神帝、散る
― 神帝、散る ―
― 惑星デネブ・前線海域
巨大な爆発によって生まれた湖。
そこにはかつて惑星デネブ最大級の軍港と都市が存在していた。
今は何もない。残されたのは巨大な湖と崩れた大地だけだった。戦場にいた兵士たちは、誰一人として言葉を発することができなかった。
それほどまでにゴッド・スレイヤー改の一撃は凄まじかった。
そしてその光景を見ていたのは、三星同盟軍も同じだった。
― 惑星ベガ旗艦「アマノガワ」艦橋
大型のスクリーンには、遠く離れたデネブの大地が映し出されていた。艦橋にいたベガ王国の幹部たちは、誰も口を開かない。
ただ、巨大な湖へ変わった都市跡を見つめていた。
「……これが……」
一人の士官が呟く。
「噂のゴッド・スレイヤー……。」
女王オリヒメも言葉を失っていた。その隣ではベガ王国宰相レティシア・ノエルがスクリーンを見つめている。
「あ、あ…都市一つを…消し飛ばした…。」
誰かが震える声で呟いた。
オリヒメはゆっくりと目を閉じる。
「…これは…すごい。」
その言葉には驚きだけではなく恐怖も混じっていた。
「神を殺すための兵器…。」
オリヒメは静かに続ける。
「でも…あれは、神だけを殺す兵器やない。」
レティシアが頷く。
「はい。なんと恐ろしい…」
艦橋に沈黙が落ちる。
その時、通信士が声を上げた。
「王妃殿下!」
「どうした?」
「デネブ旗艦、及び周辺艦隊が再び前進を開始しました!」
オリヒメは正面を見据える。
「……まだ戦争は終わってません…。」
そして静かに命令した。
「アマノガワ、主砲準備。」
「了解!」
巨大戦艦アマノガワが砲門を開く。
「敵旗艦を狙いなさい。」
オリヒメの瞳が鋭くなる。
「デネブ旗艦を捕捉!逃がすな!」
アマノガワが砲撃しデネブ旗艦が回避するがその前にアマノガワが突っ込むように艦体を入れ込む。
『デネブ国家元首アルガス総帥へ告げます。』
ここで通信が繋がる。
『これ以上の戦闘を停止してください。』
アルガスが怒鳴る。
『黙れ!私は降伏などするものか!私にはもう何もない!国も金も軍も!』
その瞬間アマノガワから特殊拘束弾が発射された。
旗艦の周囲へ巨大なエネルギー拘束網が展開する。
「なっ……!」
デネブ旗艦の動きが止まった。
「行け!乗り込め!」
ベガ王国兵が一斉に突入する。
そして数分後デネブ国家元首デネブ・アルガスは拘束された。
「総統を確保!旗艦制圧!」
オリヒメは静かに告げる。
― デネブ海上
炎と煙が立ち込める海上。
神帝マック・ファイヤと創造神レオナルド・ダヴィンチは、再び向かい合っていた。
ファイヤの身体から炎が立ち上る。
「……ゴッド・スレイヤーか。」
ダヴィンチは遠くのノアを睨む。
「この前のより威力を上げたか…」
ファイヤが笑う。
「凄かったね…今の…次は当てるよ…」
拳を握る。
「二度も同じ手を受けると思うか?」
次の瞬間二人の姿が消えた。
ドォン!!拳と義手が激突する。
海面が大きく陥没し巨大な水柱が立ち上がりファイヤはその水柱を突き抜ける。
「ファイア・バレット!!」
両手を広げる。
指先に無数の炎が生まれた。
「撃ち抜け!!」
バババババババッ!!数十、数百の火弾が高速で放たれる。ダヴィンチは義手を振ると金色の障壁が展開され、炎の弾丸を次々と弾き飛ばす。
「そんなものでは…」
その瞬間ファイヤが障壁の目の前まで迫っていた。
「これはどうだ!!」
「――!」
全身の炎が一気に右拳へ集まる。
「バーナー・ブレイク!!」
ゴォォォォォォッ!!炎を纏った拳が障壁ごとダヴィンチを吹き飛ばした。
「ぐあっ!!」
ダヴィンチの身体が海面を何度も跳ねる。
ファイヤは追撃する。
「終わりだ!」
― 宇宙空母ノア・艦橋
戦場の各所から次々と報告が入る。
「ベガ艦隊、敵右翼へ攻撃開始!」
「ジャスティス、第六巡視艦隊と連携し敵中央艦隊を圧迫!」
「神格再編機関幹部、複数地点で交戦!」
艦橋では統合司令キドウ・ヒメナが戦況を見つめていた。四人の神帝はすでに出撃している。
それぞれが敵幹部との戦闘へ入っていた。
「神帝ヤザキ・タカヤ様、敵艦隊中央部へ進出!」
「神帝ヒョウドウ・アイズ様、敵大型巡洋艦を撃破!」
「神帝モク・モック様、敵航空部隊を突破!」
「神帝プルート・メイン様、神格再編機関部隊と交戦!」
報告を聞きながら、ヒメナは戦況図を見つめる。
「四人とも押しとるな…。」
しかしその視線はすぐに一つの反応へ戻った。
「ファイヤ君は?」
「神帝マック・ファイヤ様はダヴィンチと交戦継続中です!」
ヒメナは頷き拳を握る。
「…ほんまに…頼むで、ファイヤ君…」
― デネブ海上・ダヴィンチ戦
ダヴィンチは立ち上がった。
その身体には傷が増えてが笑っていた。
「…ハハ…面白い。」
ファイヤが構える。
「何がだ?」
「神帝ファイヤ。お前とやり合うのはやはり楽しい。」
「俺は全く楽しくないぞ!」
ファイヤの炎がさらに強くなり二人が同時に飛び出した。拳と義手が何度も激突する。
― 宇宙空母ノア・甲板兵器試験区画
ゴッド・スレイヤー改の後方にある観測室でリリア・ヘリオスが座っていた。一発目の発射で焼けた装置を確認しながら、技術員たちが慌ただしく作業を続けている。
「冷却状態は?」
「正常!弾体固定!カガミ粒子、封入状態正常!」
リリアは遠くの海を見つめた。そこではファイヤとダヴィンチが激しく戦っている。
「……弾頭は凄く高いの…造るのも一苦労…だから次は必ず。」
リリアは小さく呟いた。その表情から先ほどまでの軽さは消えていた。
「一発目は外した。」
技術員が振り返る。
「凄い威力でした…」
「分かってる。ただこいつは人を殺すものではない、人類が神を殺す為の兵器だ…それだけは忘れるな…だから二発目は絶対に外さない。」
発射装置が唸りを上げる。
「照準、ファイヤ神帝の位置を除外。ダヴィンチのみを追尾対象に設定。」
リリアは頷いた。
「よし。」
そして通信機へ口を近づける。
「ヒメナに連絡。」
『はい!』
「ゴッド・スレイヤー改、第二射準備完了。」
― 宇宙空母ノア・艦橋
『リリアより通信!』
ヒメナが顔を上げる。
『ゴッド・スレイヤー改、第二射準備完了。』
「…よし。」
ヒメナは戦場を見つめる。
「ファイヤ君の位置は?」
「ダヴィンチと接近戦中です!」
「まだ撃つな。」
ヒメナは静かに命令した。
「ファイヤ君が離れた瞬間を待つ。」
― デネブ海上
ファイヤが炎を纏って突進する。
「これで終わりだ!!」
「来い!」
二人の拳が激突した。ドォォォォン!!
爆発的な衝撃波により二人の身体が同時に吹き飛び二人の距離が開いたその瞬間。
宇宙空母ノア・甲板にてリリアが叫ぶ。
「今!!」
「発射!!」
ズドォォォォォォン!!
ゴッド・スレイヤー改、二射が発射された。
巨大な弾体が海面すれすれを飛翔する。その速度は一発目を遥かに上回っていた。リリアは観測室でその弾道を見つめる。
「……今度こそ。」
― デネブ海上
ダヴィンチが顔を上げる。
「……!」
その瞬間、彼の表情から余裕が消えた。
「ゴッド・スレイヤー……!」
弾体が迫る。
「早い……!」
避けようとするが間に合わない。
ドォォォォォォォン!!
直撃し金色の光がダヴィンチの身体を包み込む。
「ぐ……がぁぁぁぁぁ!!」
ファイヤは離れた位置から、その光景を見つめていた。
「ダヴィンチ!!」
爆発が収まる。
そこには左腕を失った創造神の姿があった。
「……。」
ダヴィンチは自分の左肩を見つめる。
「…私の…左腕…。」
ダヴィンチが明確な動揺を見せた。
「避けれなかった…左腕をやられた…
いっ痛い…」
「終わりだ、ダヴィンチ。」
炎が燃え上がる。
「お前を殺すことは簡単にはできない。だが封印することはできる。」
― デネブ海上
神帝ファイヤの力が一気に膨れ上がる。炎が渦を巻き巨大な魔法陣のような光がダヴィンチを包み込む。
「神格封印!」
ダヴィンチが叫ぶ。
「やめろ!!」
「もう遅い!」
光がダヴィンチを飲み込む。
「ファイヤァァァァ!!」
「眠れ……ダヴィンチ!!」
ズン小さな封印石が海上に出現しファイヤがそれを手に取る。その石を見てファイヤは息を吐いた。
「……終わった。」
しかし遠方の一隻の艦艇の甲板。
神格再編機関のスナイパーが静かに銃を構えていた。
「……。」
狙いはファイヤではなくその手にある封印石。
「今だ。」
パンッ!!乾いた銃声。戦場の中心を弾丸は一直線に飛ぶ。
「……!」
ファイヤが振り返る。
次の瞬間パキィィィン!!封印石が砕け散った…
「なっ…!」
砕けた封印石から凄まじい神格エネルギーが噴き出す。
「そっ、そんな馬鹿な……!」
ファイヤが後退する。
光の中心からダヴィンチが現れた。
だが先ほどまでとは違っていた。怒りに満ちた表情。
そして全身から異常な神格エネルギーが噴き上がっている。
「…私を…。」
ダヴィンチが顔を上げる。
「封印しただと……?」
空気が震える。
「ふざけるなァァァァァ!!」
海が割れた。
― デネブ海上
ダヴィンチの身体が変化していく。
神格エネルギーが肉体を包み込み失った左腕の付け根から巨大な光が噴き出す。
「これは……!」
ファイヤが目を見開く。
ダヴィンチの神格が一段階上昇する。
「私は…神だ!!」
その声だけで海面が吹き飛ぶ。
「私から……何も奪わせん!!」
ファイヤが炎を纏う。
「…なら、もう一度止める!」
二人は激突、今度は完全にダヴィンチが上回っていた。
「ぐっ……!」
ファイヤが吹き飛ばされる。
「ファイヤ!」
遠方からタカヤが叫ぶ。
ノアの神帝達も敵を撃破しファイヤの元へ向かおうとしていた。
「急ぐぞ!」
「分かってる!」
「ファイヤを援護する!」
だが遅かった。
― デネブ海上
ファイヤが立ち上がる。
「まだ…だ…。」
身体は傷だらけだったが炎は消えない。
「俺は……神帝だ。太陽系の神帝マック・ファイヤ様だ…」
(あぁ…俺は死ぬのか…やはり俺は主役にはなれない…)
ダヴィンチが静かに近づき義手は黄金に輝く。
「そうか…ならば神帝として死ね。」
「……!」
ファイヤの目の前からダヴィンチが消えた。
次の瞬間ドンッ!!っと黄金の拳がファイヤの胸部を貫いた。
「…………。」
ファイヤの身体が止まる。
「……が……。」
「ファイヤァァァァァ!!」
タカヤの叫びが戦場に響く。
ファイヤの身体が味方艦艇の甲板に落ちる。
ダヴィンチもその場で膝をついた。覚醒によって消耗しきっていた。
「……はぁ……はぁ……。」
そこへノアの神帝達も到着する。
ファイヤはもう動かなかった。
「……。」
タカヤが拳を握る。
「…ちくしょ…間に合わなかった。」
その瞬間ダヴィンチへ向けて四人が一斉に動こうとした。
しかし。
「させるか!!」
ガラン・ゴロン率いる神格再編機関部隊が割って入る。
「ダヴィンチ様、撤退を!」
ダヴィンチは倒れ込みながらガランを見る。
「…撤退…だと?ふざけるな…」
「これ以上は危険です!」
ガランが叫ぶ。
「デネブ艦隊も損害甚大!我々も戦力を失いすぎています!」
ダヴィンチは苦しそうに立ち上がる。
そして最後に、遠くのノアを睨んだ。
「……ノア……。」
その目には、憎悪が宿っていた。
「必ず……。」
しかしガランが強制的に撤退させる。神格再編機関の艦隊が次々と超空間航行へ移行。
「待て!!」
タカヤが叫ぶ。
だが間に合わない。神格再編機関の艦艇は次々と姿を消していった。
― 宙警連旗艦ジャスティス・艦橋
静まり返った艦橋で通信士が震える声で報告する。
「……総督。」
マック・ファイヤの席は空いていた。
「神帝マック・ファイヤ……戦死。」
その瞬間大神官カガミ・ココミの顔から血の気が引いた。
「……え?」
通信士は俯いたまま続ける。
「生体反応ありません…」
「……。」
ココミはモニターへ歩み寄る。
映し出されているのは戦場から回収されるファイヤの姿。
「……嘘。」
拳を握る。
「嘘……ですよね?嘘と言いなさい!」
誰も答えない。
「だって……。」
ココミの目から涙が溢れる。
「ファイヤ様は……。」
拳がモニターへ叩きつけられた。
ドン!!
「……俺は死なないって……。」
ドン!!
「いつも……そう言ってたじゃないですか……!」
そしてココミはその場に崩れ落ちた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
艦橋に泣き声が響き渡る。誰も声を掛けられなかった。
― 宙警連旗艦ジャスティス・医療区画
やがて。担架が静かに運び込まれた。
白い布に包まれた身体。大神官カガミ・ココミは、その姿を見る。
「……ファイヤ様。」
返事はない。もう二度とあの軽い笑い声が聞こえることはない。
ココミは震える手で布に触れた。
「……総督。」
静かな医療区画では誰も言葉を発しない。
そこに横たわっていたのはかつて神々と共に戦い宙警連を守り続けた神帝マック・ファイヤ。
その炎はもう二度と燃えることはなかった。
そして戦場では創造神ダヴィンチを取り逃がした三星同盟軍が静かに敵の消えた海を見つめていた。
(続)




