戦争の答え
― 戦争の答え ―
― 宇宙空母ノア 神帝執務室
戦いが終わった夕暮れ。アルタイル港へ停泊するノアの中は、外の喧騒とは対照的に静かだった。
神帝執務室。重厚な扉の向こうには、大きな執務机と壁一面の星図。
窓の外には、コロニー都市が一望、何千何万の住民達がいつもと変わらない生活を送っていた。
タカヤは椅子へ深く腰掛け、軍帽を顔の上に乗せたまま天井を見上げていた。誰も言葉を発さずしばらく静寂だけが流れた。やがてタカヤが小さく呟いた。
「…今回も、生き残れて良かった。」
その声にはいつもの軽さはなかった。
「はぁ…戦争は…どうすれば終わるんだ…。」
部屋の空気が少しだけ重くなる。向かいのソファへ座っていたアイズが腕を組んだ。
「珍しいね。」
「何が?」
「いつも楽観的なお前がそんな顔をするのは。」
タカヤは帽子を少し持ち上げ苦笑した。
「まぁ俺だって考える時くらいあるよ。」
その隣でモックが缶ジュースを開ける。
「プシュッ」という音だけが静かな部屋へ響いた。
「でも今日の作戦、大成功だったじゃない。」
「そうかな。」
「そうよ。」
モックは迷いなく答える。
「結果アルタイルは救えた。イザナさんはゼルを乗り越えた。大神官のノノカやゴヴも経験を積んだ。
潜水艦隊も大戦果。ベガとも友好を築けた。」
一本ずつ指を折りながら数えていく。
「結果だけ見れば百点よ。」
しかしタカヤは首を横へ振った。
「まぁ…けど違うよ…」
神帝達はモニターを見る。
モニターに映るアルタイル港では白い布に包まれた戦死者たちが静かに運ばれていた。
「あの人達は皆んな死んだ…敵味方なんて関係ない…戦争に正義も悪もない…けど自分が生き残る為にはしないといけない。」
誰も否定せず静かな時間が流れる。
その時部屋の隅で本を読んでいたメインがゆっくりと閉じた。
「タカヤ君…。」
「ん?」
「私は戦争の終わらせ方知ってるよ。」
三人がメインを見る。
「最近読んだ昔の漫画でね。その王様が『俺が剣を取るのは、未来の戦争の犠牲者をなくすためだ』って言ってたの。」
アイズが苦笑しメインは続けた。
「今私達がしてる戦争も未来の戦争犠牲者をなくす為の物って考えればいいかもね!」
タカヤは興味深そうに聞く。
「……未来の犠牲者か、たまには良いこと言うやん…また今度漫画貸してや。」
「いいよ!」
モックは窓の外を見た。
「けどねメイン…戦争は終わらせるのではなく…。
始めさせない事が一番難しい。」
その言葉にタカヤは目を閉じる。
「…外交か……」
アイスも頷く。
「軍隊だけじゃ国は守れない。けど宙帝は話なんて聞いてくれないよ。」
タカヤはゆっくり立ち上がり窓際まで歩きコロニーを見下ろす。
コンコン。
執務室の扉が叩かれる。
「失礼します。」
通信士が敬礼した。
「神帝様、帰還したS型次元潜水艦部隊が整列しております。艦長方がご挨拶を希望されていますが…」
タカヤは通信士に敬礼を返す。
「えっ?ヒメナさんは?」
「最高幹部達はまだお戻りではありませんので…」
アイスが立ち上がる。
「例のボーナス狙いの連中か…」
モックとメインは笑いを堪える。
「絶対に撃沈数で揉めてるわ。賑やかそう…」
タカヤは手に持っていた帽子を机に置き立ち上がる。
「はぁ…ほな行こか。」
扉へ向かって歩き出す。
「頑張った奴はちゃんと褒めんとな。」
四人の神帝は執務室を後にした。
― 宇宙空母ノア 後部・ノア港
ノア後部ノア港には帰還したS型次元潜水艦十隻の乗組員たちが整列し神帝たちの到着を静かに待っていた。
モノレールを降りた神帝四人に続き、神帝付き秘書官ウォン・ヤマモトも足早に後を追っていた。
「最高幹部の皆さんは、まだアルタイル神殿ですか。」
ウォンが手元の端末を確認しながら尋ねる。
タカヤは歩きながら答える。
「ヒメナさん達は、まだ戦後処理やろ。外交やら捕虜やら、今が一番忙しい頃や。」
「なるほど。」
ノアの通路には、整備員や医療班が慌ただしく行き交っていた。
戦いは終わったとはいえ、艦内はまだ戦時体制のままである。
やがて巨大な隔壁が左右へ開いた。
その先には、後部ドック、ノア港。
宇宙、海へ直接繋がる巨大な格納港には、銀灰色のS型次元潜水艦十隻が整然と並んでいた。
艦体には砲撃の痕や擦り傷が残り、中には応急修理の跡が生々しく残る物もある。
その前には五十名の乗組員たちが整列していた。
全員が敬礼をしたまま神帝たちを待っている。
当番士官の号令が響く。
「気を付け!」
バッ!!
五十人の敬礼が一斉に揃った。
ウォンは思わず息を呑む。
「…綺麗。」
神帝達は敬礼を返しゆっくりと隊列の前を歩き一人ひとりの顔を見る。疲労の色は濃いがそれでも全員が誇らしげだった。
「楽にして。」
「ありがとうございます!」
敬礼が解かれ空気が少しだけ柔らかくなった。
タカヤは十隻の潜水艦を見渡した。
「まずは皆さんお疲れさん。」
その一言だけだったが乗組員たちの表情が少し緩む。
「今回の戦いで一番危険な仕事を任せた。」
タカヤは続ける。
「敵艦隊の真下まで潜り込んで攻撃するなんて、普通なら無茶や。俺にはとてもできないな!」
何人かの乗組員が照れ臭そうに笑う。
港の奥に停泊する潜水艦を見つめる。
「君らのお陰で、敵艦隊は大混乱になった。アルタイルも助かった。ノアも無傷だ!本当にありがとう。」
再び頭を下げた。神帝が乗組員へ頭を下げる。
その光景に若い隊員たちは目を丸くしていた。
「そんな…神帝様!」
一人の艦長が慌てて声を上げる。
「神帝さま!頭を上げてください!」
ウォンはその姿を見つめ、小さく微笑んだ。
(やっぱりこの人らしい、昔から何も変わらない…。)
その時だった。隊列の後ろから誰かが手を挙げる。
「し、質問いいですか!」
若い乗組員だった。
「ん?」
「ほ、本当に…ボーナスは出るんですか?」
「「「あっ……。」」」
周囲の乗組員が一斉にその隊員を見る。
アイズが吹き出した。
「やっぱりそれか。」
モックも笑いを堪えきれない。メインは肩を震わせている。
タカヤは真面目な顔で腕を組む。
「もちろんや。統合司令が言ったんやろ?」
乗組員たちの目が一斉に輝く。
「約束は約束や。撃沈数一位の部隊には特別ボーナス。二位、三位もちゃんとある。全員にも特別手当は出す。」
「「「よっしゃあぁぁ!!」」」
ノア港に歓声が響き笑い声が広がる。
戦争が終わって初めて聞く、心からの笑顔だった。
タカヤもつられて笑う。
「……振り込みは統合司令が帰ってからや。
また次も頼んだよ!」
「「「了解!!」」」
力強い返答が、巨大なノア港いっぱいに響き渡った。
コロニー都市の人工太陽の夕暮れの光が帰還した十隻のS型次元潜水艦を静かに照らしていた。
(続)




