嵐の前の静けさ
― 嵐の前の静けさ ―
― アルタイル宙域・三星同盟艦隊
漆黒の宇宙を、三つの巨大な艦影が静かに進んでいた。先頭を航行するのは、宇宙空母ノア。その左舷後方には、宙警連旗艦ジャスティス。右舷には、ベガ王国第一艦隊旗艦。
三隻を中心に、それぞれの護衛艦艇が整然と陣形を組み、惑星デネブへ向けてゆっくりと針路を取っている。
目的地までは約十日。
三星同盟を締結してから初めて行われる、大規模な共同遠征であった。
ノアには、アルタイル政府を代表して外務部事務次官アマギ・セレナと数名の護衛兵、外交官も乗艦している。
軍神・彦星が意識不明となった今、アルタイルの外交を支えるのは彼女だった。
艦隊は静かにアルタイル宙域を離れ、広大な宇宙へと進んでいく。
― 宇宙空母ノア 艦橋
巨大な窓の向こうには、無数の星々が流れていた。
艦橋では各部署の乗組員が持ち場につき、緊張感を保ちながらも落ち着いて任務を続けている。
中央では艦長オダイ・マサルが航路図を見つめていた。
「各部署、状況報告。」
「機関部、異常ありません。」
「兵装管制、全システム正常。」
「レーダー、周辺宙域に敵影なし。」
報告を聞いたオダイは静かに頷く。
その横では副艦長ヤマト・ミワが端末へ次々と記録を入力していた。
「現在速度を維持した場合、デネブ到着まで約十日。燃料、食料、弾薬とも十分な備蓄があります。途中補給の必要はありません。」
オダイはゆっくりと振り返る。
艦橋後方には神帝四人が賑やかに話しながら座っていた。
「神帝様。現在のところ航海は極めて順調です。」
大型スクリーンには青い航路が映し出される。
「現在航行中の宙域は惑星ベガの管理区域です。
不審艦、通信妨害、機雷等も確認されておりません。」
ヤマトが続ける。
「このままなら平穏な航海になると思われます。」
タカヤは腕を組み小さく笑った。
「そーか!わかったよ!じゃ今は暇やって事やな!」
艦橋に小さな笑いが広がりオダイも穏やかな表情で頷いた。
「艦長としてはこの暇が一番ありがたい…。」
― 宇宙空母ノア 来賓区画
その頃、アマギ・セレナは客室の窓から宇宙を眺めていた。その隣には神帝付き秘書官ヤマモト・ウォンが立っている。
「お部屋はいかがですか?」
ウォンが穏やかに尋ねる。
「とても快適です。」
セレナは部屋を見渡した。
広い寝室、応接室、書斎、簡易キッチンまで備えられている。
「軍艦というよりホテルですね。」
ウォンは微笑んだ。
「ふふ…そうですね…ホテルはコロニーにございますがここよりは劣ります…
この部屋は御来賓様に長期間生活することを前提に設計されていますから。」
セレナは再び窓の外、遠ざかるアルタイルを見つめる。
「彦星様…。」
自然とその名が漏れた。
「必ず勝って帰ります。」
ウォンは静かに頷いた。
「そのために、皆がここへ集まったのです。」
― 宇宙空母ノア コロニー中央公園
人工太陽が穏やかな昼の光を降り注いでいた。
公園では子どもたちが走り回り、家族連れが芝生へ腰を下ろしている。カフェは賑わい、学生たちは笑いながら歩いていた。
戦争へ向かっている艦とは思えないほど、平和な日常。艦橋からコロニーに移動しベンチへ腰掛けたタカヤはその光景を静かに眺める。
隣にはアイズ。
「……平和やな。」
「そうだな。」
しばらく二人は黙って子どもたちを見ていた。
「また戦争か…」
アイズは苦笑する。
「この景色を守るために戦うんだろ。」
タカヤは静かに頷いた。
「せやな。」
子どもたちの笑い声が、公園いっぱいに響く。
その声を背に、ノアは静かにデネブへの航路を進み続けていた。
敵影なし異常なしのあまりにも穏やかな十日間。
誰もが、この静けさが長くは続かないことを理解していた。
まるで"嵐の前の静けさ"であることを。
(続)




