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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十九章 太陽系侵攻

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天神と神帝


― 天神と神帝 ―


― 太陽系・地球圏  日本・関西地域


轟音が、大地を揺らしていた。

大阪湾から京都盆地に至るまで、空は黒煙に覆われている。


神格再編機関による侵攻はいまだ終わっていなかった。


自衛隊、神軍、そして神格再編機関。三つの勢力が入り乱れ、関西圏は巨大な戦場と化していた。


その中心に立つ二人。


一人は神格再編機関最高幹部将神オルカ。


そしてもう一人は日本古来より人々に畏れられ、敬われてきた神、菅原道真。


二人の戦いは、すでに始まっていた。


「死ねぇぇぇぇ!!」


オルカが咆哮する。


巨大な神格兵器を振り下ろす。


ズガァァァァン!!


大地が砕ける。


しかしそこに道真はいない。


「……!」


オルカが振り返る。いつの間にか数十メートル後方に道真は立っていた。衣服には埃一つ付いていない。


「神はね…死ねなんて下品な言葉使いませんよ…」


「くっ……!」


オルカが腕を振る。


無数のエネルギー弾が空を切り裂く。


ドドドドドドド!!


しかし一発も当たらない。


道真はまるで風に身を委ねるように攻撃を避けていく。


「なぜだ……!」


オルカの額から汗が流れる。


「なぜ当たらん!!」


道真は答えずただ微笑んでいる。


「……。」


その表情が、オルカには何より恐ろしかった。


「ならば、これでどうだ!!」


オルカの全身から神格エネルギーが噴き出す。

周囲の建物が吹き飛び地面が大きく陥没する。

巨大な衝撃波が関西の街を駆け抜ける。


しかし道真はその場から一歩も動かなかった。


バチッ……。


身体の周囲に雷が走る。衝撃波は道真の身体へ届く直前、まるで見えない壁にぶつかったように消滅した。


「……馬鹿な。」


オルカの声が震える。


道真が静かに口を開く。


「ほほほ…将神…でしたか。」


「……!」


「なるほど。」


道真はオルカを見つめる。


「それなりの力はお持ちのようですね。」


一拍。


「ですが所詮は将神。」


空から雷鳴が響いた。


ゴロゴロゴロ……。


オルカの顔が歪む。


「……何だと?」


「本物の神を相手にするには、少々…力不足ですな。」


その瞬間雷光が走った。


バチィィィィッ!!


オルカの身体が吹き飛ぶ。


「ぐあああああ!!」


数十メートル先の建物へ叩きつけられ瓦礫が崩れ落ちる。


だがオルカは立ち上がった。


「まだだ……!」


血を吐きながら武器を構える。


「私は…ダヴィンチ様に選ばれた将神だ!」


道真は静かに見つめる。


「あぁ…そうですか。ダヴィンチも見る目がない…」


「私は神々を滅ぼすために!」


「あぁ…そうですか。」


道真は笑顔のままだった。


「では、もう少し頑張りなさい。」


その言葉が、オルカの心を逆撫でした。


「貴様ぁぁぁぁ!!」


再び突撃する。しかし届かない。


拳も刃も全て空を切る。


道真には、一撃たりとも届かなかった。


その戦いを遠くから見つめる二人の神がいた。


一人は白装束に身を包んだ男"八幡大神"


そしてもう一人。

平安の世より続く陰陽師の頂点"安倍晴明"


二人は戦場へ駆けつけていた。


だが武器を構えることすらしない。ただ静かに戦いを見守っている。


晴明が小さく笑う。


「……出る幕はありませんね。」


八幡大神も頷く。


「うむ。天神様がお怒りになられている。ならば我らが手を出す必要もあるまい。」


二人の視線の先。


そこには圧倒的な力を見せつける道真がいた。


その時だった空が少し暗くなる。


「……?」


晴明が空を見上げ八幡大神も振り返る。

巨大な影が、雲を突き破って降りてくる。


巨大な船体、周囲を囲む無人護衛艦。

その中央に君臨する巨大な宇宙空母。


「……ノアか。」


晴明が呟く。


宇宙空母ノアが、関西上空へ到達した。

艦橋から戦況を確認する。


「地上に神格再編機関部隊!」


「神格再編機関幹部と思われる個体を確認!」


オペレーターが息を呑む。


「そして…菅原道真様を確認!」


艦橋にいたヒメナが目を見開く。


「…大阪が…てか天神様が戦場に…」


タカヤは黙って正面スクリーンを見る。

そこには、燃え上がる大阪の街。


そしてその中央で戦う天神様。


「……。」


タカヤが立ち上がった。


「ちょっと俺、挨拶行ってくる。」


ヒメナが振り返る。


「あぁ…気をつけて…よろしく言っといてくれ…」


「了解…」


タカヤは笑った。


次の瞬間。


タカヤは艦橋横のハッチから飛び出した。


ドンッ!!


超高高度から一人の男が地上へ落下していく。


そしてズドォォォォン!!


大地に着地した。


舞い上がる煙の中ゆっくりと歩き出す…

道真はその姿を見て目を細めた。


「……おや。」


タカヤが笑う。


「天神様。」


一礼。


「お久しぶりです。」


道真も微笑んだ。


「あぁ。意外と早かったやないかい。」


「そりゃ…太陽系の危機ですから…」


タカヤはオルカを見る。


「……あの人が?」


「あぁ。」


道真が頷く。


「神格再編機関の将神オルカ言うらしいぞ。知り合いか?」


「いえ…初めて見ますけど…どんな感じです?」


道真は少し考えた。


そして…


「……弱い。」


「え?」


道真は笑顔のまま言った。


「お前と互角ぐらいやないか?」


「……天神様。」


タカヤの顔が引きつる。


「そんな事ないでしょ!」


「ほほほ…もちろんや。」



二人の会話を聞いていたオルカは、震えていた。


神帝。そして天神。


自分は今最強の人間と最恐の神を相手にしている。


「……撤退だ。」


オルカが呟いた。


「全軍、撤退する!!」


部下が振り返る。


「しかし将神――!」


「早くしろ!!」


オルカは踵を返した。


「この戦力では勝てん!」


神格再編機関の部隊が一斉に後退を始める。


しかし動けない。


「……?」


兵士たちが足を止める。


「どうした!?」


「身体が…動きません!」


「何だこれは!」


オルカも一歩踏み出そうとするが足が動かなかった。

空気そのものが重くなっている。


いや、違う…これは神の威圧。道真が静かに立っているだけで、周囲の空間そのものが支配されていた。


「……あらら…どこ行きはるんかな?」


道真が笑顔で言った。


オルカが振り返る。


「……!」


道真が一歩また一歩とゆっくりと近づいてくる。


その足元から雷が走る。


バチ……バチバチ……


「せっかく私の故郷まで来てくださったのです。

もう少し……ゆっくりしていきはったら?」


道真の笑顔が深くなる。


「ひっ……!」


オルカが後ずさる。しかし動けない。


「く、来るな……!」


道真は止まらない。


そしてオルカの目の前で立ち止まった。


「将神オルカ。」


「……!」


道真の声は静かだった。


「あなたは人々を恐怖に陥れ、神々を殺し、古き秩序を壊すと言った。」


雷鳴が轟き道真は微笑んだ。


「無念でしたね…」


オルカが最後の力を振り絞る。


「私は……まだ……!」


拳を振り上げる。道真は避けないただ右手を軽く上げる。


「もうよろしい。」


バチィィィィィィッ!!


巨大な雷光が落ちた。


一瞬だった…雷はオルカの頭上から一直線に身体を貫きその頭部を完全に破壊した。


「――――。」


オルカの身体が崩れ落ちる。


その場に残ったのは、焦げた大地と煙だけだった。


戦場が静まり返る。


神格再編機関の兵士たちは、誰一人として動けなかった。目の前で最高幹部の一人があまりにも一方的に消滅した。


道真は静かに空を見上げる。


「……これで一人。」


そして隣に立つタカヤを見る。


「さぁ、タカヤ。太陽系が燃えていますよ。早よ行きなさい…」


タカヤは燃え続ける大阪の街を見渡した。


その光景を見つめ、拳を握る。


「……帰ってきたばっかりやのにな。ちなみに京都はまだマシや…安心せぇ…」


道真が笑う。


「それよりも神帝いうんは休ませてもらえん仕事やな。早よ神になりなさいな…」


タカヤも苦笑する。


「……そうですね。けどまだまだやらなあかん事あるんで…」


そして空を見上げる。


「じゃ、行きますわ…」


その言葉と同時にノアの艦橋から無数の通信が入った。


「各地で戦闘継続!神格再編機関派、複数惑星で進軍中!被害地域、さらに拡大!タカヤ様!行きますよ!」


「わかった。すぐ戻ります!」


戦争は始まったばかりだった関西の空に雷鳴が響く。

その雷は、まるで太陽系中に向けられた警告のようだった。


「タカヤよ…今度はゆっくり帰って来なさい…天満宮にて待っていますよ…」


(続)






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