森の守護者
「私に聞くよりも、レダース様ともっと親しいお方なのですから、直接お尋ねになる方が早いのではありませんか?」
「ああ、とりあえずはそうなんだけど。今の私は少し困った立場にあってね。すぐに聞くのは難しいんじゃないかと思う。」
ジオスの言葉に、レダースがたちまち困った顔になる。
「はい?どういう意味でしょうか?」
するとジオスは理解できず、再び尋ねる。
「レダース様は今、夜逃げの最中なのです。ですからゲートを開けると、そのまま生死の分かれ道に立つことになります。」
レアが代わりにジオスへ説明する。
「昼に出てきたんだぞ。夜逃げじゃないぞ。」
レダースが反論する。
「形式がどうであれ、オルガ様はすでに夜逃げ行為と考えておられます。」
レクがレダースの置かれた冷酷な現実を告げる。
「ふむ。レダース様ほどのお方が、どうしてそのような無謀な行動をなさったのですか。」
しまいにはジオスの方がさらに残念そうにする。
「ええい! うるさい。それはもういい。それより、ジオスも見ての通りエルフの村には住民が増えた。だから、もっとエルフを受け入れられるように、エルフたちが村を拡張できるよう許可してほしい。」
これ以上レクとレア、そしてジオスの言葉に振り回されまいと、レダースが呼び出した理由を話す。
「ドライアドを通じて知ってはいましたが、エルフ社会が今後さらに発展していくことを考えると、先が楽しみです。森の利用を許可しましょう。ですから今まで通り、ドライアドたちとも仲良くやっていただきたい。」
ジオスが頷きながら、村の拡張を許可する。
「森の精霊王よ。私カフト、エルフ族長として感謝の言葉を申し上げます。」
カフトがジオスに頭を下げて礼を述べると、周囲に集まっていたエルフたちも皆頭を下げて敬意を示す。
ジオスはエルフたちを見回し、満足そうに頷く。
そしてジオスの視線が、膝をついたままジオスに頭を下げて礼を示しているティリスへと留まる。
「カフト。私からも一つお願いがあります。」
そう言いながらジオスはカフトを見る。
「森の精霊王よ。どうぞお申し付けください。私カフトが仰せの通りにいたします。」
カフトが丁重に答える。
「エルフの村の守護者として、ハイエルフであるソリアとティリスを任命したいのです。」
するとジオスが自分の意見を述べる。
「はい。えっ?ですがソリアはともかく、ティリスは立場上、その……。」
カフトは困った表情を浮かべながら言葉を濁す。
「ティリスは立場上難しいということですか?」
カフトがためらうと、ジオスが再び聞く。
「森の精霊王よ。ご配慮には感謝いたします。しかし私はエルフの村に大きな罪を犯しました。任命を受ける資格はありません。どうかお取り下げください。」
さらにはティリス自身も、ジオスに再考してほしいと告げる。
「皆さんの考えが異なることは分かっています。しかしこれは、私というよりレダース様のお考えとして受け取っていただければと思います。」
ジオスが笑いながらレダースを巻き込む。
「なんでそこで私の名前が出てくるんだ!」
ジオスの言葉にレダースが噛みつく。
だが怒りはしない。
「エルフたちに変化をもたらしたのは誰ですか? そもそもレダース様が介入したことで始まったことなのですから、レダース様も道義的な責任は感じるべきです。」
ジオスはレダースにも責任があると言う。
「まったく。ジオスの言い方は誰かにそっくりになってきた気がするな。」
ジオスの正論に返す言葉が少なくなったレダースがぶつぶつ言う。
「レダース様もそうお考えなのでしたら、ソリアとティリスの二人を森の守護者に任命することにいたしましょう。」
カフトはジオスとレダースの両者が同意すると、素直に守護者任命を受け入れる。
そしてティリスの方を見る。
「森の精霊王ご自身が提案されたことですので、ソリアと共に森の守護者としての任務をおろそかにすることなく果たしてまいります。」
するとティリスが丁重に答える。
ティリスは感情が込み上げてきたのか、自分の唇を強く噛みしめた。
ティリスは過去の過ちへの申し訳なさと、それでもなお自分たちを受け入れてくれる皆の気持ちが嬉しかった。
「それでは、ハイエルフであるソリアとティリスに森の守護者の任務を任せます。」
ジオスがソリアとティリスを森の守護者として正式に任命する。
「レダース様もよろしいですね?」
ジオスがレダースに改めて確認する。
「もう全部終わらせておいて、何を今さら聞くんだ? それでも私はジオスの決定に反対しない。」
最終的にレダースも同意する。
「はい。ありがとうございます。では、他に何かお話しされることはありますか?」
ジオスが微笑みながらレダースに尋ねる。
「いや。もう全部済んだみたいだ。また今度会おう。」
「わかりました。またお会いできる日をお待ちしております。」
レダースの言葉に、ジオスが頷きながら答える。
「コール、召喚解除。」
レダースが魔法の呪文を唱えると、召喚魔法が終わり、ジオスがその場から姿を消す。
「レダース様。本当にありがとうございました。」
森の精霊王が消えると、カフトがレダースに改めて感謝を述べる。
「構わない。大したことではない。」
レダースは大したことではないと言う。
「森の守護者がいつまでも跪いていては駄目だ。ティリス、立ちなさい。」
ソリアが跪いたままのティリスを支え、立ち上がらせる。
「ソリア、ごめんなさい。そしてありがとう。」
ティリスはそう言うと、ソリアを抱きしめる。
ハイエルフへと進化したティリスは、ソリアと同じように今では真っ白な肌をしている。
ダークエルフも普通のエルフも皆ハイエルフになれるという事実は、エルフ社会にかつてない強い結束と絆をもたらしていた。
そして皆がソリアとティリスの和解を祝福する。
「しかし、ティリスをあまりにも簡単に受け入れすぎじゃないか?」
ふとレダースは、エルフたちはあまりにも善良だと思う。
「レダース様。良い雰囲気なのですから、今は一線を越えていますよ。」
レアがそうしないように注意する。
「いや、いくらなんでもそれはないだろう。ティリスがただ跪いて過ちを詫びただけで、過去のことを全部許すなんて話がどこにある。これは違うだろう。処分が甘すぎるんじゃないかと思ってな。」
レダースが少し不満を示す。
「では、レダース様がお考えの処罰とは何なのですか?」
ティリスがレダースを睨みつけながら尋ねる。
「ティリス、お前、目が綺麗に据わってるぞ。落ち着け。いや、だから、その……。」
つり上がった目になったティリスをなだめながら、レダースはしどろもどろになって左右を見回すが、周囲には誰もいない。
再びレダースがティリスを見ると、レダースの身内たちも今はティリス側についていた。
レダースは、自分を守ってくれるレク、レア、ミリティエ、ピアのいない状態で、たった一人でティリスと向き合っている。
「危険だ。」
レダースの本能が警告を発した。
そして翌朝、ティリスはレダースを存分に叩きのめしたおかげか、その心は以前よりもさらに優しくなっていた。




