艦隊戦開幕
― 艦隊戦開幕 ー
― 太陽系・木星圏
木星宇宙ドック基地・旧ドック地区
「報告!敵艦隊、三隻……距離を維持しています。」
「速度は?」
「こちらとほぼ同速です。」
宇宙空母ノアの艦橋の大型モニターには木星圏を離脱していく三隻の神格再編機関艦艇が映し出されていた。
ノアは一定の距離を保ちながら、その後方を静かに追尾している。
「なんか妙やな……。」
統合司令キドウ・ヒメナが呟く。
「逃げるにしては遅すぎる。」
オダイ艦長が頷く。
「こちらを誘導している可能性があります。この先何かありますね。このまま行けば袋の鼠…かと…」
「……臨むところや…」
その直後だった。
「統合司令!」
管制官の声が響く。
「前方宙域に大量の艦艇を確認!」
艦橋の空気が変わった。
「数は!?」
「不明!現在解析中!数が多すぎます!」
モニターが切り替わる。
遠方の漆黒の宇宙に無数の光が現れ始めていた。
一つ。十。百。そしてさらにその奥。
「…わぁ…何や、これ。」
ヒメナの表情が変わる。
モニターいっぱいに広がる宇宙艦艇。
巨大戦艦、巡洋艦、駆逐艦、輸送艦などなど…
無数の艦艇が隊列を組み、こちらへ向きを変えていく。
「敵艦隊、進路変更!
全艦、こちらへ向かってきます!」
「そんな事見れば分かるよ…
三隻は囮だったのか?」
オダイが呟く。
ヒメナは立ち上がった。
「総員、戦闘配置。神帝、大神官は指示あるまで待機。」
その声が艦橋へ響き渡る。
「――総員戦闘配置!!」
「了解!!」
警報が鳴り響き赤い警告灯が艦橋を照らす。
ノアの巨大な艦体が、ゆっくりと戦闘態勢へ移行していく。
コロニー内も戦闘体制に移行し非戦闘員達はシェルターに移動する。
そして……
「敵艦隊、さらに接近!」
「数、まだ確認できません!」
「…えぇ…どんだけおるんや。」
誰も答えなかった。
それほどの大艦隊だった。
― 宇宙空母ノア・飛行甲板 ―
「ノア航空隊、発艦準備!」
「了解!」
巨大な滑走路。
その上に宇宙対応型戦闘機が並ぶ。
数は三十機。
さらにその後方にも、出撃を待つ戦闘機が並んでいる。
「第一班、発艦!」
ゴォォォォォォン!!
一機また一機。
戦闘機が次々と滑走路を駆け抜け、宇宙へ飛び出していく。
「第二班、発艦!」
続いて三十機。
「第三班、発艦!」
さらに三十機。
合計九十機。
三班の戦闘機部隊が宇宙へ飛び出していく。
しかし残りの六班は発艦しない。
滑走路上で待機している。
連続戦闘によるパイロットの疲労。
機体の損耗、弾薬、燃料。
すべてを考慮したうえでの判断だった。
ノア空軍は九班体制。
三班ずつを一組として交代させる。
戦場に投入する部隊を休ませながら三交代で戦闘を継続する。
長期戦を想定した戦闘態勢だった。
― ノア、宇宙艦艇格納区画 通称"ノア港"―
「護衛艦、展開!」
格納されていた有人宇宙護衛艦が次々と発進する。
数六隻。それぞれがノアの左右、上下、後方へ展開していく。
巨大なノアを中心に、六隻の護衛艦が防衛陣形を形成する。
「無人護衛艦は使えへんの?」
「ダメです!まだ修理中です!」
「デネブ戦の損傷が残っています!」
「…そっか…分かった。」
副司令チョウカ・ナツキは前方を見る。
「今は有人艦だけでやるしかないのか…」
六隻の護衛艦はノアを囲み防御をしながらの戦闘態勢に移行する。
― 宇宙空母ノア・滑走路 ―
「ミサイル迎撃車両、配置完了!」
「防空車両、各区画へ展開!」
「防衛線準備完了!」
約百両の車両が滑走路周辺へ展開する。
ミサイル迎撃車両。
対空砲車両。
通信車両。
指揮車両。
それぞれが即席の防衛線を形成していく。
その中央。
臨時前線司令室が設置されていた。
その中に一人の男が立っている。
戦争司令アーサー・マッカーサー。
「各部隊の配置を確認。」
「はい!」
「敵航空戦力がノアへ接近した場合には防衛線が迎撃します!」
「了解!」
「ミサイル警戒は常時維持。滑走路を絶対に空けるな。」
「了解しました!」
マッカーサーは双眼鏡を持ち敵大艦隊を見る。
目視で宇宙を埋め尽くす敵艦隊を確認する。
「…ハハハ!…大軍だな!」
その声に動揺はなかった。
「だからこそ…」
マッカーサーは通信機を握る。
「こちらも全力で守る。ノアに傷一つ付けるな!」
― 戦闘宙域 ー
そして両軍が接触した。
「敵艦隊、射程圏内!」
「ミサイル接近!」
「護衛艦による迎撃!」
無数のミサイルが宇宙を埋め尽くす。
ヒュン―ヒュン―ヒュン―
その数はもはや数えることすらできない。
「迎撃を続けろ!」
ノアの六隻の護衛艦が一斉に砲撃する。
ドドドドドドッ!!
ミサイルが次々と撃ち落とされる。
だが――
「第二波!」
「数、さらに増加!」
「迎撃を継続!」
宇宙空間に無数の光が咲く。
その奥から敵戦闘機が飛び出してくる。
「敵戦闘機接近!」
「空軍、迎撃!」
九十機の戦闘機が一斉に散開する。
「行くぞ!!」
「敵機を落とせ!」
「ノアを守れ!!」
戦闘機同士が交錯する。
レーザー砲が飛び交う。
ミサイルが宇宙を駆ける。
一機が爆発、その横を別の機体が通過する。
さらにその後ろから敵機が迫る。
「後ろだ!」
「分かってる!」
旋回。回避。反撃。撃墜。
そしてさらに敵機。
終わりがない。
敵艦隊の数は、いまだに把握できていなかった。
「敵艦、数が多すぎます!」
「現在確認できているだけで……」
管制官が言葉を詰まらせる。
「……まだまだ増えています!こちらも応援を要請します!」
― 宇宙空母ノア・艦橋 ―
「第一主砲部隊!」
ヒメナが叫ぶ。
「砲撃準備!」
「了解!」
「第二主砲部隊も準備!」
「了解!」
「第三主砲部隊!」
ヒメナがモニターを睨む。
「いつでも撃てるようにしとき!」
「了解!!」
「主砲はまだ温存…今出し切るのはあかん…」
ヒメナは呟き副司令シャルル・レンはそれに賛同する。
「統合司令…その考えは素晴らしいと思います。主砲無しで行けるところまで行きましょう。」
ノアの巨大な艦体が震える。
艦首。
左右。
そして中央。
巨大な主砲がゆっくりと敵艦隊へ向けられていく。
しかしまだ撃たない。敵艦隊は多すぎる。
一斉射撃をすれば、その瞬間から戦場そのものが変わる。
ヒメナは敵を見つめていた。
「……質より量か。」
チョウカが呟く。
「こちらが一隻落とす間に、向こうは十隻出してくる。」
「そういう戦い方やな。」
ヒメナが答える。
「なら!」
拳を握る。
「全部沈める!」
戦闘は終わらなかった。
昼も夜もない宇宙空間で、ただ砲火だけが続いた。
ノアの戦闘機部隊は交代する。
第一班が戻れば、第四班が出撃する。
第二班が戻れば、第五班が出る。
第三班が戻れば、第六班が出る。
そして休息を終えた第一班が再び戦場へ戻る。
九班による三交代。戦争を止めないための循環。
一日目。
ノアは戦線を維持した。
二日目。
敵艦隊はさらに増えた。
「敵艦隊、いまだ増加しています!」
「……。」
艦橋に沈黙が広がる。
三日目。
誰もが疲労を隠せなくなっていた。
それでも戦闘は続いていた。
ドォォォォォン!!
ノアの右舷付近で敵艦が爆発する。
「右舷護衛艦、敵艦を撃破!」
「別の敵艦、接近!」
「迎撃!」
「戦闘機隊、第五班へ交代!」
「了解!」
「ミサイル接近!」
「迎撃車両、発射!」
ノアの滑走路からも迎撃ミサイルが飛び立つ。
あらゆる場所で戦闘が続いていた。
三日間。
一瞬たりとも完全に静かになることはなかった。
ノアも神格再編機関も互いに一歩も引かない。
そして三日目の夜。
存在しないはずの「夜」が、人工太陽の照明を落としたノアの内部に訪れていた。
艦橋には疲労した兵士達が立っている。
だが皆燃えている。
その眼でモニターの向こうに広がる敵艦隊を見つめている。
ヒメナは静かに口を開いた。
「三日か……。」
オダイが答える。
「はい。まだ終わらへんな。」
「……はい。」
大型モニター。
そこには――
未だに無数の敵艦が存在していた。
その数は、まだ分からない。
三日間戦い続けても。
敵の全容すら見えない。
ヒメナはゆっくりと息を吐く。
「第一、第二、第三主砲部隊。」
「はい。」
「そろそろ撃とうか…」
「了解。」
ノアの主砲が、再び動き始める。
ゴゴゴゴゴゴ……。
巨大な砲身が敵艦隊へ向く。
その向こうでは無数の敵艦が砲撃を続けている。
三日間続いた戦闘はまだ終わりを見せていなかった。
戦闘宙域は無数の爆発によって赤く染まっている。
そしてその中心で宇宙空母ノアはまだ前を向いていた。
一歩も退かない。
太陽系人類の命を背負いノアは戦い続けていた。
「さぁ、温存終了…主砲部隊…攻撃開始!」
(続)




