精霊に聞く事
カフトが右手を上げ、前庭を包囲していたエルフの戦士たちを解散させる。
「はい。私はドライアドまで可能です。」
そしてカフトが言葉とともに召喚魔法の呪文を唱える。
「コール・ドライアド。」
するとカフトの前に森の精霊であるドライアドが現れる。
「森の精霊ドライアドよ。ようこそお越しくださいました。」
カフトが丁重に挨拶すると、ドライアドも軽く頭を下げて親しげに挨拶する。
「森の精霊ドライアドがアルカノスの賢者にお目にかかります。」
そしてすぐにレダースへ近づき、レダースに頭を下げて挨拶する。
「そうか。会えてうれしい、ドライアド。このエレデラスではレダースと呼ぶように。」
レダースはまず習慣のように呼称を変えた。
「はい。レダース様。」
ドライアドは微笑みを浮かべた顔で、すぐにレダースの名前を呼んでみる。
「ソリアも見ない間にずいぶん変わりました。今ならドライアドと契約することもできるでしょう。」
ドライアドがソリアを興味深そうに見つめる。
「外見が変わっても、お分かりになるのですね。」
ドライアドが自分を見分けたことで、ソリアは感激する。
「それはそうです。私たちは精霊眼で相手を見ているためです。外見が多少変わっても、また年を取っていても、間違えることはないしょう。」
ドライアドは自慢げに言う。
「レダース様がエルフたちをハイエルフへ種族進化させたのですか?」
ドライアドがレダースを見ながら尋ねる。
「その通りだ。本来なら自然に種族進化するのが正しいはずだろう。なぜエルフたちはその事実を知らないのだ?」
レダースはむしろドライアドに聞きたかった。
「それは……。とても私の口からは申し上げられません。」
ドライアドは何かを思い出したように、答えを避ける。
「お前の表情を見る限り、精霊王に直接尋ねるしかなさそうだな。高位精霊が困っているところを見ると、この件はやはりもっと上の者たちが解決すべき問題らしい。」
答えを避けたドライアドから、レダースはすぐに空気を察する。
「はい。そのご推察は正しいです。レダース様に求められれば仕方なく申し上げなければなりませんでしたが、私を困らせないでくださって感謝します。」
ドライアドは葉の袋からハンカチを取り出し、額の冷や汗を拭きながら安堵のため息をつく。
「ドライアド様。もしよろしければ、今すぐドライアド様と精霊契約を結びたいのですが。可能でしょうか。」
レダースとドライアドの会話が一旦途切れた隙に、ソリアがドライアドに頼む。
「そうですね。だが申し訳ないです。精霊契約では二重契約が禁止されているんです。ですので私ではなく、私の友人のドライアドを紹介してあげです。」
そしてドライアドはすぐに魔法の呪文を唱える。
呪文を唱え終えると、ドライアドはソリアへ右手を差し出し、その手のひらを見せる。
ドライアドの手には小さな木の枝が一本置かれていた。
「この契約の枝で召喚すれば、私の友人のドライアドがソリアの前に現れます。」
「ドライアド様。本当にありがとうございます。」
ソリアはうれしそうに、ドライアドの手の上の小さな枝を受け取る。
「それでソリアは、どの程度のレベルの精霊を召喚できるのだ?」
ふと気になったレダースが訊く。
「あ、はい。今はニンフを召喚することができます。」
「ふむ。ニンフか。」
ソリアの言葉に、レダースは意外そうな反応を見せる。
「レダース様。何か問題があるようですね。」
カフトは、レダースの悩みがエルフの種族と関係しているように思えたため、心配そうな目で尋ねる。
「エレダースで、森の精霊と契約する順序はニンフ、ドライアド、精霊王の順らしい。しかしニンフは自ら考える力のない道具のような存在だ。だから容易に契約できるはずなのに、ソリアほどの実力になってようやく契約できるというのは、何かバランスがおかしいということだ。これは意図的に下方修正されたと見える。」
「そうなのですか。」
カフトは、これまで当たり前だと思って生きてきたことをレダースに指摘され、心配そうな表情を浮かべる。
「まあ、構わない。どのみち生きるのに支障はない。ただ、過去に何があったのかは知らないが、君たちエルフは当事者でありながら、自分たちがどのような環境でどのような扱いを受けて生きているのか、まったく知らないようだ。」
レダースがエルフたちの甘さを指摘すると、その隣でドライアドが緊張して落ち着かない様子を見せる。
「森の精霊王に会うことはできるか?」
レダースが再びドライアドに尋ねる。
するとドライアドは首をかしげる。
「レダース様は前回、すでに森の精霊王にお会いになっています。」
「私が? いつだ?」
ドライアドの言葉に、レダースは思い出せないという表情をする。
「本当にご存じなかったのですか? エレダースに来られて最初に会話した精霊こそ、大地の精霊王様です。」
「ああ。そういえば大地の精霊を召喚したことがあったな。」
「はい。その通りです。あのとき召喚された精霊が大地の精霊王なのです。」
「だが私が召喚したのは大地の精霊だろう?」
「一応レダース様がお呼びになった場合、それに応じられる精霊は精霊王だけです。そして、エルフたちには森の精霊王として知られていますが、本来は大地の精霊王でいらっしゃいます。」
「ならば私が再び大地の精霊を呼べばいいのか?」
「はい。その通りです。」
ドライアドが肯定する。
「エルフ族長であるカフトさえドライアド召喚レベルなら、今のエルフの能力では精霊王と直接会話するのは無理だな。」
レダースがカフトを見る。
「お恥ずかしい話ですが、現在のエルフの中に森の精霊王と会話できるエルフはおりません。」
エルフ族長といっても不可能なことはあるものだ。
カフトは正直に答える。
「村の拡張について、ドライアドの立場はどうだ?」
レダースが最後にドライアドの考えを訊く。
「ドライアドたちはエルフの村の拡張に反対していません。この地のエルフたちは自然を愛し、自然と共に生きる方法を知っています。彼らであれば村を拡張したとしても、森をむやみに破壊することはないでしょう。」
ドライアドはエルフたちと共に過ごしてきた時間を振り返り、問題はないと答える。
「全員が同意したのなら、もう一度大地の精霊王に会ってみようか。」
レダースはそう言いながら魔法の呪文を唱える。
「コール・大地の精霊。」
まもなくレダースの召喚魔法に応じて、大地の精霊王が姿を現す。
「大地の精霊王が再びレダース様にお目にかかります。」
大地の精霊王がレダースに挨拶する。
精霊王が姿を現すと、ドライアドは丁重に挨拶し、その姿を消した。
「私の名はジオスです。」
大地の精霊王ジオスが自己紹介する。
「そういえば最初に会った時は、名前すら訊かなかったな。あの時の私はあまりにも配慮が足りなかったと思う。今からでも謝りたい。すまなかった。」
レダースが謝罪する。
「とんでもありません。大丈夫です。」
ジオスは笑いながら答える。
「それならよかった。」
レダースもうなずく。
「エルフ族長カフト、森の精霊王様にお目にかかります。」
カフトは今日初めて大地の精霊王ジオスを見たが、自分のレベルでは到底会うことのできない高貴さと気高さ、そして強大な精霊の力をジオスから感じ取っていた。
「エルフの村の族長カフトについては、すでにドライアドから聞いて知っている。ドライアドたちと仲良くしてくれて感謝している。」
ジオスがカフトを褒める。
「ありがとうございます。本当に恐縮なお言葉です。」
カフトは感激する。
「エルフが精霊王と契約すらできないとは、どう考えてもおかしな話だ。」
レダースがジオスとカフトを交互に見る。
「レダース様のお言葉は正しいです。おそらく他の世界では、精霊とエルフはもっと親しく付き合っていると私も聞いています。ただ、このエレダースでは最初から禁止されていました。」
ジオスは「最初から」という点を強調する。
「最初からというなら、結局はあの方か。」
「はい。そのご推察は正しいです。」
ジオスはレダースの言葉に同意する。
「その方が理由もなくそんなことをしたはずはないのだが。」
レダースが悩んだ。




