兄妹決着
― 兄妹決着 ―
― 太陽系・木星圏 木星宇宙ドック基地・旧ドック廃基地 ―
ドォォォォォン!!
神格と造神が激突し衝撃波が旧ドックを駆け抜ける。
崩壊した格納庫の壁が吹き飛び、無数の鉄骨が宙へ舞う。
その中心で神帝モク・モックと将神イッカク。
かつて兄と妹だった二人が、互いの命を奪うために刃を交えていた。
「はぁぁぁっ!!」
モックが踏み込み刀が閃いた。
キィィィン!!
イッカクは長大な槍で受け止める。
火花が散った。
「……!」
イッカクが槍を押し込む。
「甘い!!」
槍が唸りを上げる。
モックは身を翻した。槍先が頬を掠める。
そのまま空中で身体を回転させ、イッカクの背後へ回り込む。
「そこっ!!」
斬撃。イッカクは振り返りざまに槍の柄で受けた。
ガキィィィン!!
再び二人の武器がぶつかる。
互いに一歩も引かない。
「……なるほど。」
イッカクが低く笑った。
「……さらに腕を上げたか!神帝!」
「当然でしょう。」
モックは刀を構え直す。
「私はずっと戦ってきたんだから。」
イッカクが槍を大きく振りかぶる。
「ならば俺も将神として応えてやる!!」
ズドォォォン!!
巨大な槍撃が放たれた。モックは真正面から受けず、紙一重でかわす。
その瞬間槍が軌道を変えた。
「――!」
横薙ぎ。
モックは刀で受ける。
ギィィィン!!押し飛ばされるがモックは空中で姿勢を立て直した。
「……!」
そのまま反転し一気に距離を詰める。
イッカクの目が見開かれる。
「はっ!速い……!」
刀が走った。
一閃、二閃、三閃。
イッカクは槍を巧みに操り、すべてを防ぐ。
しかし少しずつ。ほんの僅かずつ。
イッカクの身体が後退していく。
「……くっ!」
モックは止まらない。
さらに踏み込み刀と槍が何度も激突する。
そのたびに旧ドックの残骸が砕け散っていく。
互角に見えた戦いだが次第に、その均衡は崩れ始めていた。
明らかにモックが押している。
「……将神イッカク」
モックが呟く。
「どうしたの?さっきまでの威勢は?」
イッカクの表情が険しくなる。
「……舐めるな!!」
造神エネルギーが爆発する。
ズドォォォォォン!!
凄まじい力が木星圏へ広がった。
ゼノスとジュウが思わず目を細める。
「……!」
イッカクが突進し長大な槍が一直線にモックへ向かう。
「死ねぇぇぇっ!!」
槍先が迫るがモックは動かない。
僅かに身体を横へずらすと槍が空を切る。
「なっ……!」
モックの刀がイッカクの肩を掠める。
ザシュッ!!
血が飛ぶ。
「ぐっ……!」
イッカクが距離を取りモックは追う。
一歩また一歩と逃げ場を与えない。
「なぜだ……!」
イッカクが叫ぶ。
「俺の槍が……なぜ当たらない!!」
モックは答えない。
ただ相手の動きを見ていた。
槍の軌道、肩の動き、足の運び、呼吸。
すべてを読む。
そして…
「遅いわ…」
モックが静かに言う。
「遅すぎるのよ…」
「……!」
「これが幼少期から稽古をサボっていた者とそうでない者の違いよ…」
イッカクの目が見開かれた。
その瞬間モックが踏み込む。
「終わりよ。」
「まだだぁぁぁ!!」
イッカクが槍を振り下ろす。
モックは刀を構え受けない。
槍をかわすと槍先が地面を穿つ。
その瞬間モックの刀がイッカクの胸元へ迫る。
「ぐっ……!」
イッカクは槍を引き戻すが遅い。
モックの蹴りが腹部に入る。
ドンッ!!
「がはっ!!」
イッカクの身体が吹き飛び数百メートル先の廃施設へ激突した。
「……」
ゼノスは黙って見守る。
モックは止まらない。神格をまといながらゆっくりと歩いていく。
その戦いを宇宙空母ノアの艦橋では誰も言葉を発さず見守っていた。大型モニターに映し出される木星圏。
その中心で戦うモック。
幹部も神帝達も。
誰一人として口を挟まなかった。
「……。」
神帝ヤザキ・タカヤはモニターを見つめる。
そこにいるのは自分の仲間であるモックとかつて家族だった男。
統合司令キドウ・ヒメナが静かに口を開く。
「……これはもう決まりやな。」
チョウカが頷く。
「はい。圧倒的です。私達が口を出す必要はない。」
戦場がすべてを語っていた。
旧ドック。
瓦礫の中からイッカクが立ち上がる。
口元から血が流れている。
「……俺は将神…将神イッカク様だ!」
槍を握る。
「……まだ終わっていない!!」
イッカクが最後の力を振り絞る。
造神エネルギーが爆発する。
「これで――!!」
槍を構え一直線にモックへ向かって突進する。
「死ねぇぇぇぇぇっ!!」
だがモックは静かに立っていた。
目を閉じてゆっくりと開く。
「やっぱり遅い。」
一歩。身体を沈めると槍先が頭上を通過する。
そのままモックは槍の柄を掴んだ。
「なっ……!」
「この槍…」
モックが呟く。
「この槍で殺してあげるわ…」
「……!」
モックは槍を奪い取る。
「さよなら。お兄様。」
「やめっ!」
ドスッ!!槍がイッカクの腹部を貫いた。
「――ッ!!」
槍先が背中から突き抜け血が宙へ散った。
イッカクの身体が止まる。
「……あ……。」
槍に貫かれたまま、ゆっくりとモックを見る。
「モ……ック……。」
「……。」
モックは無言だった。
イッカクが震えながら何かを言おうとしている。
「俺は……本当は……」
声が途切れる。
モックは黙って聞いていた。
「……お前に……」
その言葉を最後まで聞くことなくモックは刀を抜いた。
「……。」
一閃。
ザンッ!!イッカクの首が宙を舞った。
身体から力が抜ける。
長大な槍だけが、戦場に残された。
モックは倒れた身体を見下ろす。
そして「あら?」
静かな声だった。
「あら、お兄様?」
誰もがモックを見る。
モックは血のついた刀の切っ先を軽く振るった。
赤い雫が宙へ散る。
「何か言ってましたか?」
モク・ゼルヴァインという男は、二度と答えることはなかった。
モックは刀を天高く掲げる。
「我々の勝利です…」
その声が旧ドック全体に響く。
直後「うおおおおおおおおおお!!」
歓声が上がった。
木星の防衛部隊、宇宙ドックの作業員、
そして戦場を見守っていた兵士達からも。
大歓声が木星圏を包み込む。
ゼノスは何も言わなかった。
ただ息子が倒れた場所を見つめていた。
ジュウも静かに目を閉じる。
そしてノア艦橋。
タカヤはモニターに映るモックを見つめていた。
ヒメナが静かに言う。
「……圧倒的や」
チョウカが頷く。
「はい。」
巨大な木星宇宙ドック。
その周囲を覆っていた神格再編機関の艦隊は、すでに次々と撤退を開始していた。
指揮官を失った敵艦隊に、もはや戦う力は残されていない。
「敵艦隊、後退していきます!」
管制官が叫ぶ。
「追撃は?」
オダイが問う。
ヒメナは一瞬だけモニターを見る。
そこには血に染まった刀を下ろすモックの姿があった。
「……勿論するよ。モックの回収急いで!」
「了解。」
ヒメナが静かに息を吐く。
宇宙空母ノアがゆっくりと敵艦隊へ進路を向ける。
崩壊した旧ドックそこに残された一本の槍。
そして木星王家の長男、モク・ゼルヴァインの亡骸。
かつて家族だった男を自らの手で討った神帝モク・モックはただ静かに立っていた。
その瞳に涙も迷いもない。
こうして木星宇宙ドック攻防戦は幕を閉じた。
しかし太陽系各地で繰り広げられる戦いは、
神格再編機関との戦争は、ここからさらに激しさを増していく。
(続)




