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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十七章 第四次宇宙大戦

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炎の神帝、眠る


― 炎の神帝、眠る ―


― 惑星デネブ・前線海域


戦場から、砲撃音が消えていた。先ほどまで無数の艦艇が入り乱れ、海面を埋め尽くしていたデネブ海は、今では不気味なほど静かだった。


黒煙を上げる艦艇、海面に漂う残骸。そして巨大な湖へと姿を変えた都市跡。


その光景をデネブ軍の兵士たちは呆然と見つめていた。


だが戦争はまだ完全には終わっていなかった。


― デネブ軍艦・艦橋


「……。」


艦橋中央に立つデネブ軍司令官は、正面スクリーンを見つめていた。


そこに映っているのは、壊滅したデネブ軍港。

そして撤退していった神格再編機関の艦隊。

ベガ王国軍により制圧された旗艦と拘束されたデネブ総帥…


「……もう、戦える艦は?」


通信士は俯いた。


「主力艦隊の大半が撃沈…残存艦も損傷が激しく、戦闘継続は不可能です。」


別の士官が続ける。


「各地の軍事施設もベガ王国軍によって制圧されています。」


「……。」


司令官は目を閉じた。


もはや勝敗は決していた。


「全艦へ通達。」


ゆっくりと口を開く。


「武装解除。」


艦橋にいた兵士たちが顔を上げる。


「……司令。」


「聞こえなかったか?」


司令官は静かに言った。


「全軍、武装解除だ。」


「……。」


そして最後に。


「デネブ軍は…三星同盟軍へ降伏する。」


その言葉が、デネブ全軍へ伝えられた。


戦争開始からわずか数時間で惑星デネブは敗北した。


― 惑星デネブ・各地


デネブ軍の軍事施設では、次々と白旗が掲げられていった。ベガ王国軍が軍港へ進入し武器を回収する。


格納庫では戦闘機が封鎖され、艦艇の主機関も停止されていく。かつてデネブ軍の象徴だった巨大要塞にも、ベガ王国の兵士が入っていった。


「武装解除を確認!施設制圧完了!」


「敵兵は抵抗していません!」


次々と報告が入る。

惑星デネブの軍事力は完全に停止した。

そして海上にも静寂が戻ってきた。


波の音だけが聞こえていた。数時間前まで戦場だった海。そこにはもう、砲撃も爆発もなかった。


しかし三星同盟軍にとって、この戦いは勝利だけでは終わらなかった。


一人の神帝を失ったのだ…それはあまりにも大きな損害であった。


― 宙警連旗艦ジャスティス・医療区画


白い布に包まれた身体。その周囲には多くの人間が集まっていた。


宙警連の兵士、各部隊の幹部達。そして戦場から戻ってきた者たち。


ただ静かに、その身体を見つめていた。


その中央に眠っているのは神帝マック・ファイヤ。

いつもなら冗談を言いながら艦橋を歩き回っている男だった。


部下の失敗を笑い飛ばし、面倒な仕事から逃げようとし、それでも最後には誰よりも前へ出て戦う。

そんな男だった。


だが今は静かに眠っている。


大神官カガミ・ココミは、その傍らから離れなかった。


「……。」


何時間経っても動かなかった。


その隣には、もう一人の大神官が立っている。


大神官オノダ・ノノカ、いつもはノアに所属する彼女も今はカガミの横にいた。ノノカは黙って神帝ファイヤを見つめる。


「……本当に戦死されたのね…」


ココミは答えない。ノノカは静かに続けた。


「……。」


「でも…最後までファイヤ様らしかった。」


ココミの目から、また涙が落ちる。


「…いえ……」


小さな声だった。


「最後まで…馬鹿でしたよ。」


ノノカは少しだけ笑った。


「うん。」


二人は、それ以上何も言わなかった。


― 数時間後


惑星デネブ・海上特設追悼式場


戦場となった海の上、宇宙空母ノアの第二滑走路には巨大な式典区画が設置されていた。


アルタイル政府、ベガ王国、宙警連。そしてノア。


各勢力の代表が一堂に集まっていた。海上には数百隻の艦艇が整列している。


その中央には白い布に包まれたファイヤの遺体が静かに安置されていた。巨大なスクリーンには、生前のファイヤの姿が映し出される。


その姿を見つめる者たちの表情は、誰もが沈痛だった。


式典が始まる。


最初に、宙警連の代表が前へ出た。


「宙警連総督、神帝マック・ファイヤ。」


静かな声が海上に響く。


「彼は長きにわたり宇宙の平和を守るため戦い続けました。宙警連の総監として太陽系の守護者として…」


「その生涯において、多くの命を救い、多くの仲間を守り、そして最後には…」


一瞬、言葉が詰まる。


「創造神レオナルド・ダヴィンチと最後まで戦い抜きました。」


海上に黙祷が広がる。


そしてココミが前へ進んだ。


神帝ファイヤに仕えた大神官ととしてファイヤの遺体の前で立ち止まる。


「……ファイヤ様。」


声が震える。


「本当に…お疲れ様でした。仇は私が…」


ココミは涙を拭う。


「神帝様の無念は私が晴らしましょう…」


少しだけ笑う。


誰もが黙って聞いていた。


「……さようなら。お世話になりました…」


ココミが一歩下がる。


続いて、ノアの神帝たちも前へ出た。


四人は何も言わなかった。


ただファイヤへ向かって静かに敬礼する。


タカヤは拳を強く握っていた。


「……ファイヤ、俺が呼んだからか…?」


小さく呟く。


「先に行くなよ…。」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


やがて、ファイヤの遺体を乗せた棺は静かにジャスティス霊安室まで運ばれていく。


宙警連の兵士たちが敬礼し無数の艦艇が一斉に汽笛を鳴らした。


――ブォォォォォォン……


海全体に響き渡る低い音。


それは、宇宙中から集まった者たちが送る最後の別れだった。


― 追悼式典終了後


人々が少しずつその場を離れていく中、ココミは一人海を見つめていた。そこへ四人の神帝が近づいてくる。


タカヤが静かに声を掛けた。


「ココミちゃん。」


「……はい。」


ココミが振り返る。


タカヤの隣にはアイズ、モック、メインがいる。


四人ともいつもの表情ではなかった。


タカヤが口を開く。


「ファイヤ君のことは本当に残念やったよ。」


「……ありがとうございます。」


「それで…今言う話では無いのはわかってるんやけど…。」


タカヤが少し言葉を選ぶ。


「ファイヤの死により我々神帝の椅子が一つ空席となった…神帝にならへんか?」


その言葉にココミの表情が止まった。


アイズが続ける。


「神帝ファイヤの後を継げるのは君しかいないだろ…」


モックも頷く。


「ココミちゃんなら…きっと務まるよ。」


メインは黙ったままココミを見つめていた。


ココミはしばらく海を見つめていた。


そして静かに首を横へ振った。


「……すみません。まだ……。」


ココミはファイヤが消えていった空を見上げる。


「まだ、早すぎます。」


「……。」


「短い期間ではありますが私は大神官としてファイヤ様の側にいました。神帝様の仕事を見てきて今の私はまだ未熟過ぎる、まだ務まらないと思いました…」


タカヤは何も言わなかった。


ココミは静かに頭を下げる。


「私の目標は勿論神帝の地位に突き宇宙の平和を護ること…」


「ただ……。」


拳を胸へ当てる。


「今の私にはファイヤ様の代わりになる覚悟がありません。神帝様は偉大過ぎる…」


タカヤはココミを見つめ小さく笑った。


「そっか。偉大か…」


無理に説得することはしなかった。


「分かった!この返事は改めて今度聞く事にしよう…」


アイズも頷く。


「時間が必要だな。私達は待っているよ…

大神官…ファイヤの付けた火を消すな…未来へ繋げろ…」


「はい。」


ココミはもう一度、遠くの海を見る。


そこにはもうファイヤの姿はないが彼が最後に戦った海は確かにそこに残っている。


この戦争は終わったがファイヤが命を懸けて止めようとした創造神ダヴィンチはまだ生きている。


どこかの宇宙で再び力を蓄えている。


静かなデネブの海…その先に広がる宇宙には、まだ戦火の火種が残っていた。そしてノアは失った仲間を胸に刻みながら次なる戦いへ向け、再び動き始めようとしていた。


十七章・完

十八章へと続く…






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