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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十九章 太陽系侵攻

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201/212

静かな宇宙


― 静かな宇宙 ー


― 太陽系・艦隊戦闘宙域 ―


最後の一隻が宇宙の闇へ消えた。


ドォォォォォン……。


巨大な爆発。炎に包まれた艦体がゆっくりと崩れ、無数の破片となって暗黒の宇宙へ散っていく。


それを最後に戦場から、砲声が消えた。


「……。」


誰も、声を発しなかった。

先ほどまで宇宙を埋め尽くしていた無数の艦艇。

そのすべてが、嘘だったかのように消えている。

残されたのは、無数の艦艇の残骸と静寂。


神格再編機関サーディン艦隊。その全艦艇が一隻残らず沈んだ。


キング艦隊の艦艇が、ゆっくりと戦場を航行する。


「残存艦……なし。」


「敵艦隊の反応、完全に消失。」


「生存艦の反応もありません。」


通信士の報告が、静かな艦橋に響く。


ビーナス・キングは、何も言わなかった。


ただ、正面のスクリーンを見つめていた。


そこに広がっているのは戦場だった場所。

無数の艦艇が破壊され、その残骸が宇宙空間を静かに漂っている。


キングは小さく息を吐いた。


「…ふぅ…終わったか。」


誰も答えなかった。


― 宇宙空母ノア・艦橋 ―


「……。」


艦橋の大型スクリーンにも、同じ光景が映し出されていた。


ヒメナは立ったまま、何も言わなかった。


その隣にはオダイ艦長。


誰も、口を開かなかった。


全員がただ、戦場を見つめていた。


やがて――


オダイが呟く。


「……すごいな。」


その声は、驚きというよりも言葉を失った人間が、ようやく絞り出した声だった。


「……。」


ヒメナは何も言わない。


全員が戦場を見つめている。

そこには、勝利を祝うような光景はなかった。

喜びも歓声もない。ただ安堵と安心感はあったのかもしれない。


副司令チョウカ・ナツキがゆっくりとスクリーンへ近づく。


「……あんなにいたのに。」


数分前までこの宙域には、無数の艦艇が存在していた。


敵も味方も互いに砲撃を放ち。

生き残るために戦っていた。


一人の管制官は拳を握った。


「……終わったんだな。」


その言葉に、ヒメナが静かに答える。


「せやな。」


短い言葉。しかしその声は重かった。


スクリーンの映像が切り替わる。


戦闘宙域を航行するキング艦隊とその向こうにはサターン艦隊。


どの船体にも無数の傷が刻まれていた。


ノアも無傷ではない。焼けた装甲、損傷した砲塔、戦闘によって破壊された外部設備。


「……。」


ヒメナがキング艦隊目線の映像でノアの姿を見つめる。


その横で、副司令シャルル・レンが口を開いた。


「長かったな。流石に疲れたよ。」


「ああ。」


オダイが答える。


「本当に…長かった。」


ー サターン艦隊


サターン艦隊旗艦艦橋では神帝ジュウが静かに目を閉じた。


木星での戦闘。

そしてノアからの救援要請。

休むことなくここへ駆けつけた。

三十隻の艦隊で、圧倒的な数の敵と戦い続けた。


「……私たちの艦隊も、かなりやられたわ。十隻…兵隊は生き残ったが大切な船がやられた…」


その言葉に神帝ジュウの副官、神官サテラ・レアが振り返った。


「……そうですね。今回は被害が多い…だか船はまた造ればいい…」


その言葉を口にした直後、ジュウの表情が変わった。


「……。」


彼女は戦場へ視線を戻す。


「そうだね…造ればいい…てかレア…貴女の船よね…

最初に沈んだのは…」


「ハハ…私の船は古かったのですよ…次は最新艦でお願いします…」


ジュウはため息をつく。


― ノア港 ―


戦闘終了の報が届く。


『全艦へ通達。』


『神格再編機関大艦隊全滅。

現在、戦闘宙域に敵艦反応なし。繰り返す。敵艦反応なし。』


その瞬間ノア港にいた作業員たちの手が止まった。


修理中の護衛艦、損傷した船体、工具を握った整備兵。


ただ互いの顔を見る。


「……終わった?」


誰かが呟く。


「……終わったんだ。」


別の作業員が答えた。


数秒の沈黙。


「……よっしゃぁぁぁぁ!!」


誰かが叫んだ。


港全体に声が響く。


「勝ったぞ!!」


「終わったぁぁ!!」


「生き残ったぞ!!」


拳が上がる。抱き合う者その場に座り込む者。

泣き出す者に笑う者。

だがその歓声の中にも、静かに涙を拭う者がいた。


喜びだけではない。失ったものを思い出しているのだ。


ドックの片隅。


タカヤは修理途中の護衛艦を見上げていた。


四日間この艦は戦い続けた。

そして傷だらけになって帰ってきた。

タカヤはその船体へそっと手を触れる。


「……お疲れさん。」


その隣に整備兵が立つ。


「神帝様。」


「ん?」


「終わりましたね。」


タカヤは不思議そうな顔をする。


「いや…終わって無いさ…」


「……えっ…」


「神格再編機関はこんな甘い組織では無いからね。次いつ現れるか…」


そして整備兵は引き攣った笑顔でその場に座り込む。


「今日は…今日だけは…休んでもいいですかね。」


タカヤは笑った。


「ハハ、当たり前だろ。今日はね。

四日間も戦ってたんだから。けどね…俺がもらった情報ではね…これから天王星宙域へ向かうらしい…

天王星内での戦闘に応援って感じだし艦艇は出ないだろう…君達は休めるよ…」


「えぇぇ…神帝様も休んでくださいね…」


「俺?」


「ずっとここで修理してたじゃないですか。

てか陸戦なら神帝達も…」


「ああ……。」


タカヤは自分の作業着を見る。


油、煤、溶接の跡。


「……俺は大したことしてないよ。」


整備兵は首を横に振った。


「そんなことないですよ。」


タカヤが顔を上げる。


「神帝様が一緒に作業してくれたから…

みんな、頑張れたんです。今からでも休んでください…」


「ハハ!そんなお世辞は要らないよ!

けどありがとう!」


タカヤは小さく笑った。


― 宇宙空母ノア・艦橋


「戦闘終了を確認。」


通信士が報告する。


「全艦戦闘態勢を解除します。」


「……了解。」


ヒメナが答える。


艦橋に、長い沈黙が流れた。


そして。ヒメナはゆっくりと椅子へ腰を下ろした。


「……みんな。」


誰もが彼女を見る。


「ほんまに……よう頑張ったな。」


その一言だった。


誰もが戦っていた。ノアという一つの国家そのものが、この戦争を耐え抜いた。


ヒメナは正面を見る。

そこには、戦場の向こうに広がる太陽系があった。


「……じゃ…次の戦場に行こうか…。」


オダイが頷く。


「はい。天王星宙域がやばそうですからね…」


「急ごう…」


「了解。」


艦橋の各所でゆっくりと命令が伝わっていく。


戦闘態勢の継続。主砲冷却。


「目的地、天王星!」


ヒメナの声が艦橋に響き渡る。


宇宙空母ノアはゆっくりと進路を変える。

キング艦隊もサターン艦隊もそれぞれがノアの周囲へ集まっていく。戦争の終わった宇宙を巨大な艦隊が静かに航行していく。


ヒメナは伸びをした後に小さく呟く。


「さぁ行こうか…新たな戦場へ…」


(続)



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