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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十九章 太陽系侵攻

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木星へ


― 木星へ ―


― 数時間前……宇宙空母ノア・艦橋 ―


日本近郊の空域を一隻の巨大艦が航行していた。

宇宙空母ノア。


その艦橋。

いつもなら落ち着いている管制室が、その日は異様な緊張に包まれていた。


突然警報音がなる。


「緊急通信、入ります!」


管制官の声が響く。


「発信元は?」


「木星圏です!」


大型モニターに緊急情報が表示される。


――――――――――――――


【緊急事態】


木星宇宙ドック基地・襲撃


神格再編機関による攻撃を確認。


木星圏、戦闘状態へ移行。


――――――――――――――


その文字を見た瞬間、艦橋の空気が変わった。


「……木星宇宙ドックが?」


副司令シャルル・レンが呟く。

ノアの主要幹部たちも一斉にモニターを見る。


そしてその中でも、最も強く反応した者がいた。


神帝モク・モック。

モックは画面を見つめたまま、動かなかった。


数秒後。


「……木星宇宙ドック基地が襲撃……。」


声が僅かに震える。


「誰が対応してるの?」


管制官が情報を確認する。


「現在確認できているのは……」


モニターに戦況が表示される。


「木星王モク・ゼノス様。」


モックの目が僅かに動く。


「そして神帝サターン・ジュウ様です。」


「……。」


「お二方が現地に到着しています。」


「始まってるの?」


「現在は睨み合いの状態です。」


管制官が続ける。


「ですが…そろそろ戦闘が始まる可能性が高いかと。」


モックはモニターへ歩み寄った。


映し出された木星とその周囲を覆う無数の艦艇。


木星艦隊、サターン艦隊。

そして、その向こう側に展開する神格再編機関の部隊。


モックは息を呑んだ。


「……お父様……。」


小さな声だった。


誰にも聞こえないほどの。


だがその声には、娘としての不安が滲んでいた。


「ちくしょ……。」


シャルルが拳を握る。


「範囲が広すぎる……。」


誰も答えない。


シャルルはモニターを見ながら続けた。


「日本。木星。聖地….他の宙域でも戦闘が起きている。太陽系全体で同時多発的に……。」


その言葉が艦橋に重く落ちる。


統合司令キドウ・ヒメナ。

彼女は腕を組み、モニターを見つめていた。


いつもの穏やかな表情は消えている。


「……やな。」


ヒメナが静かに言う。


「しかも……聖地にまで来た。

神格再編機関は、本気で太陽系をひっくり返すつもりや。」


誰もが黙っている。


ヒメナは各地の戦況を確認する。


そして決断した。


「優先順位は聖地の防衛…やな。」


モックの表情が固まる。


ヒメナはモックを見る。


「……モック。」


「……はい。」


「悪いな。聖地の次は木星や…」


その言葉にモックは一瞬だけ目を伏せた。


木星…自分が生まれ育った場所。


そして父、木星王モク・ゼノスが戦っている場所。

本当なら今すぐ飛んでいきたい。

娘として…神帝として…木星の民を守る者として。


しかしノアの統合司令として、ヒメナの判断も理解できる。


聖地が落ちれば太陽系の精神的支柱そのものが崩れる。


モックはしばらく黙っていた。


やがて小さく息を吐く。


「…ヒメナさん…わかっていますよ。」


そして顔を上げる。


「私は大丈夫。」


ヒメナを見る。


「仕事をするだけです。」


ヒメナは何も言わなかった。


ただモックの目を見つめる。

その目の奥にあるものを理解していた。


その時だった。


『――こちらジャスティス。』


艦橋に通信が入る。


全員が振り返る。


大型スクリーンに、宇宙警察連合旗艦

ジャスティスの艦橋が映し出された。


通信席にいるのは宙警連大神官カガミ・ココミ。


『宇宙空母ノア…こちらジャスティス…聞こえますか?』


ヒメナが通信席へ向かう。


「こちらノア。あぁ、聞こえるよ。」


ココミの表情は落ち着いていた。


だがその背後には激しい戦闘の痕跡が残っていた。


『聖地の戦闘は終結。』


艦橋に沈黙が落ちる。


『海神ポセイドン様が将神キハダの討伐に成功しました。聖地は無傷です。』


ヒメナは目を閉じ、短く息を吐いた。


「……了解した。」


大きな安堵。


だがそれは一瞬だった。


ココミが続ける。


『故にこちらへの応援は不要。』


「……。」


『ノアには木星へ向かって欲しい。木星宇宙ドック基地が危険な状態にある。』


ココミの声が低くなる。


モックの目が動く。


『木星王と神帝ジュウが戦場にいる。』


『そして、相手は将神。ノアの戦力が必要よ。…木星宇宙ドック基地の死守を…』


通信が一瞬途切れる。


『頼めますか?』


ヒメナは即答した。


「あぁ。」


椅子から立ち上がる。


「当たり前や。元々そのつもりやったし…」


その目に、統合司令としての覚悟が宿る。


「今すぐ向かう。」


― 宇宙空母ノア・艦橋 ―


「全艦、戦闘航行準備!」


ヒメナの声が響く。


「目的地木星!」


「了解!」


艦橋の各部署が一斉に動き始める。


「航路設定!木星圏までのワープ航路、算出!」


「主機関出力上昇!全艦、ワープ航行準備!」


巨大なノアの内部。


街が動く。


港湾施設が閉鎖される。


格納庫では戦闘機が固定される。


砲塔が戦闘状態へ移行し乗員たちが配置につく。


五万人が暮らす巨大な方舟が戦争のための巨大兵器へと変わっていく。


モックは艦橋からその光景を見ていた。


そして小さく呟く。


「……お父様。」


拳を握る。


「今から向かいます…」


⸻


「ワープ航路、確定!」


「異常なし!ワープ準備完了!」


ヒメナが前方を見据える。


「……行くで。ワープ開始!」


次の瞬間宇宙空母ノアの船体が光に包まれた。


― 三十分後


空間が歪む。


木星宙域。漆黒の宇宙に一条の光が走った。


次の瞬間宇宙空母ノアが木星圏へ姿を現した。


「ワープアウト!木星宙域、到達!」


「前方――!」


管制官の声が止まる。

艦橋全員が正面モニターを見る。


そこに巨大な木星が浮かんでいた。


そしてその周囲を埋め尽くす無数の艦艇。


木星艦隊。サターン艦隊。神格再編機関。


さらに――


その中心の木星宇宙ドック基地。

巨大な造船施設から無数の爆発が上がっている。


「……。」


誰も言葉を発しなかった。


モックはゆっくりと前へ出る。


「旧ドック……。」


モニターを拡大する。


崩壊した巨大施設のその中央で三人の姿を確認する。

戦闘はすでに始まっていた。


モックの表情が変わる。


「……お父様。」


木星王モク・ゼノスとその隣に神帝サターン・ジュウ。そして二人と激突している存在。


「将神……イッカク。」


モックは戦場を見つめる。


平和主義の父が戦っている。自分が生まれた木星を守るために。その事実が胸を締め付ける。


しかしモックは目を逸らさなかった。


ゆっくりと拳を握る。


「……。」


もう迷いはなかった。

神帝として、木星の娘として、モックは前を向く。


「オダイ艦長。」


「何だ?」


「もう少し木星宇宙ドック基地の近くへ…」


声は震えていない。


「私も出ます。」


その言葉を聞いたヒメナは静かに頷いた。


「……了解や。」


「モック…俺達も…」


タカヤが前に出る。


「いや、大丈夫!木星は私の故郷よ…かっこつけたい…バックアップ頼むね!」


「わかった。派手にやってきな…」


モックは伸びをする。


ノアの巨大な船体が再び動き始める。


木星へ。燃え上がる戦場へ。


そしてその先には。父と娘、王と神帝、将神…それぞれの覚悟が待っていた。


宇宙空母ノアは、ついに木星宇宙ドック基地攻防戦へ参戦する。


「じゃ、行くね…」


神帝モックは艦橋を飛び出した。


「タカヤ!アイズ!メイン!」


艦橋にキドウ・ヒメナの声が響き渡る。


「どうしたん?そんな大きい声出して…」


「しっかり見ときや…これが皇女の覚悟や…」


「あぁ…わかっとるよ…」


三人は祈るように艦窓から旧ドックを見つめる。


(続)





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