魔王のカジノ、リッチキングの没落
ピアは直接魔王に会ったことがない。
それでもピアの想像の中での魔王は、かなり威厳があり、恐ろしく、それでいて格好いい姿をしていた。
しかしルシファーおじさんは、そんなピアの心の中の素敵な魔王イメージを聞きもせずに勝手に引き裂いて出てきては、ピアの目の前を行ったり来たりして消えていった。
そのおかげでピアには魔王イメージに大きなトラウマが発生した。
「はあ。あれはただのカジノの悪徳マネージャーだ。見ない間に金への執着だけやたら増えたな。」
レダースは呆れたように首を振った。
「おい、リッチキング。生きてるか?」
レダースは体をまともに支えられないリッチキングが心配になり始めた。
「やれやれ。リッチキングを教育しようと思って呼んだのに、ルシファーが完全に干物にして連れてきたな。」
レダースは微妙な表情で、自分の心の中でウインクしているルシファーを足で蹴飛ばした。
「いったいどれだけ借金したんだ?」
レダースはリッチキングに近づき、申し訳ない気持ちで彼をなだめる。
「……」
リッチキングは沈み込んでいた。
「お前、まさか闇金にまで手を出したのか?」
レダースは傷つけないよう慎重に尋ねた。
「うん。」
リッチキングはレダースの肩にもたれながら憂鬱そうにした。
「リッチキングよ。アースニアのことわざに、考えなしに引っ張り続ければ乞食姿を免れない、という言葉がある。」
そもそもリッチキングをこんな姿にした張本人が、リッチキングを慰めていた。
「俺、リッチキング。生まれて初めて恐怖を感じた。」
それでも自分を心配してくれるレダースが嫌ではないのか、リッチキングはその気持ちに身を委ねる。
「本当にすまない。私はただ、もう少しお前に耐えてほしかっただけなんだ。」
レダースはリッチキングの右肩に手を置いた。
「お姉ちゃん。私、何を見てるの?」
二人の様子を見て、ピアがミリティエに尋ねた。
「見ちゃだめよピア! ピアにはまだ早いわ!」
ミリティエは慌ててピアの両目を覆った。
「見れば見るほど賢者は本当に厚かましいですね。」
レクが口を挟んだ。
「見れば見るほど賢者のする行動ではありませんね。」
レアが続ける。
「見れば見るほど賢者は偽善的です。」
二人は同時に言った。
そうして四人は本能的にレダースから数歩離れた。
「お前たち……。」
レダースはそんな四人をよくない目で見たが、とりあえず傷ついたリッチキングに集中する。
「だからほどほどに遊べって言ったんだ。お前、ルシファーの言うこと全部やっただろ?」
「その通りだ。だが、魔王のやれと言うことは全部面白い。」
レダースの言葉にリッチキングは素直に認めた。
「まあ! この子もう中毒じゃない。まあ。これはだめだわ。でも幸いにも私は良心がある。私レダース、お前リッチキングを最後まで責任持つ。後で心理カウンセラーを送ってやるから。」
「何を言っているのかわからないが、ありがとう。」
レダースの言葉にリッチキングは感謝を感じた。
「それはそうと。ウルフラン村からは手を引くんだ。」
「分かった。ウルフラン村の自治権を譲る。」
「それから今後、どんなことでも私と相談する。エレダース魔王と関係することまですべて含めてだ。分かったな?」
「分かった。そのようにしよう。用事が終わったなら帰れ。私は疲れたから寝る。」
レダースの問いにリッチキングはすべてイエスと答えた後、もう面倒になったのか、帰れと手振りする。
「ああ、そうだ。リッチキング? こうなったついでだし、処刑台に縛られている女性たちも解放してくれ。私たちが連れて行くから。」
レダースはこの機会にと、リッチキングの背後から頼んだ。
リッチキングの魔法には、すべて基本的に呪いのバフが掛かっている。
もちろんレダースが強制的に呪いを解くこともできるが、呪いの魔法を掛けた本人であるリッチキングが解除するのが最も副作用が少ない。
ルシファーのせいで今は見る影もないありさまだが、リッチキングはれっきとした魔王軍要塞ダーク・カリゴスの要塞司令官である高位魔族だ。
「分かった。連れて行け。私にはもう生命吸収は意味がない。」
ルシファーのカジノで自らの身を捨て、堕落を悟りの境地まで極めたリッチキングがそう言うと同時に、女性たちへの拘束呪詛魔法を解除する。
「呪い解除。」
リッチキングが自分の呪い魔法を解除すると、女性たちを拘束していた黒いオーラが消えた。
そして限界に達したリッチキングは、ふらふらと空中を行ったり来たりした末、その場にぽとりと落ち、そのまま床に倒れ込んで二度と動かなくなった。
「大丈夫でしょうか。」
レクが尋ねる。
「このありさまになって大丈夫なわけないだろう。まあ、とにかく正気に戻ったら連絡してくるだろう。」
リッチキングの呪い魔法から解放された女性たちが処刑台から身体を起こす。
きょとんとした様子だったが、リッチキングの呪い魔法は肉体への損傷ではなく精神的な消耗を与えるものだったため、その点では幸いにも全員の身体の状態は問題なかった。
「私たちを助けてくださり、ありがとうございます。」
十人の女性のうち、比較的まともな状態を保っていた四人、その中の一人が一行を代表して頭を下げ、丁重に礼を述べた。
「身体は大丈夫か?」
「はい。自分一人の身なら十分に面倒を見ることができます。」
「その言葉を聞いて安心した。では、動けない仲間たちを助けてやってほしい。さあ、みんな帰ろう。」
精神的消耗の大きかった六人の女性は、まだ身体をまともに動かせない。
それでもレク、レア、ピア、ミリティエ、そして女性四人が分担して支えることができたため、出発の準備はすぐに終わった。
「仲間たちが全員去るまで、私が敵を引きつけます。」
無事な状態を保っていた四人のうちの一人が、再び決意に満ちた眼差しで言った。
誰が見ても十人の女性の中で隊長のように見える女性だった。
「うむ。気持ちはありがたいが、その必要はない。では村へ戻る。」
「はい。えっ?」
説明するのが面倒だったレダースは、状況を理解できていない女性をよそに呪文を唱える。
「コール・ウルフラン。」
レダースの呪文に従い、次元門が現れた。
「あっ! この呪文は……すでに大昔に消えたゲート魔法の呪文!」
女性が驚いて叫ぶ。
「そんなことは後で考えて、今は行かなきゃいけません!」
驚いて足を止めた女性たちを、ミリティエが後ろからドラゴンの力で強引に次元門へ押し込む。
「きゃあっ!」
女性たちは仲間を支えたまま、半ば流されるように次元門を通り、ウルフラン村へ到着した。
しかも悲鳴すら、「きゃ」の部分は次元門を越える前にリッチキングの部屋へ置き去りにし、「あっ!」だけがウルフラン村へ飛んできた。
「コール。ゲート解除。」
レダースがウルフラン村へ戻ってゲートを解除すると、リッチキングの部屋には最初から誰もいなかったかのように、リッチキングだけがぽつんと床に倒れていた。
リッチキングはまるで死んでいるかのように微動だにしなかったが、すでに不死者であるため、生物学的にはこれ以上死ぬこともできない。
ただしリッチキングの手だけは、何かを掴んで上から下へ動かす動作を延々と繰り返していた。
後になって部下たちがリッチキングに会いに来た時でさえ、気絶したままその動作だけを続けていた。
レダースがダーク・カリゴスで救出した女性たちは、十人全員が尖った耳をしていた。
リッチキングに生命を吸収されながらも耐えることができたのも、そのためだった。
もし人間だったなら、基本的な生命力が短いため、半日も経てば生命をすべて吸い尽くされて死んでいただろう。しかし尖った耳を持つ種族は元々長寿種であるだけに、体内に持つ生命力も他種族よりはるかに多かった。
そのため尖った耳の種族はリッチキングが目を付けるに値し、魔族の間では高級商品として知られている。
「つまりエルフか。」
すでにリッチキングの部屋で確認していた事実だが、レダースが救った女性たちは全員エルフ族の女性だった。
レダースがダーク・カリゴス要塞でエルフ族の女性十名を救出してから二日が過ぎた。
しかし十人のエルフ女性たちは、ウルフラン村で今までにないほど不足のない食事を与えられた結果、たった二日で完全に体力を回復した。
「レダース様。リッチキングに誘拐され、絶望しか残っていなかった私たちを救ってくださり、このように再び生きられる恩恵を与えてくださり、感謝いたします。」
十人のエルフの中で代表と思われる一人が、レダースに感謝の言葉を述べた。
「私はエルフ族の戦士、ソリアと申します。」
ソリアは自分の名前を名乗った。
「皆が無事で何よりだ。エルフ族なら、どこに所属しているんだ?」
レダースが尋ねる。
「はい。私たちが住んでいる場所は、ここから徒歩で一か月ほどの距離にある、古代山脈グランディスの隠されたエルフの村、プランタリス・マファリアです。」
「そうか。かなり遠い場所のようだが、どうしてここ、リッチキングの部屋にいたんだ?」
「はい。村を出る際、エルフ戦士である私が護衛として同行していました。しかし私の力不足で、結局ティリスの罠に掛かってしまいました。」
ソリアはその時のことを思い出し、悔しそうに両拳を強く握った。
「エルフの方々は森の狩猟の専門家ではありませんか。誰がグランディスの森の中でエルフを罠に掛けられるというのでしょうか?」
ソリアの隣で聞いていたミリティエが、信じられないという表情で尋ねた。
「もちろんその通りです。私が護衛していた九人の女性もエルフであるだけに、基本的に戦士に準ずる戦闘能力を持っています。ただし、相手がティリスでした。」
「ああ。もしティリスというなら、ダークエルフ族の要塞ノクシズの司令官である、あのダークエルフのティミリグスのことをおっしゃっているのですか?」
「はい、その通りです。」
ミリティエの質問にソリアは肯定し、うなずいた。
「ティミリグス? それは誰だ?」
今度はレダースが尋ねた。
「はい。一千年前からエルフたちを誘拐し、魔族へ売り渡しているダークエルフ族の女性です。効率的な人身売買のために、魔王はティミリグスへノクシズ要塞を活動拠点として与えました。その後、ダークエルフ族はノクシズ要塞を拠点として活動領域を広げています。しかし……。」
ソリアは説明していたが、語尾を濁した。
「はい。仕方のないことでした。」
ソリアはしばらく沈黙した後、悲しげな表情で言葉を終えた。
「何か事情があるようだな。」
ソリアの表情から、レダースは何か出来事があったことを察する。
「はい。これは根深い問題です。しかし私が説明するよりも、直接プランタリス・マファリアへお越しいただいて、ご自身の目で見られる方が早いと思います。幸いレダース様はゲート魔法をお使いになれますので、その方が理解しやすいでしょう。」
ソリアはレダースのゲート魔法を思い出しながら、その方法を勧めた。
「そうか。まあ、救出したエルフたちも帰らなければならないだろうし、ついでに行ってみるとしよう。」
レダースはそう言いながら席から立ち上がった。
「では、すぐ出発できるか?」
レダースはエルフ女性たちの帰る準備ができているか尋ねた。
「はい! 皆、外で待っておりました。お呼びしましょうか?」
ソリアはすでに待機していると言って笑った。
「準備がいいな。ではすぐに皆を連れてきてくれ。」
「はい。すぐに準備いたします。」
ソリアは挨拶した後、部屋を出ていった。
「レク。レア。ミリティエ。ピア。お前たちも一緒に行くぞ。」
「はい。お供いたします。」
レダースの言葉に、四人は同時に答えた。




