守る者、攻める者
― 守る者、攻める者 ―
― 宇宙空母ノア 中央作戦室
アルタイル全域の戦況図が大型スクリーンに映し出されていた。デネブ宙域、アルタイル、ベガ、太陽系。
無数の艦隊配置を示す光点が静かに点滅を続けている。その前で、神帝ヤザキ・タカヤは腕を組み、マック・ファイヤを真っ直ぐ見つめていた。
「ファイヤ…お前を呼んだんは頼みたい事があるからや。」
作戦室の空気が引き締まる。ファイヤも真剣な表情で頷いた。
「よし、聞こう。」
タカヤはモニターへ映るアルタイルを指差す。
「英雄不在のこの惑星アルタイルを守ってくれ。」
短い沈黙。ファイヤは顎へ手を当て数秒だけ考える。
そして
「うん。」
静かに口を開いた。
「断る。」
「ありがとう、ファイヤ…って。えっ?今断ると言った?」
タカヤの表情が止まる。
「うん。言ったよ。」
ファイヤは淡々と続けた。
「ダヴィンチは俺が捕らえる。裏切り者のダヴィンチは俺の手で…」
その瞳には強い意志が宿っていた。タカヤも真っ直ぐ見返す。
「まぁ気持ちは分かる。
けど今一番危ないんはアルタイルや。だからこそ。」
ファイヤは首を横へ振る。
「どうせお前達はデネブに行くのであろう…俺はその気で来たのだ。あとさ神格再編機関の中心はダヴィンチだ。奴を落とせば戦況は一気に変わる。」
二人の意見は平行線だった。作戦室に重い空気が流れる。
その時だった。
「統合司令、入られます!」
当番兵の声が作戦室へ響き渡る。
全員が一斉に扉へ向き直る。
ウィーン…重厚な自動扉がゆっくりと左右へ開いた。
ノア統合司令"キドウ・ヒメナ"
その姿が現れると室内の全員が一斉に敬礼する。
ヒメナも静かに敬礼を返した。
「ご苦労さん。」
そのまま部屋の中央まで歩きファイヤを見つけると少し笑った。
「ファイヤ君、久しぶりやね。」
「ご無沙汰してます。」
「なんなん?揉めてるん?」
周囲を見渡す。
ファイヤは苦笑した。
「まぁ…少し。」
「ほな聞こか。」
ヒメナは空いていた椅子へ腰掛けた。
タカヤが現在の状況を説明する。
アルタイルには英雄がいないこと。デネブや宙帝の侵攻の危険。ファイヤはダヴィンチ討伐を望んでいること。十分ほど話を聞いたヒメナは腕を組み、静かに目を閉じた。
「なるほどね…。」
部屋は静まり返りやがてヒメナが顔を上げた。
「両方やればええやん。」
全員が顔を上げる。
「……え?」
ヒメナは当然のように言った。
「アルタイルを守る戦力を別に置けばええだけやね。」
モックが尋ねる。
「それは、誰を?」
ヒメナは迷わなかった。
「居候中のノア最終兵器堕天使ルシファー様…」
その名前に空気が変わる。アイズが眉を上げる。
「あっ!いたね!」
モックも苦笑する。
「ルシファー様なら安心できるけどさ…引き受けてくれるかな?」
ヒメナは立ち上がった。
「まぁ聞いてみよ。」
― 宇宙空母ノア 特別居住区
ノアへ身を寄せている"堕天使ルシファー"
ルシファー専用区画。
部屋の窓からアルタイル港を眺めていたルシファーはノックの音に振り返った。
「入るで。」
ヒメナだった。
ルシファーは小さく笑う。
「入ってくるな…」
ヒメナは椅子へ腰掛ける。
「お願いがあるんやけど…」
「嫌だ。」
ルシファーは即答しヒメナは苦笑する。
「とりあえず最後まで聞いてや。」
ルシファーは肩をすくめた。
「ん…どうぞ。」
ヒメナは真剣な表情になる。
「アルタイルを守ってほしい。」
ルシファーは静かに首を横へ振る。
「私は悪魔だぞ…自分の知る国、星ならまだしも他国の戦争へ介入する理由はない。」
二人は窓の外を眺め部屋が静かになる。
ヒメナはしばらく黙っていたがやがて静かに口を開く。
「…なにを言っているん?ノアに乗る前に約束したやん…もしもの時は働くと…約束やったよね?
英雄がおらん今。誰かがおらなアルタイルは堕ちる。」
「我はノアの危機には力を貸すと約束したのじゃ…
アルタイルは知らん…」
ヒメナは続けた。
「今頼れるんは君しかおらん。アルタイルの堕ちるとノアが危ない…ルシファー様の希望があるなら検討するからさ。」
数十秒の沈黙。
ルシファーは大きくため息をついた。
「ハァ面倒じゃ…ヒメナよ…では宙警連第六巡視艦隊を置いて行け…」
「ゼン達ですか?」
「あぁ…彼らは頭が良いし腕も立つ。特にお前の弟"キドウ・ゼン"は優秀じゃ…」
ルシファーも小さく笑った。
「おっ!なんか嬉しいな…
分かりましたよ!それぐらいなら!」
ルシファーは静かに立ち上がる。
「そうか…ならアルタイル防衛を引き受けよう。」
部屋の空気が一気に和らぐ。
― 宇宙空母ノア 中央作戦室
再び全員が集められた。
ヒメナは大型スクリーンの前へ立つ。
「決定事項を伝える。」
全員が姿勢を正す。
「本日付で、堕天使ルシファーを司令官とする臨時アルタイル防衛部隊を編成する。」
モニターへ新たな部隊編成が映し出される。
宙警連第六巡視艦隊 司令官"キドウ・ゼン"
ゼンは驚きながらも立ち上がった。
「えっ!私ですか。」
ヒメナは力強く頷く。
「あぁそうや…ルシファー様からの指名や…
補佐を頼むよ。」
ゼンは深く敬礼した。
「謹んで拝命いたします!」
ファイヤも満足そうに笑う。
「ゼン。任せたぞ。」
「当たり前ですよ。」
その言葉にルシファーも静かに頷いた。
こうして、宙警連第六巡視艦隊はアルタイルへ残留。
ルシファー率いる臨時防衛部隊として新たな任務に就くこととなる。
一方で、宙警連旗艦ジャスティスは神帝マック・ファイヤを乗せ、神格再編機関との決戦へ向けて出航準備を開始する。
守る者と、攻める者。
二つの戦線が、今まさに動き始めようとしていた。
(続)




