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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十九章 太陽系侵攻

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聖地侵攻


― 聖地侵攻―


― 太陽系・地球圏 旧ヨーロッパ地域

 聖地ネオ・エリュシオン


空は、静かだった。かつてヨーロッパと呼ばれた地域は多宙域連鎖大戦によって国家も都市も文明も崩壊。


長い年月をかけて再建されたこの地域には、かつてのヨーロッパを思わせる建造物はほとんど残っていない。


その跡地に築かれた新たな聖域。

ネオ・エリュシオン。


古代から続く聖地ではない。

戦争によって失われた大地に、人々が新たに築いた祈りの場所。


そしてその中心には、巨大な神殿が建っていた。


白亜の石柱。巨大な階段。


天を突くように伸びる尖塔。


神殿の最奥には、この太陽系における絶対的な存在が住まう。


ー 絶対神パンドラ ー


普段、聖地へ入ることを許される者は限られている。


だが今その聖地へ向かって一つの艦隊が迫っていた。


「前方、ネオ・エリュシオン!」


「敵艦隊、約百五十!」


「神格再編機関の識別信号を確認!」


巨大な戦闘艦の艦橋のその中央に一人の女が立っている。


長い髪に鋭い瞳、黒を基調とした軍装。


神格再編機関最高幹部将神キハダ。

彼女の背後には、無数の神格再編機関艦艇が並んでいた。


その数は聖地を包囲するには十分すぎるほどだった。


「……あれが聖地ネオ・エリュシオン。」


キハダは正面スクリーンに映る聖地を見つめる。


「実物を見たのは初めてよ…小さな聖地ね。」


副官が答える。


「しかし太陽系の神々や人類にとっては重要拠点です。」


「そんな事分かっている。」


キハダは笑みを浮かべた。


「だからこそ落とすのよ!この私の大艦隊で!」


艦隊の前方には巨大な港がありそこから続く都市区域。さらに奥には、白い神殿が確認できる。


「砲撃準備。」


「了解!」


次々と砲塔が展開され数々の主砲がネオ・エリュシオンへ向けられる。


キハダが静かに命じた。


「……撃て。」


次の瞬間。


ドォォォォォォン!!!!


百隻を超える艦艇から、一斉に砲撃が放たれた。

無数の光が夜空を裂く。大地を揺らすほどの轟音が都市を包み込む。


聖地の港へ向かって、巨大な砲弾とエネルギー兵器が殺到する。


しかしその全てが港へ到達することはなかった。


ズズズズズ……。


空間が揺れネオ・エリュシオンの港を覆うように、巨大な水の壁が出現した。高さ数百メートル。

まるで海そのものが天へ立ち上がったかのようだった。


砲撃が水壁へ衝突する。


ドォン!!…ドォォン!!……ズガァァァン!!


無数の爆発だが水壁は崩れない。

全ての砲撃を飲み込み、消滅させていく。


「……何!?」


キハダが目を見開く。


「砲撃、全弾無力化!防御壁ではありません!」


「では何だ!?」


通信士が震えた声で答える。


「海……です。」


「海?」


その瞬間巨大な水壁が左右へ割れた。

その中央から一人の男が歩いてくる。


手に巨大な三叉槍を持つ巨大な影…

そして背後には海が渦巻いている。


キハダの表情から笑みが消えた。


「……まさか。」


男がゆっくりと顔を上げる。


「ここは聖地だ。」


低い声が響く。


「無礼な砲撃はそこまでにしてもらえないかな?」


ー 海神ポセイドン。


その姿を見た瞬間神格再編機関艦隊に動揺が走った。


「ポセイドン……!」


「海神ポセイドンだ!」


「なぜ奴がここに……!」


ポセイドンは三叉槍を地面へ突き立てる。


ズン……それだけで周囲の海が大きく揺れた。

彼の左右にはさらに二人の人間が立っていた。


一人は女性。月を思わせる白銀の衣。

そしてもう一人は、その弟。

二人とも神帝の紋章を身につけている。


月の神帝姉弟、神帝オール・ムーン、そして神帝オール・サン。


ムーンが前へ出る。


「あら…すごい数…ここから先へは行かせませんよ…」


キハダは艦橋から三人を見つめた。


「……神帝が二人。それに海神。」


キハダは小さく笑い艦首へ出て話し始めた。


「随分と豪華なお出迎えね。」


オール・サンが静かに答える。


「あなた方が来ることは分かっていました。」


「なら話が早い。」


キハダが手を上げる。


「我々は神殿へ向かう。そこにいる絶対神パンドラへ用がある。」


その言葉に空気が変わった。


オール・ムーンの表情から僅かに感情が消える。


「……パンドラ様に?」


「ええ。」


「何のために?」


キハダは答えない。ただ艦隊の砲塔を再び展開させる。


「それをあなた方に教える必要はないでしょう。」


ポセイドンが三叉槍を握る。


「ならば、ここから先へ進めると思わぬことだ。」


その声とともに海面が大きく盛り上がった。


巨大な津波が神格再編機関艦隊を取り囲みキハダの顔から笑みが消える。


「……全艦戦闘態勢。」


艦隊が一斉に動き始めた。


だがその時、オール・ムーンが静かに口を開いた。


「将神キハダ。」


「……何?」


「一つあなた方に伝えておきます。」


ムーンは遠くを見る。


まるで日本で起きた戦いを思い出すように。


「先ほど日本でも大規模な戦闘がありました。知っていますか?」


キハダは眉を動かす。


「もちろん知っているわ。」


「神格再編機関の将神オルカが、関西圏へ侵攻した。」


「あぁ…彼ならきっと上手くやるでしょう…」


ムーンの声が低くなる。


「先程天神菅原道真によって討たれました。」


一瞬キハダの目が見開かれた。


「……オルカが?」


「ええ。」


オール・ムーンは淡々と続ける。


「日本では大きな被害が出ました。一般人も何人も亡くなったと聞きます。」


その瞳がキハダを射抜く。


「ですが将神オルカは道真様との戦闘で一撃も与える事がないままに討たれました…もうこの宇宙にはいません。」


「……。」


キハダはしばらく何も言わなかった。


やがて…


「ふふ……。」


小さく笑う。


「そう。仲間が一人、死んだのね。」


ムーンは答えない。


キハダは聖地ネオ・エリュシオンを見つめる。


「ならば」


キハダの瞳が鋭くなる。


「我々は絶対に勝たなければならない…」


「全艦攻撃開始!」


その瞬間神格再編機関艦隊が一斉に動いた。


ドドドドドドドド!!


無数の砲撃が聖地へ殺到する。


ポセイドンが三叉槍を振り上げる。


「……海よ。」


轟音と共に聖地を取り囲む海が一斉に天へ昇り巨大な水の壁が砲撃を全て受け止める。


オール・サンが拳を握る。


「姉さん。」


「分かってる。」


ムーンが空を見上げる。


「ここは絶対に守る。」


その背後。


遥か高い場所にそびえるネオ・エリュシオン神殿。


その最奥にはパンドラがいる。


そして彼女は。


この戦いを静かに見つめていた。


「……。」


神殿の奥の薄暗い空間の中で絶対神パンドラはゆっくりと目を開く。


遠くから響く砲撃音。力と力が衝突する振動。


それらを感じ取りながら、パンドラは小さく呟いた。


「……とうとう、ここまで来ましたか。」


その声には怒りも恐怖もなかった。


聖地ネオ・エリュシオン。

そこはまだ新しい聖地に過ぎない。


神格再編機関の艦隊は絶対神パンドラの住まう神殿へ向け進軍を開始するがそれは険しい道のり…


神々の戦いは次の段階へ入ろうとしていた。


(続)


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公開情報


・キハダ 神格再編機関 将神 女性

 年齢不明だが見た目は若め。

 オルカのように最前線に出て戦うタイプではない。





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