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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十五章 アルタイル防衛戦

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二つの方舟、そして問い


― 二つの方舟、そして問い ―


― アルタイル港


帝神ゼルの遺体は軍により回収され夕暮れの空が海を朱色に染めていた。長く続いた砲煙も少しずつ風に流され宙帝残党兵も投降し港にはようやく静けさが戻り始めている。


海上には二隻の巨大な艦が並んで停泊していた。

一隻は宇宙空母ノア。もう一隻は、銀河を流れる天の川のような美しい艦体を持つベガの誇る星織級超大型宇宙戦艦アマノガワ。


二つの超大型艦が並ぶ光景にアルタイルの兵士や市民たちは言葉を失っていた。


「……すごい。こんな巨大な艦が二隻も……。」


「これが太陽系とベガの力か……。」


港では負傷者の搬送が続き、医療班が慌ただしく動き回っている。その中を、大鉾を肩に担いだ彦星がゆっくりと歩いていた。腹部には厚く包帯が巻かれ、

アイズが隣で呆れた顔で付き添っている。


「だから歩くなと言っているだろ…」


「ハハハ……少しくらい構わん。」


彦星は苦笑しながら前を見るその先には神帝と大神官が待っていた。オリヒメもシオンを伴いアマノガワから降りてくる。オリヒメと彦星は互いに顔を見合わせ、小さく笑った。


「遅かったじゃないか。」


「遅かった?我もそんなに暇では無いのだ…

来てやっただけでも感謝しろ…」


「ハハハ。」


彦星は肩を揺らして笑う。


「本当に感謝している。」


短い再会の後、彦星はゆっくりとタカヤたちへ向き直った。その表情は軍神ではなく、一人の男としての穏やかなものだった。


「神帝達よ。」


「はい。」


タカヤが答える。

彦星は少し考え込むように空を見上げてから静かに口を開いた。


「ひとつ聞かせてくれ。君達は…なぜ帝神と戦わなかった?君達ほどの実力なら、ゼルを倒すことも出来たはずだ。」


タカヤは首を傾げた。


彦星は真っ直ぐタカヤの目を見る。


「あの蹴り一つでそれは理解した。

だが君は最後まで前へ出なかった。なぜだ?」


その問いにアルタイルの将兵もベガの兵士も耳を傾ける。


タカヤは小さく笑った。


「…それはね…簡単な話だよ…」


その場が静まり返る。


「俺が前に出る必要がなかった。それだけ…」


彦星は黙って聞いている。


「戦争っていうのは、強い奴が一人で暴れる場所じゃない。誰を前に出して、誰を温存して、どこで切り札を使うか。それを考えるのも戦争でしょ…」


少し間を置き、口元をわずかに上げた。


「彦星様は『俺ならすぐゼルを倒せた』って言ったよね。それさっき大神官にも言われたの。

その通り…ここにいるノアの神帝なら確実に倒せる相手だったかもね…

ねっ!モック!」


「ちょっ!そんな話私に振るな!」


「ハハハ!ごめんごめん!あと俺が前に出てもさ!誰も成長しないじゃん…」


彦星は目を丸くした。


タカヤは続ける。


「上が強いだけの軍隊なんてすぐに壊滅するよ。軍人は戦場でしか成長できないのだ!と俺は思っている。あとはね。アルタイルを守るんはアルタイルや。

ここは俺の星じゃない来たばっかりの星に何の思い入れも好きな場所もまだ何も無い。」


「俺達はサポートだけ。主役では無い…」


その言葉にイザナが静かに頷く。


「私も同じです。ゼルは私自身が越えなければならない壁でした。誰かに倒してもらっても前には進めません。だから神帝様達は最初から見守っていた。」


「まぁ…」


タカヤは笑った。


「そりゃさ、ちゃんと危なくなったら助けるつもりやったけど。」


ゴヴが肩をすくめる。


「無茶苦茶な上司だ。」


周囲から笑い声が漏れる。


彦星はしばらく黙っていた。


そして大きく笑った。


「ハハハハハ!なるほど!だから君達は強いのか!」


大鉾を地面へ立てる。


「我なら率先して自ら帝神の前に立っている。

だが君達は違う。仲間を信じ任せる。

それもまた強さか。」


オリヒメが優しく微笑む。


「それぞれの国にはそれぞれの戦い方があります。 アルタイルの戦術が悪いと言う事では無い…」


ヒメナもノアから歩いてきて会話へ加わる。


「せや。国を守るんは一人の英雄やない。全国民や」


彦星はゆっくり頷いた。


「……今日だけで私は多くを学んだ。 アルタイルの弱さも知った…」


彼は改めてノアとアマノガワを見上げる。


「我々はまだまだ弱い…だがこれから変わる。私が変えていく…今回の戦争では沢山の仲間を失った。

死んだ仲間達に笑われないように我は前に進み続ける…」


彦星は地面に落ちていた アルタイル軍旗を拾い大空に掲げる。


その旗と彦星の姿を見た神帝タカヤはボソッと呟く。


「英雄か…間違っても俺はそんなものにはなりたくないね…」


タカヤは地面に落ちていた宙帝軍旗を踏まぬよう静かに避けると何も言わずノアへ向かって歩き始めた。


「戦争なんて…俺が早く終わらせるよ…そっちで見ていてね…ロン…」


誰に聞かせるでもない小さな独り言だった。

その背中を他の神帝や大神官たちが静かに追う。


お祭り騒ぎの港には再び穏やかな潮風が吹き始めていた。


十五章・完

十六章へと続く…






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