選択的敗北
ー 選択的敗北 ー
艦隊は超光速航路へ入った。
外では傷ついた宙帝艦が静かに整列し、帰投を続けている。
白く無機質な医療区画。
その中央に横たわるのは
“星葬の帝神” セリシア・ノクス
胸を貫かれた傷は封じられているが、霊力の流れはまだ乱れている。
傍らに立つのは
“断界の帝神” ラグナ・ヴァルディス
無言。
ただ見下ろしている。
やがて、セリシアの瞳がゆっくりと開く。
セリシア
「……退いたのね、なぜ…なぜなの…」
声はかすれているが、意識ははっきりしている。
ラグナ
「当然だ」
短い返答。
セリシア
「勝てたかもしれないわよ?」
ラグナの目がわずかに細まる。
ラグナ
「勝てた。だが…
お前は死んでいた…これは選択的敗北だ。」
静寂。
セリシアは小さく笑う。
「帝神が一柱消える程度で、宙帝は揺らがない、これまでもそうだったでしょう…」
ラグナ
「揺らぐな…」
即答だった。
「星葬はお前しか扱えん。代わりはない、お前は宙帝にとっては星よりも大切な存在だ…」
セリシアは目を閉じる。
「……珍しいわね。あなたが感情を見せるなんて」
ラグナは視線を逸らす。
「月の神帝……想定外だったわ…」
ラグナが低く呟く。
「キングとジュウは計算内だった。だが、あの姉弟は違う」
セリシアはゆっくり息を吐く。
「特に“月”…あれは……危険すぎる…」
「あの光は、葬りを否定する力。私と相性が最悪だったわ」
ラグナは頷く。
「太陽も厄介だ。キングと組まれれば断界を正面から破られる、今回は運が良かった…」
沈黙。
やがてセリシアがぽつりと言う。
「あなた……私を抱えて撤退したのね」
ラグナは何も答えない。
だが、否定もしない。
セリシアは微笑する。
「冷酷な断界が聞いて呆れるわ」
ラグナは背を向ける。
「戦略的判断だ…」
「はいはい…わかりましたよ…」
少し楽しそうな声。
ラグナは足を止める。
「……太陽系はまだ揺れている」
「神格再編機関。地の国の崩落。内部は割れている」
セリシアはゆっくりと上体を起こそうとするが、力が入らない。
「奴らの自由は危険だ…しかし急ぐ必要はない」
ラグナは振り返らずに言う。
「いずれ内部から崩れるだろう」
「我らは、その時を狙えばいい…」
セリシアの瞳が鋭くなる。
一瞬の沈黙。
「自由を履き違える連中…宙帝にとっては邪魔な存在だわ…」
セリシアは目を細める。
「和解する可能性は…?」
「可能性は捨てないが今の奴らじゃ無理だろう…」
その言葉に、セリシアは小さく笑う。
「あなた、思ったより甘いわ」
ラグナは静かに言い返す。
「……次は絶対に負けない」
ラグナは医療区画を出ていく。
自動扉が閉まる直前、セリシアが小さく呟く。
「ありがとうな…ラグナ…この命今度こそ宙帝の為に…」
だが、その声は届かない。
宙帝艦隊は宇宙を進む…
艦隊の目の前に現れた惑星、その名は"セドナ"
(続)




