちは何と呼べばいいんだ?」
レダースは右手の人差し指でレアの左頬をいたずらっぽく突いた。
「ドカッ!」
すると怒ったレアが、自分の右足でレダースの左のすねを力いっぱい蹴った。
「うわっ! お前、本当に。」
「ふん! 正当防衛という言葉があります。いくらレダース様でも我慢しません。」
レアはむくれたように顔を反対側へ向けた。
「まったく。」
レダースも不満そうな表情でレアを上から下まで見回した。
もっとも、すねを蹴られてもレダースは大して痛みを感じてはいなかった。
ただ、自分の部下たちが普段からあまりにも正論ばかり言うことに少し不満があるだけだった。
「ちっ。アルガ様さえいなければ。」
レダースは普段通りレクとレアを見ながら不満そうな顔をする。
「ふん!」
レクとレアは気にしていないというように軽く拗ねる。
レダースが望んでいたレクとレアの姿は今の姿ではなかった。
もっと成熟して魅力的な姿にデザインしたにもかかわらず、すべて却下されて今のレクとレアになったのだ。
「レダース様、レク様、レア様。もう皆さん現実に戻ってください。」
ソリアは突然口論になった三人の姿に戸惑ったが、それでも最後まで笑顔を失わずに頼んだ。
「この問題はもう一度検討する必要がある。」
レダースはしぶしぶ現実へ戻りながら双子たちに言う。
「望むところです。」
レクとレアも負けない表情だった。
「レダース様。森の中にいるダークエルフたちが接近戦の準備をしています。」
ミリティエがレダースにダークエルフたちの動きを知らせる。
ピアもミリティエの横へ移動し、ダークエルフの攻撃に備える。
「コール。アトラス。」
レダースが魔法の呪文を唱える。
しかしレダースの召喚魔法にもかかわらず、アトラスはすぐには召喚されず、今回はレダースの前に召喚門だけが現れた。
「久しぶりだな、アルカノスの賢者。だが召喚門が小さすぎて通れない。」
召喚門の向こうからアトラスが遠く離れた場所でレダースを見ながら言う。
「久しぶりだな、アトラス。元気だったか? ここではレダースと呼ぶんだ。」
すでに何度も会っているためか、レダースとアトラスは親しげに挨拶を交わす。
「そうか、レダース。私は特に問題もなく地球儀をひとつしっかり抱えているぞ。」
アトラスは力自慢をするように、自分が持っている地球儀を力強く持ち上げて見せた。
「アトラス。召喚門に右腕を肘まで突っ込んでみろ。そしてそのまま腕を抜いてくれ。」
レダースが召喚門の中からこちらを見ているアトラスに大声で叫ぶ。
「分かった。」
アトラスはレダースの言葉を理解したのか、すぐに顔が遠ざかり、右腕を持ち上げて召喚門へ突き出した。
そして召喚門がアトラスの突き出した腕の大きさでいっぱいになった瞬間、アトラスの巨大な右腕がレダースの前を通り過ぎ、エレダースの世界へ噴き出した。
「シュワアアアン!」
目の前を素早く通り過ぎる巨大な腕が前方へ高速で進んでいく。
「ドォォン!」
そしてしばらく後、アトラスの拳によってノクシズ要塞の厚い城門がそのまま押し倒され、後方へ倒れた。
アトラスはレダースの要求どおり前腕までだけ次元門に入れ、そのまま腕を引き抜く。
「シュワアアアン!」
こうしてレダース一行の前を、アトラスの腕が高速で来た道を引き返していった。
やがて次元門の中でアトラスの前腕が遠ざかり、再びアトラスの顔が見え始めた。
「どうだ?」
アトラスがエレダースの世界を見ながら尋ねる。
しかしレダースが作った召喚門は小さすぎて、エレダースの世界はよく見えなかった。
「うん。非常に良い。ありがとう。」
アトラスの代わりに現場を監督していたレダースは状況を確認し、吹き飛んだ門扉を満足そうに見ながらアトラスへOKの合図を送る。
「アトラスのようなティタン神族はあまりにも巨大すぎて、通常の呪文でエレダースへ呼び出すことは不可能だ。この場合、対象の一部だけがこちらへ来られるように小さな召喚門を作ることになる。しかし召喚される存在が巨大であれば、その一部であっても召喚門を通過する際に召喚門が壊れる恐れがあり、その場合は召喚門によって繋がれた二つの世界の両方が危険になる可能性がある。」
レダースの顔には少し汗が浮かんでいた。
先ほどレアが急かしたのにも、すべて理由があった。




