神の一振り
― 神の一振り ―
― 惑星デネブ宙域
三日間、三星同盟艦隊は、惑星デネブの目前で停止したまま動かなかった。
ノア、ジャスティス、アマノガワ。三隻の巨大艦を中心に、その周囲を多数の護衛艦艇と無人護衛艦が取り囲んでいる。
戦闘による損傷確認、兵装の再点検、各艦との通信確認。
そして敵の出方を待っていた。その間、デネブ側にも動きはなかった。
惑星デネブの海上には、先ほど交戦した艦隊とは比較にならない数の戦艦が集結していた。
さらにその後方には黒い艦艇に混じり見慣れない巨大艦がいくつも並んでいる。神格再編機関の艦隊。
デネブ宇宙軍と神格再編機関…連合軍だった。
その数は三星同盟軍を遥かに上回っている。
先に動けば戦争が始まる。それを双方が理解していた。
― 宇宙空母ノア・艦橋
「…ふぅ…まだ動かへんな。」
タカヤはお茶を一口含み正面スクリーンを見つめる。
そこには巨大なデネブ艦隊が映っている。
距離は近いとも言えない距離、互いの艦艇を肉眼で確認できるほどではないが兵器の射程には十分入っている。
オダイ・マサル艦長が静かに答えた。
「向こうも同じ考えでしょう。先に撃った側がこの戦争の引き金を引いたことになる。」
「引き金ならもう向こうが引いてるじゃん…現に彦星が撃たれてるし。」
タカヤが椅子をクルクル回しながら言う。
「まぁ、そうですが…」
副艦長ヤマト・ミワが端末を確認し艦橋に沈黙が流れる。
アーサー・マッカーサー戦争司令は腕を組んだ。
「…….」
アイズが横から呟く。
「誰も動けないんだ…こんな大きい戦争…誰も始めたくはないだろう…」
モックがスクリーンを見ながら続ける。
「あとさ向こうもこっちの戦力が分かってる。簡単には動けないんでしょうね。」
メインも頷く。
「でも……いつまでもこうしてはいられないよ。」
その言葉通りだった。
時間だけが過ぎていく。
数時間経った時…ついに三星同盟軍は動き出した。
「艦長。」
ヤマトが報告する。
「全部隊、着水準備完了です。」
オダイが頷く。
「よし。全艦、惑星デネブへ進入する。」
「了解。」
ノアがゆっくりと前進を開始する。
ジャスティス、アマノガワ、その後ろに続く護衛艦隊。艦隊が一斉にデネブ大気圏へ突入していく。
ゴォォォォォ……!巨大艦艇の周囲を赤黒い大気が包み込む。分厚い雲を突き抜け雲の下に巨大な海が広がっている。
「海域確認!」
「着水地点、予定通り!」
ノアの巨大な艦体が海面へ近付いていく。
やがて…ズゥゥゥゥン……!巨大な水柱が上がった。
一万メートルにも及ぶ宇宙空母ノアが、ゆっくりとデネブの海へ着水、その巨体が海面へ浮かぶだけで周囲には巨大な波が発生する。
宇宙から来た三つの勢力が、ついに惑星デネブの大地へ降り立った。
しかしそこで待っていたのは歓迎ではない。
水平線の向こうには無数の戦艦が並んでいる。
デネブ宇宙軍、そして神格再編機関の艦隊。
海上を埋め尽くすほどの巨大艦隊だった。
三星同盟軍も隊列を整える。
ノアを中心に護衛艦が展開。
ジャスティスとアマノガワが左右を固める。
両軍の距離は数十キロ。砲撃すれば一瞬で届く距離。
それでも誰も撃たない、誰も動かない。
ただ互いに睨み合っている。
― デネブ軍・旗艦
「…奴ら…撃ちませんね。」
若い士官が呟く。
その隣に立つデネブ軍将官は、正面スクリーンを見つめたまま答えた。
「あぁ…なぜ撃たない…もう戦争は始まっているぞ…」
その視線の先には巨大なノア。
「なぜ攻撃を始めない…俺が歴史的犯罪者などごめんだぞ…」
― 宇宙空母ノア・艦橋
こちらも同じだった。オダイは命令を出さない。
「……。」
誰もが分かっていた。
この瞬間、この一発…それが大戦争の始まりになる。
タカヤは正面スクリーンを見つめる。
「誰が最初に撃つんやろな。」
その時デネブ艦隊の中央。
一隻の軍艦がゆっくりと前へ出た。
その艦の周囲だけ、他の艦艇が大きく距離を取っていく。
「……何や?」
ヒメナが目を細める。
通信士が報告する。
「巨大なエネルギー反応!デネブ艦ではありません!神格再編機関の艦艇……いや――」
その瞬間スクリーンへ一人の男の姿が映し出された。
満面の笑みの創造神レオナルド・ダヴィンチ六世
タカヤの表情が変わる。
「……ダヴィンチ。」
かつて同じ神帝として戦場を駆けた男
そして今は神格再編機関を率いる敵。
ダヴィンチは艦首甲板へゆっくりと歩み出た。
武器は持たずにただ右手を軽く上げる。
「……。」
三星同盟軍の艦隊が警戒態勢に入る。
オダイが叫ぶ。
「全艦、防御態勢!」
だが――。
遅かった。
ダヴィンチは静かに右手を振った。
たった一度、本当にそれだけだった。
ズ――――ン!!空間が歪みダヴィンチの前方にいた三星同盟軍の無人護衛艦隊が一斉に吹き飛ぶ。
「なっ――!」
ノア艦橋に衝撃が走る。
巨大な爆発が連続して発生する。
一隻、二隻、十隻、数十隻。艦艇がまるで紙切れのように宙へ弾き飛ばされ、海面へ叩き落とされていく。
「護衛艦隊、大損害!」
「前衛部隊が……!」
「通信途絶、多数!」
艦橋に衝撃が走る。
タカヤは真顔でその光景を見守る。
目の前の光景それは砲撃でもミサイルでもない。
神の一振り。
「……ほんまめちゃくちゃやな。」
タカヤはそう呟き静かに立ち上がる。
タカヤの拳がゆっくりと握られる。
青白い波動がその身体から漏れ始めた。
その姿を見た神帝達も次々と立ち上がった。
大戦争を始める一発その引き金を引いたのは一人の創造神だった。
デネブ大戦、開戦。
(続)




