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ノア・アーク ― 神々と人が生きる方舟 ―  作者: ヤノチャン
十五章 アルタイル防衛戦

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深淵の終焉


― 深淵の終焉 ―


― アルタイル陸上戦最前線


黒い瘴気が戦場を覆う。崩れ落ちた湾口施設の瓦礫が音を立てる中、ゼル・アビスはゆっくりと立ち上がった。額から血が流れ黒い軍服には土埃が付いている。


「…今のは何だ…何が起きたと言うのだ…あり得ん…

我が…蹴り一つで吹き飛ばされるなど…。」


瓦礫から這い出て空を見上げゼルは腹部へ手を当てた。鈍い痛みが残っている。


「神帝タカヤ…お前は何者だ…お前はなぜ戦わない…。」


ゆっくりと視線を向ける。

タカヤは身体に波動を纏いながらどこか力を抜いた表情で立っていた。


「イザナさん。」


「はい。」


「好きなだけ暴れてきや。ここを超えると君は最強になる…多分ね…」


イザナは静かに頷く。


「ありがとうございます。」


黒鎌を肩から下ろす。巨大な刃が夕日に照らされ、不気味な光を放った。イザナはゼルを睨み付ける。


「さぁ…早く立ち上がりなさい…」


ゼルは静かに立ち上がり刀を構える。


「さぁ…来い。」


その瞬間ドォン!!っと地面が爆ぜイザナの姿が消えた。そのスピードはとてつもなく早く一般の兵士には見えやしない…


ギィィィィン!!


黒鎌と深淵の刀が激しくぶつかり合い火花が雨のように飛び散る。互いに一歩も退かない。イザナは低い姿勢から黒鎌を振り上げる。


「葬刃。」


ザンッ!!ゼルの脇腹を浅く裂く…しかしゼルも負けてはいない。


「甘い。」


深淵の刀が返すように振るわれイザナは紙一重で躱すが左肩が僅かに裂け鮮血が舞う。二人は一度距離を取った。


戦場が静まり返ったその時だった。


「待たせた。」


その低く力強い声に全員が振り向く。そこには大鉾を杖代わりに立つ一人の男…腹部から血を流しながらも、その瞳は死んでいなかった。


八代目軍神彦星


「彦星様!」


アルタイル兵たちの歓声が上がる。


アイズが慌てる。


「こらっ!まだ動くな!死ぬぞ!」


彦星は小さく笑う。


「ハハハ、この星は我々の星だ…

軍神が寝ている訳にはいかぬ。」


彦星はゆっくりと大鉾を構えゼルはその姿を見て目を細めた。


「死んだフリでもしていれば後で三羽烏にでもしてやろうと考えていたんだがな。」


「ハハハ!断る。」


彦星は一歩踏み出す。


「先ほどは負けた。圧倒的にな!だが今度は、一人ではない。」


イザナが黒鎌を構える。


「軍神か…寝ていればいいものを…」


彦星は笑う。


「ハハハ!頼もしい。」


タカヤその光景を遠目に見物…隣の大神官オノダ・ノノカに話しかけた。


「どう思う?」


「私はタカヤ様が出ていればこの戦争はもう終わっていると思います。」


「まぁ…そうかもやけどさ…やっぱり自分の星は自分で…嫌い元上司も自分で…ってのが大切だと思うな…」


次の瞬間二人の姿が同時に消えた。黒鎌、大鉾が異なる軌道からゼルへ襲い掛かる。ギィィィィン!!ゼルは深淵の刀一本で応戦する。


しかし。


「ちっ……!」


防ぎきれない。


彦星の一撃を受ければイザナが斬る。イザナを受ければ彦星の大鉾が叩き込まれる。完璧な連携だった。

「双撃。」イザナが低く呟く。

「天槍。」彦星が叫ぶ。


黒鎌がゼルの脚を裂き、大鉾が胸部へ直撃し爆音と共にゼルは大地へ叩き付けられた。


それでも立つ。


「ハァ…ハァ…。」


身体中が傷だらけだったがまだ笑っている。


「素晴らしい…戦術だ…特にイザナ…お前を切り捨てた事…今猛烈に後悔している。」


ゼルはゆっくり目を閉じ再び刀を構える。


「最後の一太刀だ。」


黒い瘴気が極限まで圧縮され空気が震える。

それを見てイザナは黒鎌を構え彦星も大鉾を握る。

三人が同時に踏み込んだ。世界が止まったような静寂。


次の瞬間。ズガァァァァァン!!

眩い閃光が戦場を包む。一瞬誰も目を開けられなかったがその光は数秒で消える。


そこには黒鎌がゼルの腹部を貫き大鉾が胸を貫いていた。ゼルはゆっくりと二人を見た。


「…見事だ。貴様らは明るすぎる…

俺の闇も消えてしまうほどに…」


深淵の刀が手から滑り落ちゆっくりと空を見上げた。

漆黒の瘴気は風に溶けるように消え、久しく見ることのなかった青空が広がっていた。


「やはり明るいのは嫌いだ…負けたよ…イザナ。

いや…アルタイル。」


微かに笑みを浮かべたまま、静かに瞳を閉じた。


「勝者は…貴様達だ。」


その言葉を最後に深淵の帝神ゼル・アビスは立ったまま死を迎える。帝神の戦死で戦場が静まり返った。


ー アルタイル海上


ゴゴゴゴゴゴ……アルタイル沖の海面が大きく盛り上がる。


「な、何だ!」


宙帝艦隊が海を見る。


ザバァァァァァン!!


海を割って現れたのは宇宙空母ノア。艦橋ではヒメナが静かに帽子を被り直す。


「ふぅ…海上は明るいね…」


オダイが号令を掛ける。


「全砲門、開け!」


ミツルギ砲雷長が叫ぶ。


「敵旗艦、ロックオン!アマノガワとの同時攻撃!」


宇宙空間ではオリヒメも静かに命じる。


「全主砲、一斉射。」


次の瞬間ノアとアマノガワ二隻の超大型戦艦から無数の主砲、ミサイル、音速魚雷が同時に放たれた。


まさに飽和攻撃…ネヴァ・アビスは幾重もの爆炎に包まれる。防御、反撃などする時間もない…轟音が宇宙と海を震わせた。攻撃の最中宙帝兵達は帝神の死を知り絶望し膝を付く…


「帝神様が死んだ…ネヴァ・アビスの任務は…ここで終わりだ…みんなここで死ぬのだ…」


艦長は静かに帽子を脱いだ。


「艦長!乗組員達に避難命令を!」


「何を言うか副司令殿…敗北者に帰る場所などない。」


パンッ。


「命令に異を唱える者も同じだ。敗北は死だ…逃げるなんて甘えた事抜かしてんじゃねぇぞ…」


艦長は副司令の死体を踏み付ける。


「艦長…今何と…?」


「我々は今から死ぬのだ…そんな事聞かなくてもいいだろ…」


艦長は拳銃を持ち無慈悲に副官の後頭部に向かって一発撃ち…"宙皇帝様万歳!"と叫び自分の頭に一発撃ち込み自決をする。


ー 宙帝随伴艦


「旗艦、大破!沈みます!」


深淵大艦隊旗艦ネヴァ・アビスは完全に制御を失い、炎を噴き上げながらアルタイルの海へ沈んでいく。

残された随伴艦隊では混乱が広がっていた。


「帝神様との通信途絶!旗艦沈没!」


「撤退だ!逃げろ!」


統制を失った艦隊は次々と反転し、アルタイル宙域から離脱を始める。その光景を見届けたヒメナは、小さく息を吐いた。


(続)


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