呪いと信仰の間
「わあ~、ここはプランタリス・マファリアですね。」
果たして長い歴史と家系を誇るエルフたちは、ゲート魔法を見てもミリティエほど大げさには驚かない。
むしろ、ゲート魔法を直接体験できることに、より大きな意味を置いているようでもある。
「さあ、皆さん。無事に家へ帰って来たことを祝います。早く家族たちに皆さんが無事であることを知らせてください。」
ソリアが微笑みながら、九人のエルフ女性たちを見回す。
「わあ、レダース様。本当にありがとうございます!」
エルフ女性たちはそれぞれレダースに感謝の挨拶をすると、嬉しい気持ちでそれぞれの家へ急いで帰っていった。
「ソリアは家に帰らなくても大丈夫なのか?」
レダースが、まだ残っているソリアに尋ねる。
「ほほほ。お気遣いいただきありがとうございます。でも、レダース様をご案内してからお会いしても遅くありませんので、私は大丈夫です。」
ソリアは本当に大丈夫だという意味で微笑んだ。
ゲート魔法によって次元門が開かれると、周囲のエルフたちは立ち止まり、不思議そうにその次元門を見つめている。
「コール、ゲート解除。」
しかし、あまりにも注目を集めているようだったので、レダースは冷たくゲート魔法を解除した。
「あっ。」
すると、ゲート魔法をもう少し見ていたかったエルフたちが、あちこちで名残惜しそうな表情を浮かべた。
それはソリアも同じだった。
「レダース様は、少し冷たいですね。」
ソリアはゲートが消えると、ひどく残念そうにした。
「ゲート魔法は、エルフたちが千年間立ち止まって眺める芸術品ではない。」
しかし、レダースはきっぱりと断った。
「はい。それはそうですね。仕方ありません。次の機会を狙うしかありませんね。」
そう言ったものの、あまりにもそっけないレダースの反応に、ソリアは残念そうな表情を解けなかった。
ソリアの甘えを見なかったふりをしながら、レダースはエルフの村プランタリス・マファリアを見回した。
そしてレダースは、すぐに一つの普通ではない事実に気づいた。
普通に暮らしているエルフたちと、奴隷のように働いているダークエルフたちの姿である。
「エルフの間では、ダークエルフは魔族の血が混ざった不吉な存在として認識されています。ですから、誰も強要したことはないのに、いつの間にか村はこのような姿になってしまいました。」
レダースがソリアの方を見ると、レダースが尋ねてもいないのに、ソリアが先に事情を説明した。
「では、ダークエルフとして生まれた者が、自分自身を罰するためにあのような姿で村のために奉仕しているのか?」
「はい。現在では慣習のようになってしまいました。そしてエルフたちも、いつの頃からか不吉な存在だと信じるようになり、公然と会話することを避けるようになりました。」
「ううむ。これは思ったより複雑な問題だな。」
ソリアの説明に、レダースは考え込む。
「まずは村の族長様にお会いになってはいかがでしょうか。あ、それから、この場所ではエルフ族の族長は名前ではなく『カフト』という職名で呼ぶんですよ。それではご案内します。私について来てください。」
ソリアはそう言うと先頭に立って歩き始めた。
「それと、もしよろしければ、レダース様のゲート魔法の呪文を学ぶ機会もいただければ感謝いたします。」
ソリアはレダースに、自分の要望もさりげなく含めた。
「ゲート魔法はエレデラスでは今は失われた魔法の呪文だと言っていたな?」
「はい。その通りです。でも、遠い昔にはゲート魔法を使って遠距離を簡単に行き来できたという話は、エルフなら誰でも知っている常識です。」
「ふむ。そうか。昔はそうだったということだな。」
レダースはソリアの後ろ姿をじっと見つめた。
「レダース様。そんなふうにずっと見つめられると、たとえ正面ではなくても、その……恥ずかしくなります。」
ソリアはレダースの視線を感じ、顔を赤くした。
エルフという種族は特性上、周囲の気配をよく感じ取るため、ソリアもレダースが後ろからじっと見続けていると、どうしてもその視線を意識してしまう。
「レダース様!」
ミリティエとピアが同時に抗議する。
「ナンパですか。」
レクが疑う。
「時と場所を選ばないその大胆さ。もう行くところまで行ってしまいましたね。」
レアが見込みがないと言わんばかりに首を横に振る。
「そうじゃない。だが説明するのは面倒だから省略する。」
説明が面倒なレダースは、そのまま容疑をかぶった。
「今度は現実逃避に続いて言い訳からも逃避するんですか。」
レダースの図々しさに、四人組はつり上がった目で不満そうな声を上げる。
「ほほほ。」
その様子を見てソリアが笑った。
「さあ、到着しました。」
ソリアは一行が前を見ることができるよう横へよけると、右手で一軒の大きな小屋を指し示した。
レダース一行の前には、かなり大きな小屋が見える。
そして前庭には、完全武装したエルフ戦士五十人が待機していた。
「カフト様。私、戻りました。」
ソリアの声が少し震える。
「おお! 我が娘ソリア。本当にソリアなのか。どこか怪我はしていないか!」
驚いたカフトの胸に、ソリアは駆け寄って勢いよく抱きつく。
「はい、お父様。わ、私は無事です。」
ソリアの目に涙が溜まる。
「レダース様が助けてくださいました。リッチキングに捕らえられていた九人のエルフたちも、全員無事に帰ってきました。」
「おお、どうしてこのようなことに。レダース様、本当にありがとうございます。村のすべてのエルフたちを代表して感謝の言葉を申し上げます。」
カフトはレダースの方を向き、頭を下げて挨拶した。
「はっはっは。お前たちを助けるためにエルフ戦士たちを招集していたところなのだが、どうやら我々が遅かったようだな。すまなかった。」
「いいえ、カフト様。」
カフトが心から申し訳なさそうにすると、ソリアは大丈夫だと笑って見せた。
エルフ戦士五十人全員もソリアの姿を見て安堵した表情を浮かべた。
「村に客人が入ったという知らせはなかったが、これはいったいどういうことだ?」
「はい。レダース様はゲート魔法をお使いになれます。」
ソリアがレダースの方を向く。
「何だと? ゲート魔法だと。失われた古代魔法をご存じの方がいるとは。レダース様とは、いったいどのようなお方なのですか。」
カフトもそう言いながら、静かにレダースを観察する。
しかし、カフトの目でもレダースが正確に何者なのかは見当がつかなかった。
ただ、直感的にレダースが高い身分の人物であることだけは察した。
「レダース様。少々お待ちいただけますでしょうか?」
そこでカフトはまずレダースの意向を尋ねる。
「我々は構わない。集まってくれた戦士たちと先に話をするといい。」
レダースはカフトの言葉の意味をすぐに理解した。
「ありがとうございます。レダース様。」
再び頭を下げて礼をした後、カフトは前庭に集まっているエルフ族の戦士五十人を見渡した。
「戦士たちよ。ソリアと捕らえられたエルフたちを救うために集まってくれたことに感謝する。しかし見ての通り、レダース様の助けによって全員が無事に我々のもとへ戻ってきた。たとえエルフ戦士たちが旅に出ることはなかったとしても、喜びの気持ちをもって予定していた報酬はすべて支払う。冒険者ギルドに立ち寄り、それぞれ報酬を受け取ってくれ。」
「わあっ!」
カフトの言葉に、エルフ戦士たちは歓声を上げた。
エルフ戦士たちはやがて一列に並び、無事に帰還したソリアとエルフの礼法に従って互いに挨拶を交わした後、喜びながら帰っていった。
全員が帰ると、カフトはレダースの方を向いた。
「レダース様。長らくお待たせしました。失礼でなければ、詳しいお話を伺いたいと思います。どうぞ我が家へお入りください。」
カフトはレダースを自分の小屋へ招待した。
全員が応接室の椅子に座ると、ソリアがエルフ風の菓子とエルフ風の飲み物を持って来た。
「すでにご存じかもしれませんが、ダークエルフのティリスは、このプランタリス・マファリアで生まれました。」
「やはりそうだったか。」
レダースは、ソリアが見せた反応を見て、すでにそう考えていた。
「ティリスは昔から気丈な面があり、自分がダークエルフであっても、他のダークエルフの少女たちとは違い、エルフであるソリアとも仲良く付き合っていました。今では許されがたいことをしでかしましたが、ティリスは決して悪いエルフではありません。」
エルフたちを誘拐し、リッチキングへ引き渡してひどい目に遭わせたにもかかわらず、ソリアはティリスをかばう。
「ティリスは幼い頃から、ダークエルフたちが自分たちは呪われて生まれたと嘆くたびに、ダークエルフはそのような存在ではないと説得し、自責しないよう励ましていました。そして一時は、一部のダークエルフたちがティリスの言葉から勇気を得ることもありました。」
カフトはその頃を思い出しながら苦々しく笑った。
「その時はティリスの努力に力を得て、良い機会だと考えた他のエルフたちも、ダークエルフたちの考えを変えるために力を尽くしました。」
ソリアが言う。
「ですが結局、大半のダークエルフたちは、自分が不吉な存在であるという信念を捨てることができず、その根があまりにも深かったため解決されないまま、ダークエルフたちの間でも意見が二つに分かれてしまいました。」
ソリアは残念な気持ちのあまり、その先を続けられない。
「分かれたのなら、多数派と少数派が存在したのだろうな。」
「はい。レダース様のおっしゃる通り、呪われた存在だと信じる多数派と、そうではない少数派です。」
レダースの問いに、カフトが答えた。
「分かる気がするな。結局、考え方の違いによって分裂した多数派が、再び少数派を弾圧したのか。魔女裁判だな。」
「はい。お考えの通りです。ところで、おっしゃった魔女裁判とは、いったいどういう意味でしょうか。」
「おっと、すまない。ただの独り言だ。続けてくれ。」
「あ、はい。」
カフトは、レダースがただ適当に口にした言葉ではないだろうと思ったが、あえて再び尋ねることはできなかった。
「しかし、エルフたちが仲裁する時間もありませんでした。日が経つごとに、多数派によって少数派の意見は無視され、ティリスが懸命に励ましていたダークエルフたちは、さらに不吉な存在として烙印を押され始めました。」
「そのためティリスは挫折したあまり、エルフたちが集団魔法を使ってダークエルフたちを精神支配しているのだと叫び始めました。」
今度はソリアが説明する。
「そのような魔法が実在するかどうかはともかく、少数派を守るためのティリスの努力は、実に涙ぐましいものだな。」
レダースの目には、守ろうとして必死にもがくティリスの姿がありありと浮かんだ。
「結局、ティリスと、ティリスを信じる少数のダークエルフたちはプランタリス・マファリアを去り、事件はそのようにして幕を閉じました。」
「そして、そのしばらく後にエルフたちの失踪事件が発生したのか?」
ソリアの言葉に、レダースはそれがまた別の問題の始まりであることを直感した。




