書きかけの宇宙
ー 書きかけの宇宙 ー
今日は生誕祭。
ノアも各コロニーも祝賀の灯りに包まれている。
そして珍しく、神帝にも休みが与えられていた。
だが、神帝アイズは祝祭の輪にいなかった。
自室の静かな机に向かい、ただペンを走らせている。
彼の趣味は、小説を書くこと。
誰にも見せない、売り出しもしない、評価も求めない。
ただただ書き留めるだけ。
主役"宇宙空母ノア"
だがそれは、現実のノアとは少し違う。
戦いの記録ではないし神帝たちの武勇伝でもない。
もっと静かで、もっともっーと深い物語…
星と星のあいだで揺れる感情、選ばれた者の孤独、守ることの意味…などなど
まぁどうでもいい…
その内容は、彼だけの秘密。
アイズは一文を書き終え、ふと手を止める。
「……もしも」
小さく呟く。
もしも違う選択をしていたら、もしも神帝でなかったなら…
ペン先が止まる。
「んー、どーしよ…」
そこへ、静かなノック。
「アイズ様。大神官チルドでございます」
凛とした女性の声。
「開いてるよ!」
扉が開く。
大神官チルド。
常に冷静で、常に忠実。
アイズに仕える剣であり盾でもある存在。
「休日申し訳ありませんがお手合わせをお願いしたく…」
迷いのない眼差し。
アイズはペンを置く。
「……今日は休みだよ〜、はぁ、どーしようかな?」
「承知しております。ですが…」
一瞬、柔らかく微笑む。
「アイズ様は、悩みが深まると筆が止まりますので…」
図星だった。
アイズは小さく息を吐き、立ち上がる。
「思考読まれてるね…(笑)まぁ、いいよ!やろうか…」
ー 訓練場
人工重力がわずかに上げられ、空間が張り詰める。
アイズの構えは静かで無駄がない。
チルドの踏み込みは鋭い。
金属音が響く、祝祭の裏で、刃が交わる。
だがそれは敵意ではなく信頼の応酬。
何十合か打ち合い、最後はアイズの刃がチルドの喉元で止まる。
「んっ……参りました」
チルドは膝をつく。
アイズは手を差し出す。
「チルドちゃん腕を上げたね…」
「アイズ様…まだまだでございます…」
アイズは自室へ戻り再び机へ。
ペンを握る、今度は迷わない。
先ほどまで書けなかった一文が、自然と流れ出す。
― ノアは進む。
誰にも知られぬ想いを、その艦体に抱えながら。
アイズは静かに微笑む。
外では祭りの歓声が響いている。
だが彼にとっての生誕祭は、ここにあった。
刃を交え、心を整え、そしてまた、物語を書く。
神帝でありながら、ひとりの書き手でもある男。
今日もまた、誰にも知られぬ物語が一ページ進んだ。
(続)
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公開情報
・レイン・チルド 二十歳 女性 from水星
神帝アイズに遣える大神官
ギフト"神意同調"




