↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十九章 太陽系侵攻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

200/212

死命


― 死命 ー


― 太陽系・艦隊戦闘宙域 ―


宇宙が、燃えていた。

無数の閃光が暗黒を切り裂き、爆発した艦艇の残骸が戦場を漂う。その中心にいたのは宇宙空母ノア。

そして、その周囲を埋め尽くす黄金の艦隊キング艦隊とサターン艦隊。


「第二戦列を前進させろ!敵艦隊の左翼を包囲! 退路を断て!全艦、砲撃を継続!」


ビーナス・キングの命令が、旗艦の艦橋に響き渡る。


ドドドドドドドッ!!


金色に輝く艦艇群が一斉に砲火を放つ。

敵艦隊の左翼が爆発に包まれた。

一隻が沈む。続いて十隻。

さらにその後方で、数十隻もの艦艇が炎に包まれていく。


だが神格再編機関の艦隊も黙ってはいなかった。


「敵艦隊、正面より突撃してきます!」


「迎撃しろ!」


「駄目です! 敵艦隊、こちらの砲撃を無視して前進しています!」


「何だと!?」


キング艦隊の砲撃を浴びながらも、神格再編機関の艦艇は進み続ける。

その姿は、まるで傷ついた獣の群れだった。

一隻が爆発すれば、その後ろから別の艦艇が現れる。

一隻が沈めば、さらに別の艦艇がその穴を埋める。

しかし今度ばかりは、状況が違った。


キング艦隊の数は圧倒的だった。

左右から迫る艦艇群が敵の進路を塞ぎ、後方からは新たな戦列が押し寄せる。

神格再編機関の艦隊は、もはや自由に動くことすらできなくなっていた。


「敵艦隊、後退しています!」


「逃がすな! 包囲を維持しろ!」


キング艦隊の砲撃が続く。

ドォォォォォン!!

巨大戦艦が真っ二つに裂けた。

その爆発に巻き込まれ、周囲の巡洋艦が次々と吹き飛ばされていく。


「敵艦隊、損害拡大!」


「後方からの増援は!?」


「確認できません! 各方面の敵艦隊も、こちらへ合流できない模様です!」


戦場の主導権は、完全にキング艦隊へと移っていた。

そして、その戦場の奥深く。

神格再編機関大艦隊の旗艦もまた、激しい攻撃にさらされていた。


― 神格再編機関大艦隊・旗艦 ―


ドォォォォォン!!

艦体が大きく揺れた。

天井から火花が散り、壁面の照明が次々と消えていく。

「損傷報告!第三装甲区画、貫通!

機関部の出力が低下しています!」


「右舷砲塔、全損!」


「消火班を急がせろ!」


艦橋は怒号に包まれていた。

スクリーンには、炎に包まれた自軍の艦艇が映し出されている。

その数は、もはや把握できない。

いや。把握する意味すら失われつつあった。

サーディン艦隊。

宇宙空母ノアを数の力で飲み込もうとした大艦隊。

その巨大な群れが、今や黄金の包囲網の中で削り取られていた。


「将神様!」


一人の士官が叫ぶ。


「このままでは旗艦も持ちません! ただちに後退を!」


玉座に座っていたサーディンは、答えなかった。


「将神様!」


「……。」


サーディンはスクリーンを見つめていた。

そこに映るのは、次々と爆発していく自軍の艦艇。

そして、その向こうに見える巨大な方舟。

あれを沈めるために、どれだけの艦艇を投入したのだろう。

どれだけの兵士が命を落としたのだろう……

数え切れない…数えたところで、何も変わらない。


「……なぜだ。」


サーディンが呟く。


「なぜ……こうなった。」


そのときだった。

――ドォォォォォン!!

これまでとは違う、凄まじい衝撃が旗艦を襲った。


「うわああああっ!!」


艦橋が大きく傾く。

モニターが砕け、計器類が火花を散らした。


「何が起きた!?」


「敵主砲です!」


「敵主砲だと!?」


「ノアです! 宇宙空母ノアの主砲がこちらの旗艦を直撃しました!」


サーディンの顔から血の気が引いた。


「……ノアの主砲。」


その言葉を口にした瞬間、艦橋の前方が白い閃光に包まれた。


装甲を突き破った砲撃が、旗艦の艦橋を直撃したのだ。


「将神様――!」


士官の声は、最後まで続かなかった。

爆風が艦橋を飲み込む。

通信設備が砕け散り、計器盤が吹き飛ぶ。

火災が広がり、黒煙が天井を覆っていく。

やがて音が消えた。


いや…完全に消えたわけではない。

燃え上がる炎の音。

破損した配管から漏れ出す蒸気の音。

そして、どこかで繰り返される警報音。

それだけが破壊された艦橋に残されていた。

サーディンは、床に倒れていた。

ゆっくりと身体を起こす。

頭から血が流れ、軍服は焼け焦げていた。

目の前には先ほどまで命令を待っていた士官たちが倒れている。

誰も動かない。

誰も返事をしない。

サーディンは立ち上がろうとした。

だが、足元がふらつく。

壁に手をつき、どうにか身体を支える。


「……おい。」


返事はない。


「誰か……。」


沈黙。


「誰か、いないのか……!」


その声が、炎に包まれた艦橋に響いた。

しかし、答える者はいなかった。

先ほどまで無数の部下がいた場所。

自分の命令一つで艦隊が動き、幾万もの兵士が戦っていた場所。

そこには、もう誰もいない。

サーディンはゆっくりと顔を上げた。

大型スクリーンは砕け戦況を映すことすらできなくなっていた。

それでも、破損した窓の向こうには戦場が見えた。

燃え上がる艦艇。

四方から迫る黄金の艦隊。

そして、遠くに浮かぶ巨大な方舟。


サーディンは、その姿を見つめた。


「……あぁ。」


声が漏れた。


「終わった……。」


彼は、焼け焦げた壁に背中を預けた。


「私の大艦隊も……これでお終いだ……。」


かつて彼は信じていた。数こそが力。

一隻失っても、次の一隻がある。

十隻沈んでも、百隻が押し寄せる。

敵がどれほど強大であろうと、圧倒的な数で押し潰せばいい。それが彼の戦い方だった。

それが彼の勝利への道だった。

だが。今、彼の周囲にいるのは誰もいない。

自分の命令を受ける者も。自分を守る者も。

自分の言葉に耳を傾ける者も。

誰一人として、残ってはいない…


「この戦争……。」


サーディンの声が震える。


「勝機は……我らにあった。」


彼は、血の滲む手で壁を叩いた。


「あと少しだった……あと少しで……!」


その声が、次第に大きくなっていく。


「どこで間違えたのだ……!」


炎が天井を舐める。

艦体の奥深くで、何かが崩れる音がした。


「我はどこで……間違えたのだぁぁぁ!!」


絶叫。

それは、もはや将神の威厳を残した声ではなかった。

自分が築き上げたものが崩れ去るのを、ただ目の前で見つめるしかない男の叫びだった。

そしてその声が響いた瞬間。

旗艦の中央部で、巨大な爆発が起きた。

ドォォォォォォォォン!!

閃光が艦体を貫く。

巨大戦艦の装甲が内側から弾け飛び、船体がいくつもの破片へと分かれていく。


将神サーディンは旗艦と共に白い光の中へと消えていった。


神格再編機関大艦隊を率いた将神サーディン。

その最期は、誰に看取られることもなかった。


― 太陽系・艦隊戦闘宙域 ―


その瞬間だった。

サーディンの旗艦が爆散した直後。

戦場に異変が起きた。


「……あれ?」


キング艦隊の艦橋で、一人の管制官が声を漏らす。


「敵艦隊の動きが……」


「どうした?」


「敵艦隊が……停止しました!」


大型スクリーンに映る敵艦艇。

その大半が、まるで時間を止められたかのように動きを止めていた。砲撃もない。

回避行動もない。隊列の変更すらない。

数え切れない艦艇が、宇宙空間に静止していた。


「何が起きている?」


キングが眉をひそめる。


「通信は?」


「確認しています!」


ノアの艦橋でも同じ報告が飛び交っていた。


「敵艦隊、全域で動きが停止!」


「各艦の通信状況は!?」


「不明です! こちらからの呼びかけに応答がありません!」


ヒメナはモニターを見つめた。


「……何や?」


戦場から音が消えたようだった。

つい先ほどまで、宇宙を埋め尽くしていた砲火。

無数の艦艇が繰り広げていた激しい攻防。

そのすべてが、一瞬だけ止まった。

まるで、巨大な群れの頭を失ったかのように。

そして次の瞬間。停止していた敵艦隊が、再び動き始めた。


「敵艦、再始動!」


「砲撃が来ます……い、いや…違います!」


管制官の声が裏返った。


「敵艦隊、こちらへ突撃してきます!」


スクリーンに映し出された敵艦艇が、次々と進路を変えていく。だが、その動きは先ほどまでとは明らかに違っていた。

隊列を組まず砲撃による牽制も行わない。

回避行動すら取らない。

ただ、前へ。ただ、敵へ。

ただ、目の前にいる艦艇へ向かって、全速力で突き進んでくる。


「……何をするつもりや?」


ヒメナが呟く。

その答えは、すぐに明らかになった。

ドォォォォォン!!

キング艦隊の前衛艦が激しく揺れた。


「前衛艦被弾!」


「違う!違います! 敵艦が……!」


管制官が叫ぶ。


「体当たりです!!」


神格再編機関の艦艇が、キング艦隊の艦艇へ真正面から突っ込んでいた。

敵艦の装甲が砕ける。

キング艦隊の艦艇もまた、大きく損傷する。

だが、突撃は止まらなかった。

一隻が衝突する。

その背後から、二隻目が突っ込む。

そして、衝突した艦艇が爆発する。

ドォォォォォン!!

巨大な閃光が広がる。

爆発に巻き込まれた周囲の艦艇が、次々と損傷していく。


「敵艦、回避しません!」


「自爆攻撃です!」


「そんな馬鹿な……!」


キング艦隊旗艦の艦橋に、緊張が走った。


「全艦、回避運動!」


「敵艦の突撃コースから離れろ!」


「損傷艦を後方へ下げろ!」


キングの命令が飛ぶ。

しかし、敵艦隊の特攻は止まらなかった。

彼らは勝利を求めているのではなかった。

生き残るために戦っているのでもなかった。

ただ一つ。何としても、宇宙空母ノアを沈める。

その信念だけが、艦隊を動かしていた。

自らの命も。仲間の命も。帰る場所も。

すべてを捨ててでも、ノアを沈める。

それが彼らに残された、最後の命令だった。


「…奴らは…狂ってる。」


キングが低く呟く。


「指揮官を失っても、まだ戦うというのか……!」


敵艦が再び突っ込んでくる。

ドォォォォォン!!

黄金の装甲が砕け、艦体の一部が宇宙空間へ飛び散った。

キングは歯を食いしばった。


「全艦、ノアへの進路を確保しろ!」


「ですが、敵艦の特攻が激しく――」


「分かっている!」


キングが声を張り上げる。


「ここで止めなければ、ノアが危ない!ノアは太陽系の希望だ!守りきれ!」


その視線の先には、巨大な方舟があった。

ノアは、まだ戦場の中心にいる。

そして、特攻を続ける敵艦隊の一部は、明らかにノアへ向かおうとしていた。


― 宇宙空母ノア・艦橋 ―


「敵艦隊、進路変更!」


「こちらへ向かってきます!」


「主砲照準、敵先頭集団へ!」


「了解!」


ヒメナはスクリーンを見つめていた。

敵艦隊の動き。

次々と爆発するキング艦隊の艦艇。

そして、ノアへ向かってくる無数の敵艦。


「……将神はもうおらんのやな。」


誰も答えなかった。

ヒメナは小さく息を吐く。


「それでも……止まらへんか。これが奴らの死命か…」


彼女は目を閉じ、ほんの一瞬だけ沈黙した。

敵は、もはや大艦隊として戦っているのではない。

一つの意思に突き動かされた、無数の艦艇。

その意思が何によって生まれたのか。

命令なのか。恐怖なのか。

それとも、彼ら自身が信じ続けた思想なのか。

今となっては分からない。

ただ一つ、確かなことがあった。

戦争は、まだ終わっていない。


ヒメナが静かに口を開いた。


「敵の特攻を絶対にノアへ近づけるな。」


「了解!」


「キング艦隊と連携して迎撃! 護衛艦の修理が終わった艦から順次、防衛線へ回して!」


「了解しました!」


ヒメナは正面を向いた。


「ここまで来て……誰一人、無駄死にさせるわけにはいかへん。」

その声には、強い決意があった。

ノアの巨大な船体が、再び主砲の発射準備に入る。

黄金の艦隊が、敵艦の特攻を食い止めようと隊列を組み直す。

そして宇宙の彼方では、まだ無数の敵艦艇が燃え続けていた。

将神サーディンは死んだ。

彼の大艦隊も、もはやかつての姿を残してはいない。

それでも、戦いは続く。

その執念が尽きるまで。

最後の一隻が、宇宙に消えるまで。


(続)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。