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魔王と賢者

「ククク。やはり今日も生気に満ちているな。」


五人組の前で、ダーク・カリゴス要塞司令官が陰険な声を出して笑っている。


「ここが要塞司令官の部屋なのですか?」


言葉とともにピアが部屋を見回す。


「ん? お前たちは何者だ? どうやってここまで入ってきたんだ?」


侵入者警報も鳴っておらず、廊下も騒がしくない。


部屋の扉が開閉する音もなく、誰かが入ってくるいかなる気配もなかった。


だから突然現れた五人組に、要塞司令官は首をかしげている。


「要塞司令官はリッチキングだったか。我々の突然の訪問にも驚かないのは無理もないな。」


レダースがリッチキングを見ながらうなずく。


リッチキングは種族特性上、顔の表現力が豊かではない。


だから他の魔族なら驚き過ぎて悲鳴を上げるような状況でも、リッチキングは少々淡白な反応を見せるのがせいぜいである。


しかしだからといって、リッチキングがその状況に驚いていないわけではなかった。


反応は淡白でも、リッチキングは今まさに最大限の表情で驚いている最中である。


「不死者だから眠りも必要ないリッチキング様が、お部屋でお一人何をしていらっしゃったのでしょうね~。ああ、このように整えておられたのですね。」


レダースがリッチキングの個人部屋の用途を即座に理解する。


十字架の形をした処刑台に十人の女性が縛られている。


そして女性たちを包む黒いオーラから始まった線が、すべてリッチキングとつながっている。


本来、不死者系統の魔族は生者から生命を吸収する必要がない。


生命のない、いわゆる死んでいるが生きている存在たちは、生命を持って生きる存在とは全く異なる摂理でこの世に存在する。


それにもかかわらずリッチキングが生者の生命を吸収するのは、一種の訓練である。


運動選手が強い筋肉を育てるため体力を鍛えるのと同じように、高位魔族の一部は自身の能力をさらに向上させるため、意図的に自分の体へ生命を注入する。


無理に注入した生者の生命は不死者の体を破壊する毒だが、適度な量を使い、それに適応すれば、その分だけ体を強化するのに効果的な薬となる。


そうしてリッチキングは個人部屋で体力鍛錬中だったのだが、五人組がノックもなく突然入ってきたのである。


「捕らえられている女性たちを助けなければなりません。」


ミリティエが先に進み出て、リッチキングの前に立つ。


「ククク。そうか。デュラハンを殺したのはお前たちだったのだな。どうやらデュラハンに勝てる実力はあるようだ。誰にも知られずここまで来たことも褒めてやろう。」


リッチキングがそう言いながら右腕を伸ばすと、壁に掛けられていた巨大な鎌が飛んできてその手に握られる。


リッチキングが死神の鎌を手にして攻撃態勢を取る。


「ちょっと待って、ミリティエ。」


先を急ぐミリティエをレダースが止める。


「はい、レダース様。」


レダースの言葉にミリティエは行動を止めたが、リッチキングへの警戒は解いていない。


「コール。ルシファー。」


するとレダースがただちに呪文を唱える。


「おお! アルカノスの賢者。久しぶりだな。」


するとレダースが召喚した次元門から、妙なファッションの大柄な男が右手を振りながらエレダースの世界へ歩いて入ってくる。


「その間お元気でしたか、ルシファー様。」


レクとレアが同時に頭を下げて挨拶する。


「おお! 双子たち。ああ、嬉しいぞ。お前たちも元気に過ごしていたな。」


ルシファーがレクとレアを見下ろしながら満面の笑みを浮かべる。


「どなたですか?」


ピアが慎重にレアへ尋ねる。


しかし耳の良いルシファーがその質問を横取りした。


「おお! 可愛い獣人族のお嬢さん。初めまして。アースニアの魔王ルシファーという。よろしく頼む。いや違うな。こちらの世界にはすでに魔王がいるのだから覚える必要はなかったかな。ともかく話がこんがらがるがよろしく頼む。オホン。」


ルシファーがわざとらしく空咳をする。


「おお! どれどれ。つまりここはどこだ?」


そうしてルシファーは懐からスマートフォンを取り出し、エレダース世界についての情報を確認する。


「おお! そうか。エレ。エレ。エレダースという世界なのだな。」


情報照会の結果を見ながら、ルシファーが自分の召喚された世界の名前を口にする。


「エレ、エレ、エレダースじゃなくて、ただのエレダースだ。私に聞けば済むのに、わざわざ私の前で照会するのはなぜだ。それに私の名前はここではレダースだ。」


「おお! 分かった、レダース。だが客人に会うのだから、礼儀として事前調査をするのがマナーではないか。」


「その客人が目の前にいるのに、事前調査というには少し遅くないか?」


「おお! それは重要ではない。私の気持ちが重要なのだ。」


レダースとルシファーが、どこか噛み合わない会話を続ける。


「お二人は会うといつもこんな感じなのですか?」


ミリティエが慎重にレアへ尋ねる。


「はい。そういうことになりますね。」


レアが昔のことを思い出しながら、微妙な表情を浮かべる。


アースニアの魔王ルシファー。彼は全身に金を身に着けている。


黒く日焼けした肌。指には太い金の指輪、足の指にも太い金の指輪、首には金のネックレス、腰には金で作られたチャンピオンベルト。さらに上半身はたくましい筋肉をかろうじて隠すシャツ一枚、下半身は頑丈な筋肉を少しだけ隠す膝までのパンツ、そして金のスリッパを履いている。


姿だけ見れば、まさに海辺を歩く金持ちの巨体な中年のおじさんである。


しかしルシファーは魔王である。


ピアは感じ取れていないが、次元門の向こうのアースニア世界から強力な魔王の気配が続いている。


ルシファーがエレダース世界の魔王を尊重して自分の本体を置いてきたのだが、ミリティエは竜族特有の感覚によって正確ではなくともその点に気付いている。


「おお! 君。名前は?」


ミリティエがルシファーの実体を感知すると、その能力に感心したルシファーは急いでミリティエへ近付き、そっと彼女の両手を取った。


「えっ!? あ、はい。私はミリティエです。」


レダースの前であるだけに、ミリティエはなおさらルシファーに掴まれた両手をすぐ引き抜きたかったが、ルシファーがそれほど力を込めずに静かに握っているその両手からは何の感覚も感じられない。


「おお! ミリティエ。私は今回、大きな島を一つ買ってカジノ・ビッグランド二号店を作ったのだ。一号店に人が溢れていたので急いで完成させた。まだ試験運転中ではあるが。どうだ。今すぐ私と一緒に行ってさっそく一勝負してみないか?」


ルシファーがきらきらした目でミリティエを見る。


「ルシファー。番地を間違えている。相手はあちらだ。」


レダースがルシファーの右腕を軽く叩きながら、顎でリッチキングを示す。


「おお! すまない、ミリティエ。私が業務中であることを忘れていた。サービスは良いから、次はぜひ利用してくれ。」


ルシファーはミリティエの右手の手のひらに、金で作られた自分の名刺を一枚そっと置く。


そしてリッチキングの前に立った。


「ククク。たとえ別世界の魔王であろうと、私があなたに従う義務はない。まして我ら魔族は精神支配への完全耐性もある。私を支配しようという考えは諦めろ。」


「おお! 私だって一応は魔王なのだが。魔王に対してその物言いを見てみろ。よいしょ。おい、お前は駄目だな。」


そして次の瞬間、瞬間移動したルシファーはリッチキングを軽々と自分の肩に担ぐ。


「おお! お前、今すぐ私と一緒にうちのカジノでスロットを一回回してこよう。」


ルシファーはリッチキングを軽く抱え込むと、そのまま次元門の方へ歩き始める。


「ククク。馬鹿なことを。放せ。」


リッチキングが抵抗するが、死神の鎌までもルシファーの腕の中に抱えられ、そのまま運ばれ始める。


リッチキングがどれだけ暴れても、ルシファーの腕の中でもぞもぞ動くだけで抜け出せない。


「おお! レダース。次元門はそのまま待機させておけ。すぐ戻る。」


次元門に入る途中で、ルシファーは頭だけ再びこちらの世界へ突き出してレダースにそう言い、それから次元門の中へ消える。


「おお! レダース。戻ったぞ。」


入って行ったのはたった今だったのに、ほどなくしてルシファーはリッチキングを担いだまま再び次元門から現れる。


そしてその場にリッチキングを下ろした。


「ルシファー。こいつ壊れているじゃないか。」


レダースが、まともに浮かんでさえいないリッチキングを手で指し示す。


「おお! 違う。こいつは壊れていないぞ。ほら、見てみろ。ちゃんと浮いているじゃないか。」


ルシファーは、まともに飛ぶこともできないリッチキングの両肩をたくましい両腕で掴み、再び空中に立たせてから、ずうずうしくレダースを振り返る。


しかしルシファーが手を離すと、リッチキングはたちまちへなへなになる。


「違うな。ご苦労だった。もう帰れ。」


じわじわと頭痛が押し寄せてくると、レダースはもう帰れというようにルシファーへ手振りする。


「おお! いや、私はもっと遊んでもいいのだが。他に用事はないのか?」


「ない! だから、前に無理にカジノ事業を拡張するなと言っただろう。」


「おお! それは駄目だな。カジノは私の夢と希望、そして生命水なのだから。」


レダースの言葉に反対する意味で、ルシファーは自分の胸に手を当て、厳かにカジノに対する自らの思いを表現する。


「分かった、私の負けだ。そうだろうともよ。」


レダースが両手を上げて降参するような仕草をする。


「おお! 毎度のご利用に感謝しつつ、付加価値税込みで電子税金計算書は君のアルカノス事務所へ送っておいたので、すぐに入金を頼む。」


この言葉とともに、今度はルシファー自身が直接次元門を開く。


「おお! コール。アースニア。」


そしてズボンのポケットに両手を突っ込むと、悠々と次元門の中へ入って消えていく。


次元門はすぐに閉じ、その場から消滅した。


「あの方がアースニアの魔王なのですね。」


ピアは、自分の想像とはあまりにも違う、異世界の魔王のスタイルに戸惑う。

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