黄金の大艦隊
― 黄金の大艦隊 ―
― 太陽系・艦隊戦闘宙域 ―
それからさらに二日。
戦闘は終わらなかった。
いや。終わらせることができなかった。
ドォォォォォン!!
宇宙空間を巨大な閃光が走る。
ノアの第一主砲が敵艦隊を薙ぎ払う。
ドォォォォォン!!
第二主砲そして第三主砲。
数十隻の艦艇が一瞬で消滅する。
だが。
「敵艦、後方より接近!」
「数は!?」
「……また増えています!」
「何だと……」
撃沈したはずの艦艇、破壊したはずの艦隊。
その空白を埋めるように、さらに後方から新たな艦艇が押し寄せてくる。
まるで海そのものが押し寄せてくるようだった。
「主砲、再装填!」
「急げ!」
「航空隊、第二交代へ!」
「敵艦隊、右舷方向からも接近!」
艦橋を飛び交う報告。
サターン艦隊が加わってから二日。
ノアの六隻の有人護衛艦は後方へ下がり、修理と休息を続けている。その代わりに前線へ立ったサターン艦隊三十隻が、敵の巨大な群れを相手に戦い続けていた。
しかしそのサターン艦隊にも、明らかに疲労が見え始めていた。
当然だった。彼らは木星で戦闘を終えたばかりだった。休む間もなくノアからの救援要請を受け、ここへ駆けつけたのだ。
艦艇の装甲には傷。
砲塔には焼け跡。
艦内では負傷者の治療が続いている。
それでも三十隻は戦っていた。
― サターン艦隊・旗艦
「敵艦、正面より接近!」
「主砲発射!」
ドドドドドドッ!!
艦砲が一斉に火を噴く。
敵艦が爆発する。
「撃破!」
「次!右舷から敵艦!迎撃します!」
再び砲火。サターン・ジュウは艦橋中央に立ち、戦況を見つめていた。
その表情は、いつもの落ち着きを失い始めている。
モニターに映る敵艦隊。
そして、その向こうに見えるノア。
「……。」
ジュウは静かに息を吐いた。
「このままじゃ駄目ね……」
隣にいた士官が振り返る。
「神帝様……」
「私たちも、もう余裕がない。」
ジュウは自分たちの艦隊を見つめる。
三十隻たった三十隻。
それでもここまで耐えてきた。
しかし敵は減らない。むしろ増えている気さえもする。
「一体……どれだけいるのよ。」
ジュウが呟いた。
― 神格再編機関大艦隊
― サーディン大艦隊・旗艦
「もうすぐだ……」
巨大な艦橋。
その中央に置かれた玉座。
そこに座る将神サーディンは、不敵な笑みを浮かべていた。
「もうすぐ……飲み込める。」
大型スクリーンには戦闘宙域が映し出されている。
無数の艦艇のその中心には宇宙空母ノア。
そしてその前方で必死に戦うサターン艦隊。
一人の士官が恐る恐る口を開いた。
「ですが……将神様。」
「何だ。」
「敵の持久力は、想像以上です。」
サーディンの笑みが僅かに消える。
「……。」
「ノアの主砲による損害も甚大です。我々の艦隊にも疲労が蓄積しています。このまま戦闘が長期化すれば――」
「それがどうした。」
士官が黙る。
サーディンはスクリーンを見ながら言った。
「今、勝機は我らにある。」
「ですが、兵の――」
パァン――
乾いた音が艦橋に響いた。
ガタン。
若い士官の身体が床へ倒れサーディンは銃を下ろす。
「五月蝿い。我に意見するとは……随分と偉くなったみたいだな。」
艦橋に沈黙が落ちる。
「……。」
サーディンは再び前を向く。
「我々は小魚だ。一匹では巨大な方舟には勝てない。だから群れるのだ!一匹喰われれば、次の一匹が前へ出る。十匹喰われれば、百匹が前へ出る。」
「百匹喰われれば……千匹が喰らいつく。」
サーディンの口元が歪む。
「最後に立っている者が勝者だ。」
その瞬間だった。
――ピィィィィィィィィッ!!
艦橋に警報が鳴り響いた。
「……何事だ。」
サーディンが振り返る。
「将神様!」
艦長が叫ぶ。
「これをご覧ください!」
大型スクリーンへ表示が切り替わる。
艦長の顔から血の気が引いていた。
「戦闘宙域外縁部に……大量の艦影!」
「数は?」
「……計測不能です!」
「何だと?」
スクリーンいっぱいに表示される。
レーダー画面そのものが敵艦反応で埋め尽くされていく。
「敵艦隊が……どんどんこの戦闘宙域へ侵入しています!」
「馬鹿な……」
別の士官が震える声で叫ぶ。
「太陽系戦力は、我々将神によって各宙域へ分散されているはずです!」
「ならば……あれは何だ!」
誰かが叫んだ。
スクリーンの彼方。
暗い宇宙を黄金の光が覆っていく。
金色に輝く艦艇が、巨大な隊列を組んで現れる。
戦艦、巡洋艦、駆逐艦、補給艦、護衛艦……
その数は、まるで一つの国家そのものだった。
「……金色。」
サーディンが呟く。
一人の士官が震えながら答えた。
「金星王……宇宙一と言われる資金力を持つ大富豪……」
「神帝ビーナス・キング……」
士官の声が震える。
艦橋に衝撃が走った。
「キング艦隊です!!」
サーディンの表情が変わる。
「……何?」
「金星にも将神は送られている筈では……」
サーディンが立ち上がる。
「将神コーラルはどうした。」
通信士が必死に端末を確認する。
「確認します!」
数秒。その沈黙が異様に長く感じられた。
「……ありません。」
「何?」
「金星に派遣された将神コーラル……」
通信士は顔を上げる。
「生体反応が……確認できません。」
「……。」
サーディンの目が細くなる。
その瞬間。
別の士官が叫んだ。
「敵艦隊、さらに増加!」
「左右両舷より接近!後方にも敵艦!」
「退路は!?」
「……ありません!」
艦橋に悲鳴が走る。
「我々の大艦隊が……」
誰かが呟いた。
「囲まれている……」
「そんな……」
「数が……多すぎる……」
一人の兵士がスクリーンを見上げる。
「喰われる……」
その言葉に、サーディンがゆっくり振り返った。
「……。」
先ほどまでの余裕はそこにはなかった。
小魚の群れ。巨大な方舟を飲み込むはずだった群れ。
しかし今その群れの周囲を、さらに巨大な群れが取り囲んでいた。
― キング艦隊・旗艦
「キング様!」
艦橋に通信士の声が響く。
「ノアの戦闘宙域に到着しました!」
中央の指揮席。そこに座る一人の男。
神帝ビーナス・キング。
金星王そして宇宙有数の大富豪。
キングは大型スクリーンに映る戦場を眺める。
そこには、無数の敵艦。
「……。」
キングはゆっくり立ち上がった。
「ノアは?」
「現在、敵大艦隊と交戦中です。サターン艦隊も交戦しています。」
「そうか。」
キングは笑いそして通信士を見る。
「ノアとサターン艦隊に無線入れとけ。」
「了解!」
通信が接続される。
キングは椅子から立ち上がり、正面の巨大スクリーンを見つめる。
その先には数え切れない敵艦。
キングは口元を吊り上げた。
「……随分と派手にやってるじゃないか。」
そして――
「さぁ……」
艦橋に響く声。
「始めようじゃない!」
その瞬間。
キング艦隊の全艦艇が一斉に戦闘態勢へ移行した。
金色の艦隊が、宇宙を埋め尽くしていく。
― 宇宙空母ノア・艦橋
「……。」
ヒメナは大型スクリーンを見つめていた。
そこには新たに出現した巨大艦隊。
「統合司令!」
通信士が叫ぶ。
「キング艦隊より通信です!」
ヒメナが振り返る。
「繋いで。」
スクリーンが切り替わる。
そこにビーナス・キングが映し出された。
「こちらキング艦隊。」
キングが笑う。
「お久しぶりです。ヒメナさん!」
ヒメナはしばらく黙っていた。
「……はは!久しぶりやな!頼むで。」
僅かな笑み。
キングも笑う。
「頼まれた!」
その背後。金色の艦隊が戦闘宙域を完全に包囲している。
通信が切れヒメナは前を向いた。
そして静かに言った。
「……全艦。」
艦橋の空気が変わる。
「キング艦隊との連携準備。」
「了解!」
「サターン艦隊にも連絡!」
「はい!」
ヒメナは再び戦場を見る。
二日間ノアもサターン艦隊も耐えた。
無数の兵士たちが耐えた。
そして今。新たな艦隊がこの戦場へ到着した。
ヒメナは小さく息を吸う。
「……さぁ、そろそろ終わらせよか。」
その声は静かだった。
その目には、再び強い光が宿っていた。
「ここからや。」
黄金の艦隊が、一斉に砲門を開く。
ドドドドドドドドドドッ!!
無数の砲火が暗黒の宇宙を黄金に染め上げた。
そして小魚の群れを囲むように。
新たな巨大な群れが動き始める。
戦場は今、新たな局面へと突入した。
(続)




