静かな宇宙
― 静かな宇宙 ー
― 太陽系・艦隊戦闘宙域 ―
最後の一隻が宇宙の闇へ消えた。
ドォォォォォン……。
巨大な爆発。炎に包まれた艦体がゆっくりと崩れ、無数の破片となって暗黒の宇宙へ散っていく。
それを最後に戦場から、砲声が消えた。
「……。」
誰も、声を発しなかった。
先ほどまで宇宙を埋め尽くしていた無数の艦艇。
そのすべてが、嘘だったかのように消えている。
残されたのは、無数の艦艇の残骸と静寂。
神格再編機関サーディン艦隊。その全艦艇が一隻残らず沈んだ。
キング艦隊の艦艇が、ゆっくりと戦場を航行する。
「残存艦……なし。」
「敵艦隊の反応、完全に消失。」
「生存艦の反応もありません。」
通信士の報告が、静かな艦橋に響く。
ビーナス・キングは、何も言わなかった。
ただ、正面のスクリーンを見つめていた。
そこに広がっているのは戦場だった場所。
無数の艦艇が破壊され、その残骸が宇宙空間を静かに漂っている。
キングは小さく息を吐いた。
「…ふぅ…終わったか。」
誰も答えなかった。
― 宇宙空母ノア・艦橋 ―
「……。」
艦橋の大型スクリーンにも、同じ光景が映し出されていた。
ヒメナは立ったまま、何も言わなかった。
その隣にはオダイ艦長。
誰も、口を開かなかった。
全員がただ、戦場を見つめていた。
やがて――
オダイが呟く。
「……すごいな。」
その声は、驚きというよりも言葉を失った人間が、ようやく絞り出した声だった。
「……。」
ヒメナは何も言わない。
全員が戦場を見つめている。
そこには、勝利を祝うような光景はなかった。
喜びも歓声もない。ただ安堵と安心感はあったのかもしれない。
副司令チョウカ・ナツキがゆっくりとスクリーンへ近づく。
「……あんなにいたのに。」
数分前までこの宙域には、無数の艦艇が存在していた。
敵も味方も互いに砲撃を放ち。
生き残るために戦っていた。
一人の管制官は拳を握った。
「……終わったんだな。」
その言葉に、ヒメナが静かに答える。
「せやな。」
短い言葉。しかしその声は重かった。
スクリーンの映像が切り替わる。
戦闘宙域を航行するキング艦隊とその向こうにはサターン艦隊。
どの船体にも無数の傷が刻まれていた。
ノアも無傷ではない。焼けた装甲、損傷した砲塔、戦闘によって破壊された外部設備。
「……。」
ヒメナがキング艦隊目線の映像でノアの姿を見つめる。
その横で、副司令シャルル・レンが口を開いた。
「長かったな。流石に疲れたよ。」
「ああ。」
オダイが答える。
「本当に…長かった。」
ー サターン艦隊
サターン艦隊旗艦艦橋では神帝ジュウが静かに目を閉じた。
木星での戦闘。
そしてノアからの救援要請。
休むことなくここへ駆けつけた。
三十隻の艦隊で、圧倒的な数の敵と戦い続けた。
「……私たちの艦隊も、かなりやられたわ。十隻…兵隊は生き残ったが大切な船がやられた…」
その言葉に神帝ジュウの副官、神官サテラ・レアが振り返った。
「……そうですね。今回は被害が多い…だか船はまた造ればいい…」
その言葉を口にした直後、ジュウの表情が変わった。
「……。」
彼女は戦場へ視線を戻す。
「そうだね…造ればいい…てかレア…貴女の船よね…
最初に沈んだのは…」
「ハハ…私の船は古かったのですよ…次は最新艦でお願いします…」
ジュウはため息をつく。
― ノア港 ―
戦闘終了の報が届く。
『全艦へ通達。』
『神格再編機関大艦隊全滅。
現在、戦闘宙域に敵艦反応なし。繰り返す。敵艦反応なし。』
その瞬間ノア港にいた作業員たちの手が止まった。
修理中の護衛艦、損傷した船体、工具を握った整備兵。
ただ互いの顔を見る。
「……終わった?」
誰かが呟く。
「……終わったんだ。」
別の作業員が答えた。
数秒の沈黙。
「……よっしゃぁぁぁぁ!!」
誰かが叫んだ。
港全体に声が響く。
「勝ったぞ!!」
「終わったぁぁ!!」
「生き残ったぞ!!」
拳が上がる。抱き合う者その場に座り込む者。
泣き出す者に笑う者。
だがその歓声の中にも、静かに涙を拭う者がいた。
喜びだけではない。失ったものを思い出しているのだ。
ドックの片隅。
タカヤは修理途中の護衛艦を見上げていた。
四日間この艦は戦い続けた。
そして傷だらけになって帰ってきた。
タカヤはその船体へそっと手を触れる。
「……お疲れさん。」
その隣に整備兵が立つ。
「神帝様。」
「ん?」
「終わりましたね。」
タカヤは不思議そうな顔をする。
「いや…終わって無いさ…」
「……えっ…」
「神格再編機関はこんな甘い組織では無いからね。次いつ現れるか…」
そして整備兵は引き攣った笑顔でその場に座り込む。
「今日は…今日だけは…休んでもいいですかね。」
タカヤは笑った。
「ハハ、当たり前だろ。今日はね。
四日間も戦ってたんだから。けどね…俺がもらった情報ではね…これから天王星宙域へ向かうらしい…
天王星内での戦闘に応援って感じだし艦艇は出ないだろう…君達は休めるよ…」
「えぇぇ…神帝様も休んでくださいね…」
「俺?」
「ずっとここで修理してたじゃないですか。
てか陸戦なら神帝達も…」
「ああ……。」
タカヤは自分の作業着を見る。
油、煤、溶接の跡。
「……俺は大したことしてないよ。」
整備兵は首を横に振った。
「そんなことないですよ。」
タカヤが顔を上げる。
「神帝様が一緒に作業してくれたから…
みんな、頑張れたんです。今からでも休んでください…」
「ハハ!そんなお世辞は要らないよ!
けどありがとう!」
タカヤは小さく笑った。
― 宇宙空母ノア・艦橋
「戦闘終了を確認。」
通信士が報告する。
「全艦戦闘態勢を解除します。」
「……了解。」
ヒメナが答える。
艦橋に、長い沈黙が流れた。
そして。ヒメナはゆっくりと椅子へ腰を下ろした。
「……みんな。」
誰もが彼女を見る。
「ほんまに……よう頑張ったな。」
その一言だった。
誰もが戦っていた。ノアという一つの国家そのものが、この戦争を耐え抜いた。
ヒメナは正面を見る。
そこには、戦場の向こうに広がる太陽系があった。
「……じゃ…次の戦場に行こうか…。」
オダイが頷く。
「はい。天王星宙域がやばそうですからね…」
「急ごう…」
「了解。」
艦橋の各所でゆっくりと命令が伝わっていく。
戦闘態勢の継続。主砲冷却。
「目的地、天王星!」
ヒメナの声が艦橋に響き渡る。
宇宙空母ノアはゆっくりと進路を変える。
キング艦隊もサターン艦隊もそれぞれがノアの周囲へ集まっていく。戦争の終わった宇宙を巨大な艦隊が静かに航行していく。
ヒメナは伸びをした後に小さく呟く。
「さぁ行こうか…新たな戦場へ…」
(続)




