深淵の裏側で
― 深淵の裏側で ―
― 数日前 惑星デネブ・総統府地下戦略区画
重厚な鋼鉄の扉が静かに開く。地下深く。
幾重もの警備網を抜けた先にある円形の大会議室。
中央には銀河の立体地図が投影され、その一角のアルタイル宙域だけが赤く染められていた。
円卓の上座には一人の男。惑星デネブ国家元首、総統デネブ・アルガス。
その向かい側には、黒いローブをまとった集団が静かに腰掛けていた。
神格再編機関…先頭に座る男は穏やかな笑みを浮かべている。創造神ダヴィンチ。
「ようこそ。」
アルガスが静かに口を開く。
「創造神ダヴィンチ殿。太陽系の情勢はチェックしております。」
ダヴィンチは軽く会釈した。
「歓迎に感謝します、総統。」
互いに握手を交わす。その瞬間周囲にいた将官たちは静かに息を呑んだ。銀河でも悪名高い二人であった。
アルガスが席へ腰掛ける。
「単刀直入に聞こう。君は何を望む。」
ダヴィンチは笑った。
「再編ですよ。この宇宙そのものの。」
部屋が静まり返る。
「神は多すぎる。国家も多すぎる。古い秩序は腐敗する。だから私は壊し新しく作り直す。」
アルガスは腕を組んだ。
「面白い。私も同じ考えだ。」
ゆっくり立ち上がる。
「停滞した文明は滅ぶ。戦争こそ文明を進化させる。」
ダヴィンチも立ち上がる。
「我は君達の野望に賛同する。手を組もうではないか…」
二人は笑った。まるで長年の友人のようだった。
アルガスは立体地図へ近付く。
「アルタイル。」
赤く光る星を指差す。
「ここは近く三星同盟を締結する。」
ダヴィンチも頷いた。
「ええ。」
「ノア、ベガ、アルタイル。
これが結ばれれば宇宙連合はさらに巨大になる。」
アルガスは静かに笑う。
「同盟などは好きにすれば良いが好き勝手にやられるのは煩わしい…」
その言葉にダヴィンチも微笑んだ。アルガスは部下へ視線を向ける。
「刺客は。」
軍服姿の将軍が敬礼する。
「既にアルタイルへ潜入しております。」
「狙撃位置も確保済み。成功率九十八・七%。」
「失敗した場合は?」
「担当兵諸共爆破させます。」
アルガスは満足そうに頷いた。
「よろしい。」
ダヴィンチは静かに窓の外を眺める。遠くには無数の戦艦。巨大造船所。そして終わりの見えない軍需工場。惑星全体が巨大な軍事国家だった。
「総統。一つだけ忠告があります。」
「聞こう。」
ダヴィンチはゆっくり振り返る。
「ノアだけは侮らない方がいい。」
アルガスは笑う。
「理由は神帝の四人…特にヤザキ・タカヤ」
その名前に部屋が静まる。アルガスは首を傾げた。
「あまり目立ったものもない…あまり戦闘の情報もないが…」
ダヴィンチは首を横へ振る。
「ノアの情報統制は完璧だな…奴は死神そのものだ…」
ダヴィンチの表情が初めて曇る。
「怒らせるな。彼が本気で怒った姿を私は知っている。」
「……。」
アルガスは小さく笑った。
「それほどか。」
「私と肩を並べていた男です。神帝時代の彼は、私と互角だった。ほとんど考えない…その場の空気とノリで戦場を駆け回るあの技術は私以上かもしれません。駒を動かすセンスもある。」
部屋が静まり返る。
アルガスは興味深そうに笑った。
「ほぉ…では試そうか…
彼がどこまで我慢できるか。」
ダヴィンチはため息をついた。
「お勧めはしない…」
アルガスは窓の外を見つめる。
「私は人間を見るのが好きだ。追い詰められた時。
英雄は英雄になるのか。それとも怪物になるのか。」
静かな笑みを浮かべる。
「ヤザキ・タカヤ。君には期待している。」
ダヴィンチは何も言い返さない…
「総督!作戦を開始致します!」
「あぁ…やれ…」
(続)




