戦火の幕開け
ー 戦火の幕開け ー
― アルタイル中央病院・特別救命区画
白い照明が静かに病室を照らしていた。
規則正しく鳴る心電図。
「……。」
ベッドには軍神・彦星が横たわっている。
胸部には幾重にも包帯が巻かれ、人工呼吸器が静かに作動していた。傷は深いが命は繋ぎ止めた。
「意識は…まだ戻りません。」
医師が静かに告げる。
病室には重苦しい沈黙が流れた。アルタイル幹部達は目を伏せアマギ・セレナは壁へ背中を預け、黙ったまま天井を見上げていた。
その時、病室の扉が静かに開く…オリヒメだった。
ゆっくりと彦星の傍らまで歩きその顔を見つめる。
「…また。」
小さく呟く。
「お前は運が悪い…」
返事はない。眠ったままの軍神のオリヒメは彦星の手へ静かに触れた。その瞳に迷いはもう無かった。
振り返る。
「レティシア。」
「はい。」
「ベガ王国は正式に惑星デネブとの交戦状態へ入ります。」
部屋の空気が変わる。
「王国軍第一・第二艦隊を即時動員。全星域へ非常警戒令。」
レティシア・ノエルは一礼した。
「御意。」
オリヒメは静かに言う。
「これは報復ではありません。二度と今日のような日を繰り返さないための戦いです。」
― 惑星アルタイル臨時作戦会議室
大型モニターにはデネブ宙域。各国の艦隊配置。
赤い光点が無数に映っていた。
タカヤは腕を組む。
「ベガは動くみたいね。」
オレサキ・レンヤが頷き静かに資料を閉じた。
「当然でしょう。ノアも参戦します。同盟ですからね。」
その言葉にアルタイル政府高官たちが頷く。
しかし。神帝達は黙っていた。
「……。」
ヒメナが通信画面越しに尋ねる。
『どないしたん?』
タカヤはモニターの彦星を見つめた。
「今俺達がアルタイルを留守にしたら…
彦星が倒れた今、アルタイルは精神的支柱を失っとる。」
誰も否定できない。
「今デネブや宙帝が全面侵攻してきたら。アルタイルだけでは耐えられへん。高確率で取られる。」
アイズも頷いた。
「確かに。」
モックが口を開く。
「増援?どこから?」
タカヤは静かに笑う。
「神帝…」
全員がタカヤを見る。通信端末を取り出す。
画面には一つの宛先。宙警連総本部
件名。『至急・アルタイルへ来い。』
本文は驚くほど短かった。
「ファイヤ君放送見てた?暇やったら来て。人が足らん。」
最後に現在座標を添付する。
送信。
ピッ。「送った。」
アイズが思わず吹き出す。
「それだけ?」
「十分や。アイツなら来るやろ。」
タカヤは笑う。
― 太陽系 宙警連総本部
聖地ネオ・エリュシオン。
宇宙警察連合本部の中央司令室。今日は警報も無く、穏やかな時間が流れていた。
「総督。」
一人の通信士が立ち上がる。
「ノアより暗号通信です。」
「内容は?」
通信士は苦笑した。
司令室中央、一人の男が椅子を回転させる。
神帝"マック・ファイヤ"
通信士が読み上げる。
「『ファイヤ君放送見てた?暇やったら来て。人が足らん。』以上です。」
司令室が静まり返る。
マック・ファイヤは頭を抱える。
「はぁ…相変わらずだな。」
(何故俺なんだ…神帝なら他にも居るだろ…
放送?見てたよ、もちろん見てたよ!けどさ、暇な訳無いじゃん。俺が出て聖地は誰が守るの…大変なのはわかるけど…まぁ…)
椅子から立ち上がる。
「艦長。」
「はっ!」
「至急旗艦ジャスティスの準備だ。」
「神帝様…聖地の警備は…」
「その件なら大丈夫さ、俺が月の神帝姉弟に連絡しておいた。」
要塞全体へ警報が鳴り響いた。
『総督旗艦・出撃準備。全乗組員配置。』
「じゃ、行こうか…ココミちゃん…」
「はい…神帝様…」
大神官カガミ・ココミは立ち上がり船を見つめる。
格納庫では巨大な戦闘艦がゆっくりと係留を解かれていく。艦首に刻まれた文字。宙警連旗艦"ジャスティス"
マックは艦橋へ向かいながら静かに笑った。
「タカヤが『来て』と言う時は。大抵、面白いことになる。」
巨大な主機関が唸りを上げる。
「アルタイル宙域への超空間座標入力完了!全機関、異常なし!」
「ワープドライブ起動!」
マックは正面スクリーンを見据えた。
「宙警連旗艦ジャスティス。アルタイルへ向け出港。」
轟音とともに巨大戦艦は要塞を離れ、青白い光に包まれ次の瞬間その巨体は超空間へと消えた。
新たな神帝が、戦場へ向かう。
十六章・完
十七章へと続く…




