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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
二十章 方舟、止まる

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取調室にて


― 取調室にて ―


― 宇宙空母ノア・保安部本部第一取調室


機関区域で発生した主機爆破事件。

その主犯として拘束された五名は、

現在一つの部屋に集められていた。


窓はない。時計もない。

外の音もほとんど聞こえない。

壁に設置された換気装置が低く唸っている。


ブゥゥゥゥン……。


部屋の中央。

五つの椅子が、等間隔に並べられている。

そこに五人は拘束されていた。


機関運用技術部隊カミヤ・シュウジ、クロセ・ゲンマ。通信衛星部隊クオン・ミヅキ、シライシ・ケージ。そして保安部隊ミサキ・シオン。


五人とも両手を拘束され、身動きが取れない。


誰も口を開かない。カミヤは俯いている。

クロセは苛立ったように前を睨み。

クオンは時折、タカヤに撃たれた腹部を押さえ痛みを堪えていた。シライシは目を閉じている。

そしてミサキは目を血走らせ震えていた。


ガチャ。重い扉の鍵が開いた。


五人が同時に顔を上げる。


しかし数秒扉は開かない。


そしてゆっくり扉が開いた。

真っ暗だった部屋へ廊下から眩しい光が差し込む。


「……。」


五人が目を細める。


その光の中から一人の男が歩いてきた。


黒い制服。片手には分厚い資料。

もう片方の手には一本の煙草。


男はゆっくりと室内へ入る。


扉が閉じる。バタン。

再び暗闇。そして薄暗い電気が一つだけ点いた。

男の顔が照らされる。


ノア保安部隊取調官ミドウ・タケシ。

鬼の士官と呼ばれるその男は五人を見渡した。


「さぁ……話を聞こうじゃないか。」


静かな声だった。

ミドウは五人の前に立つ。

そして、煙草を口から外し灰皿へ灰を落とす。


トン……


「こんにちは。」


ミドウは淡々と話す。


「本日、君達の聴取を担当します。」


一拍。


「ミドウ・タケシといいます。」


そして、薄く笑った。


「こちらが良いと言うまで一言も喋るなよ…

じゃ、よろしく」


五人はミドウを睨みつける。ミドウは気にする様子もなく、ゆっくりと椅子へ腰を下ろした。


――ギィ……。


深く背もたれに身体を預ける。


資料を開きページをめくる。


「お前達が主機爆破事件の主犯…」


ミドウは五人を見る。


「……。」


その時だった。


ピンポン。部屋の壁にあるスピーカーから艦内放送が流れた。


『――艦内全域へ通達します。』


五人の顔が上がる。


『二号主機、三号主機共に鎮火。』


ミドウの手が止まる。


『これより復旧作業に取り掛かります。』


――プツッ。


放送が終わる。


ミドウは煙草を一度見た。


そして。


「あぁ……。」


小さく呟く。


「火、消えたみたいだね。」


クロセが顔を上げる。


「……どうやって。」


ミドウは資料を見る。


「ん?」


「どうやって消したんだ!」


クロセの声が取調室に響く。


「こんな……こんなに早く消せるはずが――」


パァン!!


突然ミドウが灰皿を投げた。

灰皿はクロセの顔面を掠め、背後の壁に激突する。


ガンッ!!


他の四人が息を呑む。

ミドウは立ち上がらない。


ただクロセを睨んでいた。


「……あぁ?」


声が低くなる。


「誰が喋っていいって言った?」


クロセが固まる。


ミドウは煙草を別の灰皿に置いた。


「いいと言うまで黙っておけと言ったはずだが…」


部屋が静まり返る。

先ほどまでの穏やかな口調は完全に消えていた。

ミドウは再び資料へ視線を落とす。


「……さて。」


ページをめくる。


「続けようか。」


五人を順番に見る。


「お前は……」


ミドウの視線が一人の男で止まる。


「お前は確か、保安部隊の……」


資料を確認する。


「ミサキ・シオン。」


ミサキは無言。

ミドウはしばらくミサキの目を見つめた。


「保安部隊から……こんなクソ野郎が出てくるとはな。」


ミサキの眉が僅かに動く。


「悲しいよ。」


次の瞬間。


バンッ!!


ミドウの足がミサキの腹部を蹴り飛ばした。

椅子ごと後方へ倒れる。


ガシャァン!!ミサキの身体が床へ叩きつけられる。


残る四人が息を呑む。

ミドウは何事もなかったかのように椅子へ戻る。


「……。」


「さて。」


静かな声。


「お前達には、一つ聞きたいことがある。」


ミドウは資料を閉じた。


「犯行の動機……そんなものを聞く予定はない。」


五人を見る。


「なぜ主機を狙った?誰に命令された?何を企んでいたのか?そんな話はどうでもいい。」


ミドウは身体を少し前へ傾ける。


「俺が今知りたいのは…」


カミヤを見る。


「お前達は……」


さらに声を落とす。


「創造神レオナルド・ダヴィンチを崇拝しているのか?カミヤ、答えろ。」


部屋が静まり返る。数秒カミヤは俯いたままだった。

やがてゆっくりと顔を上げる。


「……あぁ。」


迷いのない声だった。


「我々は創造神様を崇拝している。」


ミドウはカミヤを見つめる。


「そうか。」


煙草を一口吸い白い煙が薄暗い部屋へゆっくりと広がる。


「分かったよ。」


ミドウは背もたれへ身体を預ける。


「お前達も人間だ。」


五人を見る。


「信仰の自由はある。ダヴィンチを崇拝しようが。

別の神を信じようが。俺には関係ない。」


ミドウの声は、意外なほど冷静だった。


「それはノアの法律でも保障されている。」


カミヤが僅かに顔を上げる。


ミドウは続ける。


「だから…個人の信仰に関しては俺達は裁けない。」


一拍。


「だが。」


ミドウの目が鋭くなる。


「お前達は行動を起こした。」


五人の顔を見る。


「主機を爆破した。ノアを停止させた。

約五万人が暮らすこの方舟を危険に晒した。

消防隊員も、機関運用技術部隊も、何も知らない住民も……全部巻き込んだ。」


煙草を灰皿へ置く。


「お前達の間違いは信仰じゃない。

その信仰を理由に、他人の命を危険に晒したことだ。」


誰も反論しない。


ミドウは資料を閉じた。


「これは重罪だ。テロリズムだ…」


その声は静かだった。


「そんな事は分かっていて私達は行動に移したの!

テロリストになるのも理解して!」


クオンは涙を流しながら話し始めた。


パァン…ミドウは手元の資料をクオンの顔面に押し付けその上から小型ナイフを突き刺した。

資料の厚みによりナイフの刃はギリギリ届かない…


クオンは白目を剥き震えていた。


「誰が発言を許可した?」


ミドウは腕時計を見る。


「……そろそろだな。ノア司法部最高裁で君達の裁判が始まる。」


五人の表情が僅かに変わった。

ミドウは立ち上がる。


ナイフの突き刺さった資料を手に取る。


「証拠は揃っている。」


「現場映像。破壊されたデバイス。主機の損傷記録。押収された設計データ。お前達五人の身分記録。」


ミドウは扉へ歩いていく。


五人は黙って聞いている。


扉の前でミドウが立ち止まる。


そして振り返った。薄暗い部屋の拘束された五人をみてミドウは小さく笑う。


「判決が……楽しみだな。」


ガチャ。扉が開く。

眩しい廊下の光が、再び部屋へ差し込み

ミドウは笑いながら外へ出る。


バタン。扉が閉じ再び完全な暗闇に戻る。

五人だけが残された。まだ誰も口を開かない。


やがてカミヤが小さく呟いた。


「……何なんだ…あの男は…」


ミサキは何も答えない。

ただ俯いたまま拳を握り締める。


その時遠くから、かすかな艦内放送が聞こえてきた。


『主機復旧作業を開始します。』


五人は黙って聞いていた。

炎は消えノアは再び動き出そうとしている。


(続)



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公開情報


・ミドウ・タケシ 四十五歳 男性

ノア保安部隊取調官 元宙警連取調官

鬼の士官と呼ばれるミドウは行き過ぎた取調、拷問により宙警連を解雇されたのち統合司令キドウ・ヒメナのヘッドハンティングにより保安部隊に入隊し現在に至る。


普段は温厚で人望があり部下からも慕われる。

取調となると人が変わる。




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