サターン艦隊
― サターン艦隊 ―
― 太陽系・艦隊戦闘宙域 ―
ドォォォォォン!!宇宙が揺れる。
ノアの主砲が放たれるたび巨大な閃光が戦場を切り裂いていく。
「第一主砲、発射!」
「第二主砲、続け!」
「第三主砲、照準修正!」
次々と放たれる主砲。
その威力は圧倒的だった。
数十隻の敵艦が一斉に吹き飛ぶ。
巨大戦艦が砕け巡洋艦が爆発する。
駆逐艦が光の中へ消えていく。
「敵艦隊、大規模損害!」
「前衛部隊、壊滅!さらに後方から敵艦接近!」
「……。」
艦橋の誰もがモニターを見る。
そこに映っていたのは次々に現れる艦艇だった。
先ほど吹き飛ばされた艦艇の数を埋めるように、さらに後方から新たな艦隊が押し寄せてくる。
「…すごいな…まだ来るのか。」
オダイ艦長が呟く。
「はい。」
管制官が答える。
「敵艦隊、数…依然として確認不能です。」
「主砲発射!」
ドォォォォォン!!
再び数十隻が消える。
しかしその後ろからまた艦艇が現れる。
いくら砲撃してもいくら沈めても……
「……まるで小魚やな。」
ヒメナが呟く。
モニターの中で、無数の敵艦が群れを成している。
「一匹一匹は大したことない。」
ヒメナは目を細める。
「せやけど……群れになったら厄介や。」
その時だった。
「統合司令!」
通信士が叫ぶ。
「通信入ります!」
「どこから?」
「サターン艦隊です!」
ヒメナが振り返る。
「……サターン来たか…」
「はい!」
大型モニターが切り替わる。
そこに映し出されたのは宇宙空間を航行する三十隻の艦艇。艦隊旗艦を中心に、整然と並ぶ艦艇群。
「こちらサターン艦隊総督……」
通信画面に一人の女性が映る。
神帝サターン・ジュウ。
「神帝サターン・ジュウです。」
ジュウは静かに敬礼する。
「木星の後始末に時間が掛かった!遅くなって申し訳ない。宇宙護衛艦を一度下げて休息を取ってください。」
ジュウが続ける。
「私達に任せて。」
ヒメナの顔に少しだけ笑みが戻った。
たった三十隻。敵艦隊はその数を遥かに上回っている。それでも今のノアにとってはその三十隻が何よりも大きかった。
ヒメナは微笑む。
「こちら宇宙空母ノア、統合司令キドウ・ヒメナ。」
そして敬礼する。
「感謝する。」
ジュウは微笑み通信が切れる。
ヒメナは前を向いた。
「護衛艦隊へ。」
「はい!」
「サターン艦隊と交代。一旦港に戻り休息及び艦隊の修理を!」
「了解!」
― サターン艦隊
「全艦、戦闘配置。」
ジュウの声が艦隊へ響く。
三十隻の艦艇が一斉に展開する。
「敵艦隊へ向けて砲撃開始。」
「了解!」
ドドドドドドッ!!
三十隻の艦艇から砲火が放たれる。
敵艦隊の一角が爆発する。
しかしすぐに後方から新たな敵艦が現れる。
ジュウはそれを見る。
「……多いわね。」
だがその目に恐怖はなかった。
「それでも時間は稼げる。」
三十隻の艦隊は止まる事なく砲撃を続ける。
― 宇宙空母ノア・ノア港
「護衛艦、帰還!」
「第一番艦、入港!第二番艦、接続!」
普段なら穏やかなノア港。
艦内にある巨大な港湾施設。
しかし今は違った。
「担架!負傷者を医療区画へ!」
「こっちは機関部損傷!」
「冷却系統を確認しろ!」
整備兵が走る。衛生員も走る。
戻ってきた六隻の有人宇宙護衛艦には、無数の傷が刻まれていた。
装甲は焼け。
船体には無数の弾痕。
一部の砲塔は破損している。
そして――
そこから次々と兵士達が降りてくる。
「……今回は流石にきつかった。」
一人の兵士が呟いた。
「四日間、出たままでしたからね。」
隣の兵士が答える。
「ノアに配備されてる護衛艦は、無人が四隻、有人が六隻……。無人艦が使えない今、ノアを守れるのは俺達だけだったからな。」
「ああ。」
二人は疲れ切った顔をしていた。
だがその目は死んでいない。
「……まだ戦えるか?」
「当然だろ。」
兵士が笑う。
「俺達が休んでる間は、サターン艦隊が戦ってくれてる。だったら俺達も、もう一度出られるようにしないとな。」
「そういうこと。」
二人は拳を軽くぶつけ合った。
そして、それぞれの整備区画へ向かっていった。
ノア港のドックでは六隻の護衛艦が並んでいる。
巨大なドライドッグ内で船体を固定し作業員達が一斉に修理へ取り掛かる。
「装甲板、交換!」
「機関部の冷却ラインを確認!」
「砲塔、再調整!」
「了解!」
誰もが、自分の仕事を続けている。
その中に一人の男がいた。
作業着を着てヘルメットを被り高所作業時には安全帯…そして溶接面。
「……。」
火花が散る。
バチバチバチバチッ!!
その男は黙々と作業を続けていた。
神帝ヤザキ・タカヤ。
ノアの最高幹部であり太陽系の神帝の一人。
しかし今一人の作業員として、護衛艦の修理をしていた。
「神帝様!」
近くの作業員が声をかける。
タカヤが振り返る。
「次、横のエリア頼みますね!」
「わかった!」
タカヤは笑う。
「任せろ!」
再び溶接面を下ろす。
バチバチバチバチッ!!
火花が飛び散る。
近くでは別の作業員が装甲板を運んでいる。
「そこ置いて!」
「了解!」
「ボルト持ってきて!」
「はい!」
神帝だからと言って誰も特別扱いなどしない…
ドックにいる限り神帝も一作業員、タカヤは手を止めない。
今回の戦争。神帝達の出撃はほとんどない。
モックは木星でイッカクを討った。
アイズとメインは炊き出しをしている。
そして自分も戦場へ出ない今、できることを選んだ。
タカヤは修理中の護衛艦を見上げる。
「……。」
傷だらけの艦体。それでもまだ動ける。まだ戦える。
まだノアを守れる。
「…ふぅ…頑張ってくれよ。」
タカヤが呟く。
「また頼むからな。」
その時艦内放送が響いた。
『戦闘継続中。サターン艦隊、敵艦隊と交戦開始。』
作業員達が一瞬だけ手を止める。タカヤも顔を上げる。
遠くノアの巨大な船体が僅かに震えている。
「ジュウさんが来たのか…」
外ではまだ戦争が続いている、それを再確認し作業員達は工具を握り直す。
タカヤも溶接機を構える。
「ほら。」
一人の整備兵が笑う。
「神帝様手止まってますよ。」
「おっと。」
タカヤも笑った。
「続きやろう。」
「はい!」
再び火花が散る。
バチバチバチバチッ!!
その音は戦場の砲撃とは違う。
― 太陽系 艦隊戦闘宙域 ―
ドォォォォォン!!
サターン艦隊の前方で敵艦が爆発する。
「敵艦撃破!」
「続けて第二艦隊へ攻撃!」
「了解!」
三十隻であるが一歩も引かず圧倒的な数の敵を相手に戦っている。
その後方には宇宙空母ノア。
巨大な方舟がいる。
さらにその周囲では、ノア航空隊が飛び交う。
艦橋ではヒメナが戦況を見つめていた。
「サターン艦隊、ようやってくれてるな。」
オダイが頷く。
「はい。」
「護衛艦の修理状況は?」
「現在、整備班が全力で作業中です。」
「……そうか。」
ヒメナはモニターを見る。
「まだ終わらへんな。」
「はい。」
ヒメナは静かに笑う。
「耐久戦は得意や…こっちもまだ終わらせる気はない。」
(続)




