小魚の群れ
― 小魚の群れ ―
― 太陽系・木星圏 艦隊戦闘宙域 ―
「さぁ、温存終了……」
宇宙空母ノア・艦橋。
キドウ・ヒメナは、正面の大型モニターを見つめていた。
そこに映し出されているのは、三日間にわたってノアと戦い続ける神格再編機関の大艦隊。
無数の艦艇、無数の戦闘機、無数の砲火。
三日間、一度も止まることなく続いた戦闘。
だがノアはまだ健在だった。
「主砲部隊。」
ヒメナが静かに命じる。
「全砲門、攻撃開始。」
「了解!!」
その瞬間ノアの巨大な艦体が震えた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
巨大な主砲が一斉に光を帯びていく。
「第一主砲部隊、照準固定!」
「第二主砲部隊、照準固定!」
「第三主砲部隊、照準固定!」
「発射準備完了!」
ヒメナは一瞬だけ敵艦隊を見る。
「……撃て。」
次の瞬間、暗い宇宙が白く染まった。
ドォォォォォォォォォォン!!
ノアの主砲から放たれた巨大なエネルギーが、一直線に敵艦隊へ突き進む。
その直線上にいた艦艇が消えた。
一隻、十隻、二十隻…まださらにその後方。
巨大な爆発が連鎖する。
ドゴォォォォン!!ズドォォォォン!!
敵戦艦が次々と爆発していく。
一撃。それだけだった。
ノアの主砲による一斉射撃。
その威力は、三日間の戦闘で積み上げられた敵艦隊の一角を一瞬で吹き飛ばした。
「敵艦隊、大規模損害!」
「現在確認できるだけで数十隻が撃沈!」
「さらに後方の艦艇にも被害!」
艦橋に報告が飛び交う。
しかしヒメナは表情を変えなかった。
「次弾装填。」
「了解!」
ノアの主砲が再び動き始める。
「第二射、照準!」
「照準完了!」
「撃て!」
再び敵艦が吹き飛んでいく。
有人艦なのか。無人艦なのか。
それを確認している時間など、今の戦場には存在しなかった。敵は太陽系へ侵攻している。
ならば撃つ。それだけだった。
「敵艦隊、後退しません!全艦前進しています!」
「そっか…」
ヒメナが答える。
「敵艦を撃ち続ける。」
「了解!」
― 神格再編機関・艦隊戦闘宙域 ―
「何だ……あの砲撃は……!」
敵艦の艦橋に怒号が飛び交う。
「前方艦隊、壊滅!」
「主砲の射線から退避しろ!」
「間に合いません!」
次の瞬間。
ズドォォォォォン!!
また一隻。
その隣でも爆発が起こる。
そしてさらに
「敵戦闘機接近!」
「迎撃しろ!」
敵戦闘機とノア航空隊が交錯する。
ノア側も無傷ではない。
一機が撃墜されるがパイロットは機体を捨て間一髪宇宙に飛び出す。
別の機体も損傷。
「第五班、帰還!」
「第八班、発艦準備!」
「第一班、再出撃可能!」
戦闘は止まらない。
休める部隊は休む、修理できる機体は修理する、弾薬を補給する。
そしてまた戦場へ戻る。
九班三交代制。
それは三日間の戦闘によって、すでにノアの戦い方として完全に機能していた。
護衛艦隊も同じだった。
六隻の有人宇宙護衛艦がノアの周囲を守りながら、敵艦隊へ砲撃を続ける。
無人護衛艦はいまだ修理中。それでもノアは戦える。
― 宇宙空母ノア・コロニー区画 ―
戦闘が始まってから三日。
コロニーの住民達は、いまだシェルターの中で生活を続けていた。
ノアのシェルターは、単なる地下の避難所ではない。
地区ごとに分かれた巨大な生活区画。
そこには食堂があり、診療所があり、学校があり、仕事まで用意されている。
「次の授業は十時からです!」
「分かりました!」
子供達が教室へ向かう。
大人達はそれぞれの仕事へ向かう。
食事を作る者、物資を管理する者、医療に携わる者、通信を維持する者…やる事は沢山ある。
戦闘とは直接関係のない人々もそれぞれの場所で、ノアを支えていた。
外では戦争、中では生活。
それが宇宙空母ノアの日常だった。
― ノア・滑走路後方 臨時食堂 ―
「はい、次!」
「ありがとうございます!」
簡易的に設営された仮設食堂。
そこでは大量の食事が作られていた。
長時間の戦闘で疲れ切った兵士達に向けた炊き出し。
そして―その調理場に立っているのは意外な人物だった。
「お待たせ。」
神帝アイズ。
その隣には神帝メイン。
二人が鍋を囲み、兵士達へ食事を配っている。
「……え?」
一人の兵士が固まる。
「神帝様達がなぜ!?」
アイズは料理をよそいながら答えた。
「待機してる俺たちができるのは、これぐらいだ。」
「しかし……!」
「いいから食え。」
アイズは兵士へ器を渡す。
「ここは俺とメインだけど他にも人員が必要ならすぐ言ってくれ。」
「は、はい!」
兵士は思わず背筋を伸ばす。
「ありがとうございます!」
「おう。」
兵士達が一斉に敬礼する。
アイズとメインも、それに敬礼を返した。
「休める時に休め。」
メインが静かに言う。
「まだ戦いは続くから。」
「はい!」
兵士達は食事を手にそれぞれの持ち場へ戻っていく。
アイズはその背中を見送る。
「……三日ね…」
「うん。」
メインが答える。
「まだまだ続きそうだね…」
アイズは遠くの宇宙を見る。
「それでも、みんな戦ってる。」
「出番が来るまで…私達も頑張らないとね。」
二人は再び炊き出しへ戻った。
― 神格再編機関大艦隊・旗艦 ―
暗い艦橋。
そこには無数のモニターが並んでいる。
映し出されるのは次々と撃沈されていく味方艦艇。
「第三艦隊、壊滅!」
「第七艦隊、前進します!」
「敵主砲による攻撃、継続!」
「被害が拡大しています!」
艦橋が騒然となる中ただ一人。
玉座に座り、戦場を眺めている男がいた。
将神サーディン。
彼はモニターに映る味方艦を見ながら、薄く笑っていた。
「……。」
隣に立つ士官が恐る恐る尋ねる。
「将神サーディン……このままでは我々の艦隊が……。」
サーディンは振り返る。
「なぁ。」
「……はい。」
「“スイミー”という話を知っているか?」
士官は一瞬戸惑った。
「はい……少しは。」
サーディンは再びモニターを見る。
そこにはノアの主砲によって吹き飛ばされる巨大戦艦。
「私はあの話が好きなんだ…我々は弱い小魚だ。」
「……。」
「一人じゃあんな巨大な物に勝てやしない。」
サーディンは笑う。
「ならば……」
モニターに映るノアを指差す。
「数で大きく見せる。それが勝利への近道だ。」
士官は黙ってモニターを見る。
「ですが……これほどの犠牲が出ています。」
サーディンは答えない。
ただ、大破していく味方艦を見つめている。
一隻また一隻。巨大な爆発。
「構わん。」
サーディンが呟く。
「あの犠牲も……」
口元が歪む。
「勝利への通過点だ。」
「…………。」
サーディンは玉座から立ち上がる。
その目には狂気にも似た執念が宿っていた。
「小魚は群れれば」
ノアの姿をモニターに映す。
「巨大な魚にだって食らいつける。」
「……。」
「さあ。」
サーディンは笑った。
「まだまだ行け。」
「我々には…」
艦隊がさらに前進する。
「数がある。」
その瞬間。
ノアの主砲が再び光り宇宙が白く染まった。
三日間続いた艦隊戦。
それはようやく第二段階へ入ろうとしていた。
ノアの圧倒的な火力。神格再編機関の圧倒的な物量。
一方は一隻の巨大な方舟。
もう一方は無数の小魚の群れ。
戦闘宙域はさらに激しさを増していく。
(続)
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公開情報
・将神サーディン 男性 年齢不詳
神格再編機関最大の大艦隊総督




