大神官の双刃
― 大神官の双刃 ―
― アルタイル陸上戦最前線
「任せて…神帝様…」
そう呟くと、大神官オノダ・ノノカは腰に差した二本の刀を静かに抜いた。
白銀に輝く一振りと漆黒に染まる一振り。
互いに対となる双刀が陽の光を受け静かに輝く。
「あれが…ノアの最高戦力…
大神官が前に出るのか……」
アルタイル兵達が驚きの声を漏らす。
ゼル・アビスは刀を肩に担ぎ興味深そうにノノカを見つめた。
「お前は神帝ではないな。」
「えぇ。」
ノノカは静かに答える。
「私は大神官オノダ・ノノカ… 神帝様を守る剣」
一歩踏み出す。
ドンッ――!!
大地が弾ける。
「なっ……!」
ゼルの瞳が僅かに開く。
速い。先程まで戦っていたイザナとはまた違う。
無駄を極限まで削ぎ落とした一直線の踏み込み。
ノノカは一瞬にしてゼルの間合いへ入り込んでいた。
キィィィン!!
右の刀がゼルの首を狙う。
ゼルは紙一重で避けるが、その瞬間には左の刀が腹部へ迫っていた。
「連撃か。」
ガギィィィン!!
ゼルは黒刀で受け止め火花が戦場を照らした。
「まだですよ。」
ノノカは止まらない。
右、左、右、左と双刀がまるで舞うように襲い掛かる。
「速い!初めて見る違う戦い方だ!
俺たちも大神官様に続け!」
アルタイル兵達は立ち上がる。
重さで押す彦星。力で斬るイザナ。
そしてノノカは最小限の動きで急所だけを狙い続ける。ゼルも次第に防戦へ回り始めていた。
「ほぉ…面白い…」
ゼルは小さく笑う。
その瞬間ノノカの右刀がゼルの頬を浅く裂いた。
ピッ……一筋の血が流れる。
周囲が静まり返る。
「帝神様が…傷を…。」
宙帝兵が震える声を漏らした。
ゼルは指先で血を拭いその赤を静かに眺める。
「まさか我に傷をつけるとは…。」
口元がゆっくりと吊り上がる。
「これじゃあの大鉾の帝神ヴァルケイン の方が強いわね…」
ノノカは刀を構え直す。
「貴方はあまり現場には出てこなかったのかしら?」
その言葉にタカヤは少し笑った。
「ノノカ…誰も煽れとは言ってへん…」
イザナも腕を組み頷く。
しかし次の瞬間ゼルの周囲を漆黒の霧が渦巻き始める。
ゴォォォォ……
空気が重くなり戦場全体が深い闇に包まれていく。
「大鉾の帝神ヴァルケイン …懐かしい名だ…
あの最弱と一緒にするでない…」
ゼルは静かに刀を握り直した。
「大神官よ。」
その黄金の瞳がノノカを射抜く。
「我はヴァルケイン のように甘い人間ではない!」
ドンッ!!
爆発的な踏み込みで今度はゼルの姿が消えた。
甲高い金属音が戦場へ響く。
ギィィィィィン!!
ノノカは咄嗟に双刀を交差させその一撃を受け止める。
しかし…
「くっ……!」
両足が地面を削りながら何十メートルも押し込まれる。大神官の額を一筋の汗が流れた。
ゼルは静かに笑う。
「ハハハ!受け止めるか……!
さすが大神官と言うだけの事はある。」
ノノカも笑みを浮かべる。
「ふんっ…まだ終わりませんよ。」
再び二人は同時に踏み込み双刀と深淵の刀が激しくぶつかり合った。
― ノア艦橋
「司令!反撃を開始します!」
管制官の声が艦橋へ響く。
「宙帝艦隊、随伴艦をロックオン!
S型次元潜水艦より音速ミサイル攻撃を開始します!」
ヒメナは司令席にもたれたまま小さく頷いた。
「あぁ…了解。」
そして少し考えるように笑う。
「潜水艦部隊に伝えて。一番多く沈めた部隊には特別ボーナスや。」
通信士が振り向く。
「はい!」
艦橋に小さな笑いが広がる。
(また始まった……。)
シャルル副司令が苦笑する。
「ヒメナさん戦争ですよ?」
「それがどうした。」
ヒメナは肩をすくめた。
「危険な仕事をする人には、それ相応の報酬を払わんとな。」
「…まぁ…了解。」
通信士は笑いながら送信ボタンを押した。
『全S型次元潜水艦へ、統合司令より通達。
敵艦撃沈数第一位の部隊には特別ボーナスを支給する。以上。』
数秒後各潜水艦から一斉に返答が届く。
『一号艇、了解!』
『二号艇、絶対もらいます!』
『三号艇、負けるか!』
『八号艇、旗艦も沈めたら上乗せあります?』
艦橋は思わず笑いに包まれた。
「欲張りやなぁ。旗艦は別枠や。」
『了解ッ!!』
通信が切れる。
― アルタイル・海底
深海に潜む十隻のS型次元潜水艦。
静寂に包まれた海底で、艦長たちは同時に攻撃命令を受領していた。
「よし…仕事の時間だ。」
一号艇艦長が静かに呟く。
「全魚雷発射管音速ミサイル装填。」
「装填完了。」
「発射管一番から八番まで開放。」
「開放!」
艦首のハッチがゆっくり開く。
「目標、宙帝艦隊随伴艦。」
艦長は右手を振り下ろした。
「撃て。」
ゴォォォォッ!!
海中から無数のミサイルが射出される。
海面へ向かって一直線に上昇。
次の瞬間、水柱を突き破って空へ飛び出した。
白い飛沫を引き裂きながら一斉に宙帝艦隊へ向かう。
― 宙帝大艦隊
「海中より飛翔体!」
観測員が叫ぶ。
「何だと!?」
「対空ミサイルです!」
艦隊司令が立ち上がる。
「迎撃しろ!」
「無理です!数が多過ぎます!」
ドォォォォン!!
先頭を飛ぶ護衛艦に命中。
海中から飛び出した音速ミサイルは、空中に展開する宙帝艦隊へ雨のように降り注いだ。
「高速接近!次が来ます!」
次の瞬間。
ズドォォォォン!!
一隻の護衛艦中央部で巨大な爆発が起こる。
「左舷被弾!機関停止!」
さらに別方向から。
ドォォォォン!!
爆発が連鎖していく。
― ノア艦橋
「命中確認。随伴艦六隻撃沈。三隻大破。」
報告が次々と上がる。
「ええ感じや。」
その時、新たな報告が届く。
「司令!深淵大艦隊旗艦ネヴァ・アビスが動きます!」
「続けて報告!ネヴァ・アビスに何者かが放射砲撃!」
「えっ?誰?潜水艦?」
「いえ!違います!」
アマギがモニターを見つめ笑みを浮かべる。
「この反応は…アマノガワ…」
「アマノガワ?」
艦橋の空気が一変する。
(続)




