三星同盟(みつぼしどうめい)
― 三星同盟 ―
― 宇宙空母ノア ノアミュージアム・副司令室
ノアミュージアムは休日ということもあり、多くの家族連れや観光客で賑わっていた。
館内には歴代艦艇の模型や戦闘機、宇宙服、神帝たちの戦いを紹介する展示が並び、子どもたちは目を輝かせながら走り回っている。
その最上階には一般客が立ち入ることのできない一室がある…副司令室。
室内には大きなソファと丸テーブル。
壁一面の窓からは、ミュージアム中央ホールが見下ろせた。
部屋の主であるノア副司令兼ミュージアム館長チョウカ・ナツキは、ソファへ深く腰掛けながらコーヒーを飲んでいた。その向かいには、神帝のモックとメイン。
チョウカ副司令は軍服、神帝の二人は私服姿である。
「…暇ねぇ。」
モックがポテトチップスを摘まみながら呟く。
ナツキは苦笑した。
「ちなみに私は休みでは無いんだけど…」
メインは窓の外を眺めながら笑う。
「神帝は休みだもん。
タカヤ君なんか朝から暇って騒いでそう。」
「間違いない。」
三人は同時に笑った。
ナツキはコーヒーカップを机へ置く。
「アルタイルでは英雄扱い。ノアへ帰れば暇人。
神帝も大変やな。」
モックが肩をすくめる。
「でもな平和って退屈なくらいがちょうどいいんじゃない?昨日まで死ぬか生きるかやったし。」
メインも頷く。
「確かに。」
しばらく三人は展示室を眺める。
誰も戦争の話などしていない、それだけで十分だった。
ナツキは微笑む。
「我々はこれを見るために戦っとるようなもんや。」
その空気を破るようにモックが立ち上がる。
「そうや。人数少ない。」
ナツキが首を傾げた。
「何が?…暇人?」
メインが笑う。
「呼ぶ?」
「呼ぼう。」
モックは部屋の電話を取り短く連絡を入れた。
「ウォン。時間あったら副司令室来て。
あとノノカも連れてきて…お茶あるから。」
数十分後。コンコン。「失礼します。」
最初に入ってきたのは神帝付き秘書官ヤマモト・ウォン。その後ろから大神官オノダ・ノノカも姿を現した。
「副司令、お呼びでしょうか。」
ナツキは笑う。
「私は呼んでない。呼んだのはモックや。」
「今日は休日や。座り。」
二人は顔を見合わせる。
「…はい。けど休日は神帝様だけでは?」
「いいの!」
ソファへ腰を下ろす。
メインが早速お菓子を差し出した。
「食べる?」
「ありがとうございます。」
ノノカは律儀に頭を下げる。
ウォンもコーヒーを受け取り小さく笑った。
「珍しいですね。」
「皆さん集まるなんて。」
モックが答える。
「特に意味はない。暇やから。」
「……。」
ウォンは吹き出した。
「そんな理由ですか。今朝タカヤ様も暇だとぼやいていました。」
ナツキは肩をすくめる。
それから一時間近く。
五人は他愛もない話で盛り上がった。
タカヤの天然な一面。アイズの小説。潜水艦部隊のボーナス騒ぎ。笑い声が絶えない。
戦争が終わったからこそ流れる、穏やかな時間だった。
その時だった。
プルルルル……。
副司令室の固定電話が鳴り部屋の空気が少しだけ変わる。ナツキが受話器を取った。
「はい。…副司令チョウカです。」
しばらく相手の話を聞く。
表情が少しだけ真面目になった。
「了解しました。神帝達には私から伝えます。」
静かに受話器を置く。
モックが尋ねた。
「仕事?」
ナツキは頷く。
「艦橋からや。外務司令部経由の正式連絡や。」
全員がナツキを見る。
「二日後。ノア、アルタイル、ベガによる三者同盟会議と終わり次第締結式を執り行う。神帝四名には、正式な来賓として出席をお願いしたいそうや。」
部屋が静かになる。
ウォンは端末へ予定を書き込みながら呟いた。
「いよいよ正式な同盟ですね。」
ノノカも静かに頷く。
「二日後って…連休最終日か…まぁいいか…」
モックは窓の外を見つめ、小さく微笑んだ。
「戦争の次は外交。私には政治は難しすぎるよ…」
「下手な同盟は国を滅ぼす…ここが腕の見せどころやで…オレサキ外務司令…」
副司令チョウカ・ナツキは小さく呟く。
窓の向こうでは、多くの子どもたちがノアの模型を囲み、楽しそうに笑っていた。その笑顔を守るための、新たな一歩が始まろうとしていた。
― 二日後・早朝 宇宙空母ノア 第一滑走路
惑星アルタイルに太陽が昇り始めた早朝。
停泊する宇宙空母ノアの第一滑走路には幹部たちが整列していた。休日の穏やかな空気はなく、全員が正装の礼装に身を包んでいる。
外務司令 オレサキ・レンヤ は、普段の柔らかな笑みを消し書類を何度も確認していた。
その横には副司令チョウカ・ナツキ。
そして正装姿の神帝四名、タカヤが珍しそうにレンヤを見る。
「レンヤ君。今日は随分気合い入っとるね。」
レンヤは視線を書類から外さず答えた。
「今日は戦争より重要かもしれません。」
その一言で周囲の空気が引き締まる。
「一発の砲弾で国は滅びる事もあります。
ですが。一枚の条約で、何百年もの平和を作る事も出来ます。」
タカヤは静かに頷きレンヤはようやく微笑む。
「今日は絶対に失敗できません。」
その時格納庫の巨大シャッターがゆっくり開いた。
ノア専用外交艇が姿を現す。
「出発します。」
レンヤの号令で、一同は静かに乗り込んだ。
― アルタイル神殿・大円卓会議場
巨大な円卓とその周囲に三つの国の代表が座る。
アルタイル。ベガ。そしてノア。
ノアは太陽系、宇宙連合を代表する。
ノア代表は外務司令オレサキ・レンヤ。
立会人として神帝四名。
アルタイル側には軍神彦星と
アルタイル政府外務部事務次官アマギ・セレナ。
ベガ側には女王オリヒメと
王国宰相レティシア・ノエル
会議は静かに始まり一番初めにレンヤが口を開く。
「まず同盟とは支配ではありません。対等である事。これが第一条件です。」
彦星も頷く。
「異論はない。」
オリヒメも続く。
「当然です。」
しかし、そこから話し合いは難航した。
軍事支援の範囲、港湾使用、共同防衛、共同演習に捕虜の扱い、技術供与、貿易、共同研究。
一つ決まれば二つ揉める。
アルタイルは軍事を重視しベガは民間交流を重視する。
オレサキは何度も首を横へ振った。
「ノアは国家です。ただの空母ではない。法律もあり国民もいる。」
彦星は立ち上がる。
「ノアは信用している…ただ宇宙連合の他の艦艇が自由に港を使うのは容認できない。」
「ただ我々は太陽系人類の代表…そこを譲るわけには…専用港の建設しそこでの受け入れ態勢を整えるというのはどうでしょう?」
オレサキは二人の英雄に負けない勢いで話し続ける。
「惑星ベガはそれなら容認しよう…」
時間はどんどん過ぎていき気がつけば三日目。
全員の目には疲労が浮かんでいた。それでも誰一人席を立たない。
タカヤはレンヤへ小声で話す。
「意外と難航してる感じやな?」
レンヤは苦笑した。
「外交とはこういうものです。戦争より時間が掛かります。」
そして三日目の夕方ついにレンヤがペンを置いた。
「…ふぅ…まとまりましたね。」
彦星が文書へ署名しオリヒメも続く。最後にレンヤが静かに署名した。
三つの署名が並ぶ。
『三星同盟条約』
その瞬間会議場は大きな拍手に包まれた。長かった交渉が終わったのである。
「やはり言葉だけでは駄目だ。我々はただの友では無い…この条約はこの宇宙をより良いものとする…」
オレサキは立ち上がり二人の英雄に握手を求める。
― アルタイル神殿前・記者会見場
無数の報道陣。
沢山のメディア、中継カメラ、この光景はノアの衛星を中継して太陽系の星々でも生中継されていた。
壇上には。軍神彦星、女王オリヒメ、外務司令レンヤ。そして立会人として神帝四名。
彦星が一歩前へ出る。
「本日、アルタイル、ベガ、ノアは正式に三星同盟を締結した。」
拍手が起こる。
「これより三つの星は互いを助け合い……」
パンッ!!
乾いた銃声に誰も反応できなかった。彦星の胸から鮮血が噴き出す。
「…っ。」
その身体がゆっくりと崩れ落ちた。
「彦星様!!」
会場が一瞬で悲鳴に包まれる。
「狙撃だ!伏せろ!」
「誰か早く医療班を!条約文書を確保してください!神帝!命を懸けて文章を守れ!」
神帝たちが即座に動く。
タカヤが彦星を抱き起こし周囲を警戒する。モックは報道陣を避難させ、メインが負傷状況を確認する。
アイズはオレサキ外務司令を地面に押さえつける。
「外務司令!目立ち過ぎです。こう言う時は自分の命が最優先です。」
ノノカたち大神官も瞬時に防御陣形を取った。
遠くの建物屋上で黒いコートの男がライフルを担ぎ、小さく笑う。
「命中。」
男は静かに呟く。
「惑星デネブより伝言だ。平和ごっこなど辞めておけ次はお前たちだ。」
煙幕弾が炸裂し白煙が立ち込めた時には狙撃手の姿は既になかった。
三星同盟締結の日、祝福されるはずだったその日が、新たな陰謀の幕開けとなるのだった。
(続)
--------------------------------------------------
公開情報
・レティシア・ノエル 五十歳 男性
惑星ベガ 王国宰相 異名"星の賢者"




